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N国党の立花氏に「脅迫罪」は成立するか

先日、N国党(NHKから国民を守る党)の立花氏が、警察から「脅迫罪」の容疑で任意に事情聴取された、というニュースが流れました。

これに対して、どうやら立花氏は「脅迫罪」の成立を争うようであり、立花氏は「私が今日お願いした弁護士さんは正当防衛みたいなものと言っていた。」などと述べています。

また、立花氏は、(大雑把にまとめると)『「脅迫」の内容は名誉毀損であり、相手が公人(議員)だから名誉毀損は成立しないので、脅迫罪も成立しない』という「見解」も述べているようです。

立花氏は有罪になったら議員を辞めると述べているところであり、立花氏の行為について「脅迫罪」が成立するかどうかは少なからぬ国民の大きな関心事ではないかと思われます。

そもそも「脅迫罪」とは何なのか。どのような場合に成立するのか。
このあたりの理解がなければ、立花氏の言い分が法律的に正しいものかどうか理解することはかなり難しいと思います。

そこで、このnoteでは、国会議員である立花氏が任意で取り調べを受けている刑事事件が国民の関心事となっていることに鑑み、この事件の法律的評価や、この事件で問題となっている「脅迫罪」という犯罪類型について理解を深めていただくべく、報道されている事実関係等をベースに、果たして脅迫罪が成立するのかについて、私の「法律的な見解」を述べたいと思います(*)。

*法律の解釈論に「絶対解」はありません。法律番組で複数の弁護士の見解が分かれる場面は見たことのある人も少なくないと思います。もし、立花氏の行為について脅迫罪が成立する可能性が低いと考えている法律専門家(弁護士、裁判官、検察官)がいらっしゃいましたら、ご教示ください。

なお、報道されている事実関係が誤っている場合もありますし、私は、報道やネットで拾える以上の事実関係は知りません。

このnoteでは、とりあえず報道されている事実関係が真実だと仮定した場合に、法律的にどのような判断がなされるのかについて私見を述べるものであること(法的見解の表明)を、あらかじめお断りしておきます。

1 脅迫罪とはどういう犯罪なのか

まずは、脅迫罪の条文を見てみましょう(刑法222条)。

生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30年以下の罰金に処する(1項)。
親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする(2項)。

脅迫罪にいう脅迫は(生命、身体、自由、名誉又は財産に対する)「害悪の告知」(害を加える旨を告知)です。

解釈上、この害悪の告知は、相手を畏怖させることができる程度のもの(怖がらせることができる程度のもの)であることが必要とされています。

勘違いしている人もいますが、お金を要求する必要はありません。
ただ人を怖がらせる程度の害悪の告知を行えば、それだけで脅迫罪は成立します。

相手方が現実に怖がる必要はありません。
害悪を告知するだけで、ただちに成立してしまうのがこの犯罪なのです。

なんでこんな犯罪があるのでしょうか。

殺人であれば人の命を守るため、窃盗であれば人の財産を守るため、といったようにイメージがつきやすいのですが、脅迫罪は少しイメージがわきにくいかもしれません。

脅迫罪は「意思決定の自由」を守るために設けられた犯罪と考えるのが通説です。

人は自由に意思決定をすべき存在です。

しかし、「脅す」「怖がらせる」という行為がなされると、怖いので自由に意思決定ができません。「あの人には逆らわないようにしよう」と考えてしまうわけです。

それでは困るので、脅迫罪が設けられていると考えられています。

告知される害悪の内容は、相手方の性質および四囲の状況から判断して、一般に人を畏怖させるに足りる程度のものでなければならない、とされています。

要するに、一般人が、言われた者の立場に立った場合に、「普通は怖がるよね、これ」と言えるような内容であれば、脅迫罪の成立要件としての「害悪の告知」として十分だということです。

誰が、いかなる文脈で言っているかも大変重要です。

例えば、学校の先生に「夜道に気をつけてください」と言われても全く怖くありませんが、暴力団に強い口調で「夜道に気をつけてください」と言われたら怖い。そういうことが判断の考慮要素になるということです。

例えば、敵対する相手方に「出火お見舞い申し上げます」と書いたハガキを出した場合には「脅迫」にあたると判断されています。「お見舞いを書いただけだ」といった弁解は通らないわけです。

