エアコンで危険な目にあった話

虫が苦手な木村と虫が多いコンビニのアルバイトの勤務が重なり、私は一身上の都合により本日初来店の客を すしざんまい のポーズで出迎えていた。

この年は秋だというのに蚊が多く、我々は日々蚊とのあくなき闘いを強いられていた。
レジで立っていると蚊がたかってくるのでどうしたものかと考えていると、白は蚊が寄り付きにくいという情報を客から仕入れた。
翌日、コンビニへ出勤すると、白いTシャツに白いズボンという全身白に身を包んだ木村と私が相対した。
己の単純さが互いの網膜に直撃した瞬間であった。

しかし、その日はいつもの比にならぬ程に店内に蚊が大量発生していた。
もはや我々が白いからといって見逃される数ではない。
常に耳元で蚊が囁き、止まれば蚊が数十匹は集ってくる異常事態であり、一体何が原因かと思えばバックヤードの窓が全開であった。

エアコンが壊れている為開け放たれていたが、店長が誤って網戸を外し、更に一晩開けっぱなしにした事が判明した。

日当たりが良く窓が広い為、店内の気温は上昇した。
我々は汗をかき、それによって蚊がより集結するという負のスパイラルに突入した。
あまりに酷いので「客が来る前に蚊を何とかしよう」と元凶の店長が言い出した。
店長が殺虫スプレーを探している間、私と木村は生身で蚊を叩きまくった。

そんななか、本日初の客が現れた。
客は来店早々に、白装束の汗まみれの者達が、虚空に掲げた手を叩きながら店内を徘徊している様を見た。
何らかの怪しい団体の儀式のような光景であった。
私は慌てて「いらっしゃいませ」と発したが、手を叩いた直後に振り向き様に迎えた為、すしざんまいのポーズを決め込む形となり、団体に潜伏する寿司屋社長のようになった。

奇抜な出迎え方をしてしまった。
客はしばし止まった後、
「……一体何をなさってるんですか?」
と訊いてきた。
蚊を払っている旨を伝えようとしたが、キーパーソンである「蚊」が抜け落ちた為に
「祓っています」
と、よりそれらしい発言となってしまった。
私の背後では限界を迎えた木村が狂ったように手を叩いている。
明らかに祓うどころか宿られている者が一名おり、客の精神はより揺さぶられた。

私が客ならばこのような怪しい店は早急に退店するが、客は店長に会うという強い信念があり帰らなかったので、私は店長を呼ぶ為に呼び鈴を鳴らした。
これまでの様々な要因により今となっては仏壇を思わせる厳かな音が鳴り響き、奥から全身黄色で身を固めた店長が姿を現した。

満を持しての教祖様のご登場の様であった。

白装束の信者達とは明らかに別格の位の高い色合いであった。
 
黄色もまた、蚊を避ける色であった。
店長が白を選んでいれば最悪コンビニの制服として受け入れられたかもしれぬが、中途半端に一人だけ黄色な為に特別感が出てしまった。
店長は客に歩みを寄せる途中、半狂乱の木村を落ち着かせようと彼の肩に手を置き
「よくやった。もう下がりなさい」
と声をかけた。
完全に厳しい修行に耐えかねた信者に優しく声をかける教祖のそれであった。

客は挨拶をし店長にチラシを渡すと、足早に去っていった。
見るとカフェのオープンを知らせるチラシであった。
近くに個人経営のカフェを開くので直々に挨拶に来てくれたようであった。

外から覗いたがセンスの良い洒落たカフェであった。
こんな不気味なコンビニが近くにあってはならないようなお洒落さであった。


【追記】
あのカフェを経営するにあたって、我々はあの店の立地的な不安要素の一つとなったに違いない。
因みに黄色は蚊は寄ってこぬが、その他の虫はめちゃくちゃ寄ってくるのでお勧めしない。

向こうが後から来たとはいえ、我々の存在は許されるのだろうか?
しかし、カフェのおこぼれに預かり、その月の売り上げは上昇した。

エアコンは冬場は霜取り作業で急に停止する事がある。
部屋を暖める為温度を上げると室外機からは冷風が出る仕様のため、1〜2℃低く設定すると室外機の結露を防止できるらしい。
「何か時々暖房止まるんです……」という方は試してほしい。
しかし、フィルターなどが汚れているとうまく霜取りできない事もあるのでこまめな掃除は必要である。
しかし、おかしいなと思ったら早めにメーカーや信頼のおける業者にご連絡を。


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