新しい金融のカタチを考える① ー 現代金融システムを振り返る

 金融って、デジタル対応が遅れて、UI/UXが悪くて、ユーザー目線になっていないといったことはよく聞かれる話になってきたと思いますが、こうした課題を解決しようとすると、金融システムそのものをもっとシンプルなものにし、ただただユーザーと向き合える環境をまず作らないといけないんじゃないの?そもそも根本的に金融システムを刷新することはできないの?って思っています。

 考えてみると、、この数年「Fintech」はある種のブームとなっているけど、顧客体験を圧倒的に改善するとか、ビッグデータの利活用を促進するとかのまにとどまっていてはいけない(これはこれでものすごく大事)。Fintechに関わる全員で、「金融システムそのものを再構築する」という視座をもって、令和は取り組んでいかないといけないなって改めて思っています。

 やっぱり、預金金利0.001%っておかしくないですか?マイナス金利だからしょうがないと思うかもしれないけど、預金にもリスクがあります。なによりも、この0.001%の金利を生み出すために、実体経済は「銀行恐慌」が起こるリスクを抱え、それを最小化するための複雑な銀行規制を守ることに莫大なコストと労力をかけているのって、若干意味不明な気がする。もはや費用対効果に合わない存在のバンキングを本当に維持し続けなくてはならないのか?

 これから数回に分けて、現代の金融システムの問題点と新しい金融システムのあり得る姿についてアイデアを整理したいと思います。これから書くことは僕のオリジナルでもなんでもなくて、特に以下の本を多分に参考にしています。詳しくはぜひ下の本をご一読することをお勧めします!(最後にコメント付きで紹介してます。)

<参考図書>
・「ジ・エンド・オブ・バンキング 銀行の終わりと金融の未来」
・「錬金術の終わり 貨幣、銀行、世界経済の未来」
・「金融に未来はあるか――ウォール街、シティが認めたくなかった意外な真実」
・「アントフィナンシャル――1匹のアリがつくる新金融エコシステム」

 まず今回は、現代の金融システムの根幹をなすバンキングって何なのか?ということを整理したいと思います。

銀行とはなにか?

銀行の由来:保管人
 「銀行(bank)」という言葉は、「テーブル」という意味の古代イタリア語「banca」から来ている。初期は、お金のやりとりはすべてテーブルの上で行われていたからだ。お金のやりとりからやがて保管人と呼ばれる人が登場し、保管人は顧客からゴールドや硬貨を預かり、顧客の代わりに支払いを行う業務をするようになった。
 こうしたサービスは当時の顧客の生活を圧倒的に便利にした。例えば、ある人が船を買いたいとする。こうしたサービスができる前は、わざわざ金庫から金貨を持ち出さなければならなかったし、造船所のオーナーも金貨を受け取り、さらにそれぞ預けにいかなければならなかった。しかし、今や必要な額を顧客の口座から引き出したことと、それを造船所のオーナーの口座に移したこと、このたった2つのことを帳簿に書き込むだけで済むようになった。

 上記は保管人が支払いサービスを提供する例だが、実は銀行がその役割を担う理由は実は明確ではない。ただお金を預かるだけの保管人の業務と、銀行が顧客からお金を預かる「預金契約」は、根本的に異なるからだ。銀行は保管人ではない。銀行はただ預かるだけでなく、預かったお金を融資に回している。預金者であるあなたは、銀行にお金を貸しているのだ。この場合、僕たちが貸し手で、銀行が借り手ということになる。

伝統的な銀行の役割
 保管人と異なり、銀行は価値保存機能、送金/決済機能に加えて、融資機能(信用取引)を提供している。この信用取引を成立させるためには、「情報の非対称性」と「ニーズのミスマッチ」を解消する必要がある。

「情報の非対称性」 情報の非対称性とは、「借り手のほうが貸し手よりも多くの情報を持っている」ということで、通常貸し手は騙されてないか?本当に貸していいのか?という不安に常にかられてしまいなかなか貸すことができない。このような不安を取り除くために、銀行は借り手から定期的に一定の情報提供をしてもらい、プロの目でレビューすることで可能な限り情報格差をなくしている(これを「モニタリング」と呼ぶ)。

「ニーズのミスマッチ」 借り手の希望は、元本が大きく、満期までが長いローンである。そしてそのお金で、リスクのある投資を行う。一方で貸し手の希望は、元本が小さく、満期までが短いローンである。そしてそのお金はリスクが低く確実に戻ってきてほしい。

 銀行は、金融資本の「元本額」、「満期」、「リスク」を変換することで、この「ニーズのミスマッチ」を解消している

 つまり、銀行は、「少額」で「満期の短い」の債務を借りて、「多額」で、「満期までが長く」リスクのある、債権を持ちつつ、貸し手に対して「モニタリング」を行うという役割を担うことで、ニーズのミスマッチと情報の非対称性を解消し、信用取引を成立させている。これが銀行の主たる役割であると言える。

信用取引からマネーを創造する

 家計から信用取引の貸し手となるようにお金を集めるためには、想定元本は小さいほどよく、想定満期は限りなくゼロに近く、リスクもないほうがよい。こうして生まれたのが、満期ゼロで、いくらからでも預けることができ、リスクが低い、「預金」である。

 銀行による3つの変換があまりにもうまくいっているので、預金者は信用にまつわる諸問題をほとんど考えなくてもすむようになった。預金者である僕たちのほとんどは、自分が「貸し手」であるということをまったく意識していない。 預金とは銀行にお金を貸すということであるはずが、私たちは貸し倒れの心配をまったくしていない。情報の非対称性のことも、信用リスクのこともまったく考えず、貸したお金をいつでも引き出して使えることが当たり前だと思っている。