2つの例を挙げましたが、この例に挙げられているとおり、脅迫罪は「直接的な表現」でなくても成立します。「出火お見舞い申し上げます」で十分脅迫になるわけで、「お前の家に火をつけるぞ」と言わなくても脅迫罪は成立し得ます。

2 立花氏の行為とその性質について確認する

立花氏は、令和元年7月3日、YouTubeに次の発言を含む動画をアップしたとされています(ア〜コの記号は便宜的に付けました)。動画のターゲットは国会議員(もとN国党)の二瓶氏です。

この親子はですね、最初からNHKから国民を守る党からですね、立候補して当選を目的にして、当選したら知らん顔しようと決めてたんですよね。
何らかの言い訳をつけてですね、何だろう、正当な理由をつけたフリをして、うちの党から辞めようとしていたことはもう明らかで、でも、この親父の方はバカすぎてですね、こんなんもうどうでもいいですわ。(ア)親父の二瓶文隆、こんなのはどうでもいいですわ、これ。あの、これはね、もうどうせオッサン、歳も歳やし、こんなの仕事できへんようにしてやるだけなんで、えー、とことんかかってこいよ、二瓶タカフミ。文隆、それはもういいわ。で、(イ)この息子の方、25歳。えー、コイツの方が将来があるんで、徹底的に潰しに行きます。
こんなものね、あの親父の言いなりなんで、コイツはべつにあの税理士でも何でもなくて、あの親父の言いなりになっている操り人形でね、で、(ウ)一言も何のですね、えー、お世話になりましたとか一言もなく無視して出て行くんですよ。あのね、何だろう、本当にそういう言いたいことがあるんだったら言うべきですよ、コイツ、政治家なんだから。お世話になりました、ふくりすることに対して、ね、立花のオマエのこういう所が気に入らないんだとか言やぁいいじゃん。何も言わずに、選挙で当選をね、NHKから国民を守る党で当選だけして、で、当選したら知らん顔して、俺もう許さないですからね。親父の方は先がないからアレだけど、(エ)これ25歳の二瓶文徳は、これからもね、徹底的に叩き続けますから。
(オ)俺、奥さん、この子のお母さんも彼女も知ってますよ。
(カ)徹底的にコイツの人生、僕は潰していきますからね。
(キ)二瓶親子、特に息子。覚悟しとけ。許さんぞ、ボケ。俺、どんだけ怒ってるかわかってるか?
(ク)あのな、ほんまにどれだけ怒ってるか分かってるか、こら、二瓶親子。オマエら。二人揃ってな、ええ加減にせえよ。何が保守じゃ、ボケ、こら。文句あんだったらいつでもかかってこい。
国民騙してな、中央区民や江東区民を騙くらかしてな、NHKから国民を守る党でNHKの被害者守る言うといて、それをせんとやな、わけのわからん理由こいて、何が保守やねん。(ケ)徹底的にシバくからな、以上や。NHKをぶっ壊す、そして、二瓶ふみ・・・なり、文徳か。名前も忘れたが、二瓶文徳か。中央区。親父はもうどうでもええ。こんなん来ても相手せえへん。親父から電話かかって来ても俺は出えへんぞ。息子、二瓶文徳。
なあ、オマエもな、25になって、親父の言う通りにやるんやったらな、(コ)オマエが謝罪して来んのやったら俺はオマエの攻撃はやめたる。以上や。二瓶文徳をぶっ壊す!

まずは発言の内容を整理しましょう。

(ア)の発言(父親に触れたもの)は父親に対して何らかの手段を用いて仕事ができない状態にさせることを内容としています。

(イ)の発言は二瓶氏を「徹底的に潰しに行きます」と述べるものです。どのような手段が用いられるのかは明示されていません。

(ウ)の発言からは、二瓶氏が特段の挨拶もなく党(N国党)を離脱したことが立花氏の怒りを買い、それが原因となって今回の発言に及んだことが推察されます。

(エ)の発言は、(イ)の発言と相まって、今後、立花氏による攻撃が続くのではないかと聞き手に感じさせます。

(オ)で「この子のお母さんも彼女も知ってますよ」という発言が入っていますが、これは聞き手に「お母さん」や「彼女」にも何らかの危害が及ぼされるのではないかと感じさせるに十分です(立花氏の意図は関係ありません。この発言を聞けば、聞き手が一般的にどう理解するかがポイントです)。

