学部1年生の学生実習にて

「研究室で研究を始めると、顕微鏡観察像を自分でスケッチする機会は今やほぼないでしょう。研究室の顕微鏡には良いカメラがついていて、それで写真を撮れば大概のことは済みます。それに、ちょっとネットで調べれば、写真が出てきますよね。楽をしようと思ったらそれで済むかもしれない、それが正しいかどうかは注意が必要ですが」

「でも、ちょっと考えてみて。君たちが携帯で写真を撮る時は普通、こういうものを撮りたいという対象(イメージ)があって、それを記録に残そうとしているはずです。つまり、写真というものは、漫然と撮ってもどうにもならない。顕微鏡の観察像も、漫然と数撮っても、重要な情報は含まれていないかもしれない。撮影すべきものは何か、場所や条件によって違うところがないか、という眼でみていないと、写真の中に撮るべきものが写っていないということになるわけです。あるいは、たまたま写っていたとしてもそれに気づけないかもしれません」

「パスツールの有名な言葉に、Chance favors the prepared mind. というものがあります。元はフランス語ですが、この前にはIn the field of observationという意味の修飾語が付いていて、観察者、実験者が持つべき心持ちのことを言っているのです。
この実習ではぜひ、自分の目で実際に細胞を見ながら、ネットに書かれている通りの像が見えるのか、書かれていないことが起きているように見えないか、注意しながらスケッチしてみてください、将来幸運の女神があなたに微笑んでくれるように」

TAをしてくれた研究室の4年生が実習終了後に
「先生が最初に煽ったので、皆一生懸命観察してましたよ、面白いことを観察できている子もいそうでした」

確かに、今年のレポートは例年より読んでいて面白かったと思います。ある阻害剤を入れると核の位置が細胞壁に近づいている気がする、とか、核の領域が広がって見えた、とか。なるほどそういうこともあるかもね!

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