 つまり銀行に預けたお金は、"手元の現金と同じくらい安全"だと認識される。このことがまさに、「信用取引からマネーを創出する」ということになる。

バンキングの構造的問題

 バンキングによって貸し手と借り手のニーズを一致させることができるが、そこには流動性リスクが存在する。銀行は長期の融資を実行して内部貨幣を創造するが、その結果として、預金者の引き出し要求に応じられなくなるというリスクも抱えることになる。この流動性リスクは、バンキングの最大の弱点だ。

 たいていの場合、流動性リスクが現実になることはない。銀行は外部貨幣の形で準備金を保有しているので、預金者の引き出しに応じることができる。普通の状況であれば、準備金だけで十分。しかし、銀行にとって、短期間で引き出しに応じられる額には限度があり、準備以上の額が引き出されたら、銀行は流動性がない状態になる。流動資産の準備金がなくなった銀行は、過去に実行した長期の融資の債権など、非流動的な資産も売却しなければならなくなる。しかし、長期の融資を売るのは難しい。買い手は、その融資の中身をよく知らないからだ。そのため、銀行は値下げを余儀なくされ、損失を出すことになる。その結果、引き出し要求に応じるだけの十分な現金も集まらない。引き出し額が増えれば、銀行はいずれ破綻することになる。

 たとえ破綻を免れても、銀行は恐慌の間、融資をストップして現金の蓄えを増やそうとするので、内部貨幣の創造ができなくなる。その結果、世の中に流通するお金の量が減り、物価が下落する。この物価が下落するという状態はデフレと呼ばれている。物価の下落により実体経済における経済活動がますます停滞し、信用とマネーの崩壊という悪循環がさらに加速してしまう。

 バンキングが金融システム全体で重要な役割を占めているからこそ、銀行恐慌が非常に大きな影響をもたらすことになる。

世界金融危機(リーマンショック) 

 先般の世界金融危機も結局は同じことに起因している。世界金融危機の原因を、「証券化」と「銀行員の強欲さ」だと考えることが多い。しかし実際には、「証券化」そのものには何の罪もない。「証券化」の仕組みは、理論上間違いなく、金融機関がリスクを分散し、リスクプロファイルをより厳密に選び、リスク管理を向上させるのを可能にする。そしてそのことは金融機関の頑健性を高める。ただ、「適切なリスクプロファイル」について理解できるプロフェッショナルなんてほとんどいなかっただけで。。。

 もっと本源的な問題は、銀行業が始まったその日から起こり続けてきた「金融危機」の原因と同じで、「取り付け騒ぎ」に過ぎない。これまでとの違いは、デリバティブが発展したことだった。バフェット氏が「金融市場の大量破壊兵器」と称したこの金融商品は現資産(実体経済)と切り離されて商品開発ができるため、金融機関間で取引が急激に拡大した。その結果、リスク量も未知の規模にまで膨れ上がり、それに応じて金融危機の影響も巨大となった。

 要するに、なんとなくの信頼感に基づいて、僕たちは「預金」ないしは「バンキング」という仕組みを使っているけど、これを維持するために莫大なリスクを負っているということです。これは金融工学がどれだけ高度化しようと変わることはない。そのことはゴールドマンサックスのCFOが危機の第一波で傘下のヘッジファンドの一つが損失を出した後に述べた次の言葉に表れている。

「25標準偏差の値動きが数日間連続して起こっていた。」

 これは、130億年に1回以下、つまり宇宙が誕生してからいままでに1回もないことが起きたと同社のリスクモデルは評価しており、リスクモデルとしてはほぼ機能していなかったことを意味します。数々の金融的技法は複雑性を増したが現実世界の金融システムを頑健にすることはできなかった。こうした事象が生じた時、今のところ僕たちはなすすべがない。僕たちは今本当にこのリスクを抱えるほどの便益をバンキングから享受しているのか、改めて考える必要があるのだと思います。次回以降、バンキングなきあとのあり得る金融のカタチを考えてみたいと思います。
 

<参考図書>
「ジ・エンド・オブ・バンキング 銀行の終わりと金融の未来」ジョナサン・マクミラン (著)
 -匿名の人が書いた本。あまり有名ではないが、この手の本の中でもっと素人向けに非常にわかりやすくまとめられており、下の2冊を理解するうえでのベースができる本

「錬金術の終わり 貨幣、銀行、世界経済の未来」マーヴィン・キング (著)
 -世界金融危機を収拾した立役者のひとりであり、「錬金術師」とも呼ばれた元イングランド銀行総裁が書いた本。金融システム論とマクロ経済学を行き来する超刺激的かつ超長い本

「金融に未来はあるか――ウォール街、シティが認めたくなかった意外な真実」ジョン・ケイ (著)
 -日本のコーポレートガバナンスコードも参考にした「ケイ・レビュー」を発表したエコノミストが書いた本。原題である「Other People's Money」がしっくりくる内容。仲介者は不要で、運用者

「アントフィナンシャル――1匹のアリがつくる新金融エコシステム」廉薇 (著), 辺慧 (著), 蘇向輝 (著), 曹鵬程 (著)
 -アントフィナンシャルについての情報が体系的に吸収できる本。「QR決済」や「余額宝」は表層に過ぎず、彼らの全く新しい金融エコシステムを作ろうとしている姿を知ることができます。

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