(カ)の発言はかなり重要です。「徹底的にコイツの人生、僕は潰していきます」とありますが、「人生」は仕事に限りません。

この発言からは、二瓶氏の議員としての地位に限らず、立花氏が二瓶氏に多種多様な攻撃を加えてくるのではないかと受け手に十分感じさせ、受け手を怖がらせるものです。

しかも、この発言の直前に立花氏は「お母さんも彼女も」という発言を行なっています。このような周囲の人間関係(二瓶氏の人的資産)も含めた「人生」に対して立花氏が危害を加えようとしている、と聞き手が受け取ってもやむを得ない発言だと考えられます。

(キ)の発言は、今般の発言が立花氏の怒りの感情に起因してなされたことを推察させます(公益目的というよりは、感情的なふるまいと理解される)。

(ク)の発言も同様です。

(ケ)の発言も私は重要だと思います。「しばく」という言葉は、辞典(三省堂 大辞林 第3版)によると「むちや棒で強く打つ。たたく。」と出ており、身体や自由に対する何らかの危害を連想させます(繰り返しになりますが、立花氏が真に身体的危害を加える意図を有していたかどうかは関係ありません。受け手がどう感じるかが大切です)。

(コ)の発言は、発言者(立花氏)が個人的な謝罪を要求していることをうかがわせます。この点からすると何らかの「公益目的」(公の利益になる、という意味)で立花氏が一連の発言をしたのか、という点には疑問があります。

以上、発言内容を整理しましたが、皆さんはどう感じますか。

二瓶氏が実際にどう感じたかはさておき、一般的に、このような言葉を投げかけられたら畏怖する(怖がる)のではないでしょうか。

脅迫罪にあたるかの一番重要な要素は上記発言の内容だとおもいますが、内容以外の事情も重要です。

まず、動画における立花氏の語気は相当荒いもので、怒りの感情が強いように感じられます(このnoteに動画のリンクを貼ることは差し控えますが、9月14日現在、検索すれば容易に見つけられます)。少なくとも、立花氏が上記内容を冗談で発言しているようには思えない、と感じるのが一般的感覚でしょう。

また、立花氏の属性や(一般的な人が捉える)性格も重要です。

まず、立花氏が国会議員であり、政党の党首であること、数はともかく一定数の熱烈な支持者がいること、多くのチャンネル登録者がいるYouTuberであり、ネット上で一定の扇動を行い得る力を持っていることが指摘できます。

拡散力は相当強いので、受け手にとって、何らかの「名誉」を毀損されるおそれがあると考えるのは当然のことだと思われます。

なお、立花氏は、YouTubeにおいて、二瓶氏の住所と電話番号も公にしたところであり、これにより、二瓶氏にこの件に関する電話が殺到したとの報道もあります。このような事実があれば、なおさら二瓶氏において畏怖する=怖がるのは当然と言えるでしょう。

また、立花氏は目的のためなら手段を選ばないところがある人物だと理解されます(これは、彼自身がそう発言しています)。

このことは、一定の者を「私人逮捕」として拘束したり、マツコデラックスを訴えると発言して原告団を募ったり(なお、マツコデラックスへの訴訟問題については、別途、法律解説をしようと考えています)、といった各種行動からもうかがえます。なお、「私人逮捕」については、N国党に関連して、市民メディアの記者2名が大きな傷害を負った事件が報道されていることも見過ごせません(立花氏の行為ではありませんが、立花氏がこの政党の党首である、ということは考慮要素になると考えます。)。これは身体や自由に対する加害を内容とする報道です。


さらに、立花氏は、過去、ツイッターにおいて次のツイートの画像に記載されたような投稿をしていたという事実が明らかになっています。これも、身体や自由に対する加害を連想させる要素となるでしょう。


このような過去と今般の発言内容を合わせると、受け手である二瓶氏が二瓶氏あるいはその母親の名誉のみならず身体、自由に対して「本当に何かをしてくるかもしれない」と感じて畏怖しやすい状況が生じていると言えるでしょう。

