見出し画像

定点カメラ#31 halluへ

2022年、布に隠された笑顔が少しずつ見えるようになってきたこの世界で、映画を撮ろうとした人はどれ程いたのでしょうか。その中の1人と、そのチームについて知りたいと思って、カメラを向けました。

上映会の報告も終わり、今回の定点カメラは第31回。恐らくこれが最後になります。


2023年3月14日 22時
京都駅を出発した夜行バスは、両手いっぱいに思い出を抱えた私を、この街から引き剝がしていきます。まるで『キャンバス』からも引き剥がされてしまうようで、寂しいものでした。

2023年3月13日
桜湯に行きました。水槽には鯉が泳いでいます。口をぱくぱくさせる彼らと話をするのがいつもの私なのですが、今回のお題は映画制作についてでした。
「この1年には、価値があったかな?」
「ぱくぱくぱくぱく、ぱくぱく」
「いろんな出逢いがあったんだよ。楽しかった」
「ぱくぱく」
「やっぱりエンドロールに名前が載るっていうのは、気持ちがいいものだね」
「ぱくぱく」
「それにしても、これからも撮り続けるなんて、すごいよね」
「ぱく」
「2年後が楽しみだね。居酒屋での決意」
「ぱーくぱく」

上映会が終わると、なんとも言えない虚無感が全身を覆って、安心と安堵と、物足りなさと寂しさが心の中でグチャグチャになりました。それに加えて、春が暖かいものだから緊張とかソワソワまでこっちに寄ってきて、もう訳が分かりません。

映画を観に来てくれた人たちからの感想がポツポツと送られてきました。「ほうほう君はそう感じたのか」と考えてはカレーを食べるというのが2,3日続いて、そして「それなら、ここはもっとこうすれば良かったな」なんて思うのです。待て待て、私はもう映画を撮ることを考えなくてもいいんだった。そう自分に言い聞かせて、今度はピスタチオを食べました。ピスタチオが緑色の豆だということは、ついこの前知りました。

2023年3月14日 24時
硬い座席で浅い眠りから覚めて、寝ぼけてふわっとしたまま姿勢を変えます。

恋をしているようです。映画を考えて、撮って、愛する人たちに。
今年のチームには、監督を観測する変態がいたり、嫉妬の夏を手にしたかった人がいたり、面白いメンバーが集いました。
映画館を作ったのも、お化け屋敷を作ったのも人間らしいんですけど、結局、映画制作に見出すものって何なのでしょう。
映画を撮るためにはダサい魔法でも強力らしいので、思い切って飛び込んでみようと決心しました。

キックオフから約1年。生きるため、自殺するようなことも、良いチームって何なのか分からなくなることもありました。大監督にしろ小監督にしろ、それ以前に私たちは人間なんだから、脚本が成立する過程をじっくり眺めてやろうじゃないかと思います。
「君は1000%なの?」と聞かれたら「10000%だよ!」とでも答えようと思います。

存在したら消え、変わっていく視点に惑わされて、地続きであるものなんてないように感じるんです。観たい映画が観たくても、まずは脚本の作り方から考えようかな。それはまるで精神修行のようで、制作は恐怖であるとすら思うのです。劇場の椅子にボンドでも垂らしておけば、脚本づくりの「見守り」方がわかるようになるんでしょうか。そして鑑賞者は共犯者へとなっていくんだ。

「ひとつまみ」からこぼれるようなことも、ギャルと古典を繋ぐ、なんてよく分からないこともあったけど、脚本とチームは、結局うまくいきました。でも僕は泣き虫船長なんです。名刺代わりの10本は、、、また別の機会に。

片思いをしていたかと思ったら大喧嘩が始まり、脚本がやっっっと決まったかと思ったらお金のことでモヤモヤする。「みんな!バカなの?」とでも叫びたくなります。運命の人に夢で逢えたら、キャスティングはうまくいきそう。うまくいかなくても、それでも、作ろうと思いました。だからメインキャストは決定したし、その後のロケハンでは何かが見えた気がしなくもない。相変わらず回りくどい言い方だな、と文句を言っていたら脚本が完成したから、休憩がてら美術の館にでも散歩に行こうと思います。
クラウドファンディングの準備なんてしていたら撮影まであと、、、。
なんとかクランクインは迎えられたけど、お体にはくれぐれもお気をつけて。

私たちはいつかブルートピアを抜け出します。それでも、Scean1, Cut1, Take1, Track1は覚えておきたいね。あとあの夏のことも。ドゥー・ユー・リメンバー・セプテンバー?
日清のラ王は柚しお味がおすすめなんだけど、濃厚接触と副反応には注意しないといけません。独白、クラクラのままエンドロールを撮影しました。あの時の「いま」はとっくに昔。さりぎわまで憎めない彼のことは大好きになりました。
本気の編集も主題歌探しも必死で取り組んで、まるでいもほりと魔法のような時間を過ごしたんです。劇伴と本編が完成したのに、飽き足りずに私たちはもっとつくる。むしろ本編が完成したから、もっとつくるのかも。

やっとこさ「映画館へようこそ」なんて言った日ですら、つくるって誰のためなのか分からなくなる。でもそんなことは、映画館からの帰り道に考えようと思います。


寝ぼけてよく分からないことを考えてしまいました。
今どのあたりだろう。後ろの方からスース―と聞こえるのは誰かの寝息か。少しだけカーテンを開けて、夜を目で追う。

私たちは『キャンバス』という映画に、映画というキャンバスに色を塗り切ることができたでしょうか?
自信は無いけど、それでもつくり続けていれば、いつかは染まるんじゃないでしょうか。

だから、これからも君たちの”つくる”を応援するよ。

価値のある1年をありがとう。

あきらより

定点カメラ、これにて終了!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?