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『STAR WARS: 遂げられた指令』 第1部 8章 混乱

八 混乱

「BF-5、キャリアーに戻り兵装の整備を受けろ。BF-7、BF-8は私の指揮下に入れ。」
 ミン・テジュンは有能なパイロットだが、非常に不安定になっている。新兵のこうした葛藤は珍しいことではない。だが彼をこれ以上戦闘に参加させておくのは少し危険だ。中隊長はそう考えた。そして下手に叱責すれば若者の繊細な心を無為に痛めつけることになるだろう。そこで彼は、さりげない調子で帰投を命じることでテジュンの自尊心を傷つけまいとした。
 問題はない。彼もじきに慣れる。皆そうだった。

「了解。」
 テジュンの声は震えていた。硬直した体に鞭打ってなんとか操縦桿を操り、キャリアーを目指す。旋回する間、彼は貨物センターの様子を凝視しつづけた。TIEファイターの制圧射撃が止み、爆撃隊が位置についた。ドッキング・ベイの片隅に作業員たちが見える。その隣のベイには、また上下のベイには、そして貨物センター全体には、どれだけの民間人がいるのだろう。彼らは皆、帝国の英雄にされるのだろうか。
「ふざけるな!」テジュンは耐えられなくなった。「俺は銀河に秩序をもたらすために、銀河市民を守るためにここにいるのだ!」

 彼が覚悟を決めた時、体の震えは止んだ。テジュンは深く息を吐くと、キャリアーのハンガーに向けてTIEファイターを徐々に加速させた。
「こちらBF-5、アプローチに失敗した。再度進入する。」テジュンは落ち着いた声で管制官に告げると、キャリアーの手前で鋭く旋回し、そのまま戦場に取って返した。彼は爆撃隊をまっすぐ目前にとらえ、先頭の爆撃機に向かってレーザーを放った。慣れ親しんだシミュレーター訓練のような、実に滑らかな動きだった。
 テジュンが狙ったのは爆撃機のソーラーパネルだった。飛行不能に陥れ、パイロットだけでも脱出させようとした。だが、目標を過たず発射された熱線は、運命のいたずらか直前を横切ったBF-10を直撃した。TIEファイターは機体の欠片を四方にまき散らしながら吹き飛び、二機の爆撃機を道連れにした。爆撃機の武器ポッドがすさまじい爆音とともに破裂し、猛火と黒煙からなる禍々しい花火が上がった。
「敵襲だ!」
「BF-5!BF-5!」
「状況を報告せよ!」
「回避せよ!」
 パイロットたち、中隊長、クルーザーの通信手、司令官、それぞれの怒号と悲鳴がグロテスクな合唱曲を作り上げた。混乱が、瞬く間に戦場を支配した。

「BF-5が爆撃機を撃った!」
「裏切りだ!」
「BF-5を止めろ!」
 しばし呆然としながら入り乱れる通信に耳を傾けていたテジュンだったが、皆の注意が自分に向いてきたことを悟ると我に返った。
 図らずも一度に三機を吹き飛ばしてしまった。アカデミーでこの成績をたたき出していたら今のダイアの位置にいるのは自分だったかもしれない。だが閃く怒りに身を任せて裏切り者となった今、皮肉なことにこの戦果も無効だ。こうなっては、何か言い訳をでっち上げようとしても無駄だろう。同僚を殺害したいわけではなかったが、もう後戻りもできない。彼は大きく息を吸った。
 テジュンはTIEファイターを一気に加速させ、僚機の群れの中に突っ込んだ。数機が裏切り者を撃ち落とそうと果敢に挑んだが、レーザーは虚しくも空を切った。パイロットたちは恐慌をきたし、恐れから無闇に引き金を引く者が現れ始めた。混乱の中で始まった同士討ちに巻き込まれ、BF-2が炎をまといながら落ちてゆく。

 事態の収拾がつかなくなるのを恐れた中隊長は司令クルーザーに救援を求めた。「BF-5が暴走を続けている!ブラック・ワスプの出撃を要請する!」
「了解。ブラック・ワスプを出撃させる。」
 通信手からの応答を受けると、中隊長はこれ以上被害を拡大させないため、BF-5から距離をとり攻撃回避に専念するよう全機に命じた。

 司令クルーザーの船首から、先の尖ったソーラーパネルをもつ攻撃的な機体が弓を離れた矢のように飛び出した。ダイアディーマ・ネルソン──ブラック・ワスプは旋風に乗るようにひらりと翻り、イオン・エンジンの咆哮をあげながら戦場に突入した。

 ブハース=ドッケン星間運輸会社の従業員たちは身を寄せ合って硬直したまま、突然自分たちを襲った嵐の成り行きをただ呆然と見つめてつづけていた。
 損傷した輸送船が侵入した後、彼らのドッキング・ベイに向けて放たれた無数のレーザーは、奇跡的に彼らのうち誰の命も取らなかった。それにしても彼らが自分たちの死の運命を受け入れ、ついに希望を捨てたその瞬間にぴたりと止んだ帝国機の射撃は、そしてその後に起こった奇妙な同士討ちはいったい何なのだろうか。今となってはもはや、このドッキング・ベイには誰も注意を向けていないとしか思えなかった。
 班長は、また新たな一機のTIEファイターが力なき火球と化して海に落ちていく様を遠くに見ながら、部下たちに、貨物センター中央部の作業員用リフトから安全な場所に移動するように指示した。作業員たちはあまりのショック状態から呆然自失、身体をここに残して魂をどこかにやってしまったのではないかと思われる有様だったため、彼らの目を覚まさせるためにあらん限りの大声で怒鳴りつける必要があった。
 班長は部下たち全員の避難を確認すると、自分もドッキング・ベイを後にしようとした。不審な貨物船は今やまったく何の動きもなく、中から海賊や反乱兵士の類が姿を現すようなことも、帝国軍に向かってレーザー砲を乱射することもなく、静まり返っていた。貨物船の乗組員たちはドッキング・ベイに侵入した時点で重傷を負っており、すでに死にはじめているのかもしれない。しかし、それを確認している暇はない。とにかく一刻も早くこの危険な場所を離れる必要がある。

 だが、立ち去ろうとする班長の足を、貨物センター全体に鳴り響く緊急警報がとどめた。それは聞き馴染みのあるけたたましいアラーム音、港町の誰もがその意味を知っている警報だった。
「警報!警報!」スピーカーから、いかめしい声が響き渡る。「港湾エリアG-2-7にレッド・クラーケンを確認。港湾エリアG-2-7にレッド・クラーケンを確認。すみやかに船舶をシェルターに避難させてください。全ての防衛担当者はただちに迎撃態勢をとってください。」
 今日はまったくとんでもない日だ。班長は悪態をつこうとしたが、もはや口から出るのは下手な笛の音のような頼りないうめきだけだった。彼はよろけて倒れそうになりながらも、どうにか再び足を動かした。

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金くれ