また、年齢で言えば、二瓶氏より立花氏がはるかに上ですし、いわば同じ政党に所属していた上司です。

以上を踏まえ、あらためて考えてみてください。

以上のような属性、性格を有すると理解される立花氏が、今回アップロードされた発言を、動画上で、語気を荒げて行った場合、言われた側は怖がる(=畏怖する)のが普通ではないでしょうか。名誉を毀損されるかもしれない。押しかけてくるかもしれない。押しかけられたらしばらく家から出られないかも知らない。胸ぐらを掴まれるかもしれない。押しかけてくるのは立花氏だけでなく、支持者が相当押しかけてくるかもしれない。それくらいのことを感じてもおかしくないと思いませんか。

3 脅迫罪は成立するか

以上を踏まえると、立花氏の上記動画は、二瓶氏に対して、婉曲的に、二瓶氏あるいはその親族の名誉、自由、身体に対する害悪を加えることを告知して、二瓶氏を脅迫するものと理解することができ、これをアップロードした立花氏の行為については二瓶氏に対する脅迫罪が成立するものと考えます。

これに対して、立花氏は、脅迫はしたが「脅迫罪」は成立しないと主張し、その理由として、


(1)二瓶氏に対して告知した害悪は「名誉」についてのものである、
(2)二瓶氏は公人であり、公人については真実である限り名誉毀損罪が成立しない
(3)犯罪にならないことを告知しただけだから、脅迫にならない

といった趣旨のことを述べています。

立花氏の(2)の主張は名誉毀損罪についての次の条文を意識しています。

第230条の2
1. 前条第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2. 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3. 前条第1項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

要するに、二瓶氏の事実についてあれこれYouTube等で公表することについては上記条文によって名誉毀損罪が成立しない。だから、立花氏は「適法」な行為をすることを告知しているに過ぎないのであり、そのような場合に脅迫罪は成立しないのではないか、というのが立花氏の主な主張なのではないかと思われます。

立花氏は「議員同士なんだから」といった趣旨のことも述べていますが、この主張も法律的に構成すると、上記(1)(2)(3)のような主張になります。

しかし、私は、この主張にはかなり無理があると考えています。理由は3つです。

<立花氏の主張が通らないと思う理由1>

まず、立花氏がYouTubeでアップロードした今回の発言全体について、害悪の告知が二瓶氏に対する「名誉」に関するものだけであると捉えるのは常識的ではありません。

人生をつぶす、しばくなどの発言それ自体から、どうして「名誉」に限定した害悪の告知と捉えることができるでしょうか。特に、「しばく」という表現は身体への危害を前提とした表現です。

立花氏が二瓶氏に対面することは少なくとも今回のアップロード当時において可能であったはずであり、身体に対する一定の危害や自由への危害が加えられるかもしれないと受け手(二瓶氏)が感じても無理はありません。

しかも、立花氏は過去において「私人逮捕」してよいなどの「見解」を発表してNHKの委託職員を「私人逮捕」していること(なお、この「私人逮捕」は要件を満たしておらず違法と考えます)、N国党において記者が傷害を負うといった事件が起こっていること、立花氏が過去に「私はテロを起こす計画を」「テロします」などの発言をしていること等の背景を踏まえると、なおさら受け手が「名誉」のみならず「身体」や「自由」に対する危害を加えられるだろうと感じて畏怖する可能性は高まります。

以上から、立花氏の発言は、全体として、名誉のみならず、二瓶氏の身体や自由に対する害悪の告知としても理解するのが妥当ですし、私は、司法の場でそのように判断される可能性が高いと思っています(想定しにくいですが、もし捜査機関が「名誉」に対する害悪の告知のみを想定して捜査しているなら、捜査の方向性を見直すことをおすすめします)。

したがって、前提として、立花氏が「適法行為」(公務員についての真実の開示であって名誉毀損罪が成立しない)を告知したにすぎないという立論に無理があります。

<立花氏の主張が通らないと思う理由2>

第二に、発言内容に二瓶氏の母親が含まれている点です。

脅迫罪は「親族」への害悪の告知であっても成立します。

前述のとおり、発言内容には二瓶氏の母親が含まれています。立花氏の発言内容を聞いた場合、母親にも<理由1>で述べた範囲の害悪(名誉、身体、自由)が加えられると受け手が理解するだろうと思われます。

もう一度、母親のくだりの前後の発言を取り出してみます。

(エ)これ25歳の二瓶文徳は、これからもね、徹底的に叩き続けますから。(オ)俺、奥さん、この子のお母さんも彼女も知ってますよ。
(カ)徹底的にコイツの人生、僕は潰していきますからね。

徹底的に叩き続ける、人生をつぶす。
そのような発言の間に「この子のお母さんも彼女も知ってますよ。」という内容が入っています。

発言の受け手が「母親や彼女にも何かあるかも」と感じるのは当然ではないでしょうか(そして、自分に危害が加えられるより、自分の大切な人に対して危害が加えられることのほうが怖い、という感性を持つ人はわりといるのではないかと思います)。

立花氏は、自らの発言に「母親」や「彼女」を出したことについて他意はないと述べていますが、私はこの弁解には無理があると感じています。

暴力団があなたを脅しているときに、その文脈のなかで「実はお前の恋人のことも知ってる」という発言をしたと考えてみてください。それでも「恋人に対する害悪は告知していない」という弁解がとおるでしょうか。

立花氏の発言にも、構造上、類似の問題が含まれているのです。

そして、母親については、立花氏が「議員同士だから」「適法行為の告知だから」として述べている主張全体がおよそ成立する余地がありません。母親は議員ではないからです。

立花氏の動画については、親族たる母親に対する害悪の告知が含まれているとみるべきなのです。

<立花氏の主張が通らないと思う理由3>

第三に、仮に、立花氏の発言が二瓶氏に対する「名誉」への害悪の告知のみであり、二瓶氏についての何らかの事実を公表することが適法(名誉毀損罪が成立しない)としても、脅迫罪は成立します。

もともと、「適法行為の告知により脅迫罪は成立するか」という論点は刑法の問題として昔から議論されていますが、適法行為の告知によっても、人を怖がらせることは可能ですし、判例にも、適法行為の告知を脅迫にあたるとしたものがあります(大判大正3.12.1)。

よって、適法行為の告知だからといって脅迫罪が成立しない、ということにはなりません。

もっとも、適法行為の告知が「権利の行使」として正当な範囲と言えるものであれば、刑法が規定する「正当行為」(刑法35条)として違法性がないものとされる余地があります。

第35条
法令又は正当な業務による行為は、罰しない。

例えば、犯罪被害にあったときに、加害者に対して告訴すると告知しても、それによって犯罪は成立しないでしょう。告訴は刑事訴訟法に規定された正当な権利行使だからです。

しかし、立花氏の行為を正当な権利行使の範囲とみることには無理があります。

まず、発言全体から、立花氏が怒りの感情に起因して一連の発言を行なっていることが理解できますし、謝罪をすれば攻撃をやめるという発言からして、立花氏の意のままに謝罪させることを目的とした発言であるとも理解されます。

公的目的に基づき公務員に対する事実を公表する(あくまで、国をよくするためにそのような行動に出る)という意図から各種発言がなされたと捉えることは無理があります。

仮に、そのような目的があったとしても、手段が明らかに不相当です。

もし二瓶氏について政治的に不適切な行動があったとして、それを世に問う必要があったとしても、二瓶氏に対して人生をつぶす、しばく、などと発言する必要は全くありませんし、不必要に受け手を畏怖させるものです。これを「正当な権利行使」の範囲と評価できる根拠はどこにあるのでしょうか。

したがって、仮に、立花氏の発言が二瓶氏に対する「名誉」に対する害悪の告知にとどまるものであったとしても、脅迫罪は成立すると考えます。

4 終わりに

私の法律的な見解は上記のとおりですが、最後に一言だけ。

議員同士だからといって(犯罪にあたるかどうかに関わらず)「脅す」ということが適切でしょうか。

脅された側は脅した側に対して自由に意見を言うことが難しくなります。
「あの人とは関わらないほうがいい、あの人に逆らわないほうがいい」という空気を作り出すことにもつながります。

そのようなある種の「恐怖」により物言えぬ人が出てくる社会は、自由な民主主義社会とは程遠いものではないでしょうか。

誰かを畏怖させる(怖がらせる)手法は、言いたいことを言えなくさせます。言いたいことが恐怖により言えない世の中は毒でしかありません。

もちろん、法律上「脅迫罪」にあたるかどうかの検討も大切ですが、そもそも「脅迫」して他人の意思決定の自由を奪う(それが犯罪に当たらないレベルだとしても)という手段を手放しに肯定する世の中にならないことを、切に願うばかりです。

(了)

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