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『ワンダーラスト 幸せになるためのセラピー』“黄昏流星群”を見て憤死した人は、このきちんとした大人向け不倫ドラマを見てリハビリを

by キミシマフミタカ

フジテレビの「黄昏流星群」はお粗末なドラマだった。初回と最終回だけ見たが、その物語の薄さ、葛藤のなさ、演出の古臭さ、ステレオタイプの演技に、思わず瞠目したほどだ。ターゲットとなった世代は、山田太一や向田邦子のドラマで育って来た世代だろう。先輩たちが苦労しながら変革してきたドラマ制作は、いったいどこへ行ってしまったのか。倉本聰が(もし)見ていたら憤死していただろう。制作スタッフは全員90歳くらいか。

 住宅展示場みたいな白々としたセットの中で、佐々木蔵之介と中山美穂が向かい合って食事をしている。カメラは正面から、ただそれを撮影しているだけだ。なんの工夫もない。そこで交わされる会話は限りなく凡庸で、緊張感の欠片もなく、旅館で出てくる安っぽいお茶菓子のようだ。登場人物に感情移入できず、見ているだけで気が滅入って来る。

 中山美穂が娘とカフェでお茶を飲みながら話しているシーンがある。「お母さん、会ってほしい友だちがいるの」「いいわよ」(にっこりと。だが、少し間を置いて、いったん伏せた目を上げて、すこし驚いたように)「もしかして、それって男の人?」。中山美穂の演技がひどいのか、演出がひどいのか、台本がひどいのか。おそらくその全てだろう。

「ワンダーラスト 幸せになるためのセラピー」は、ちゃんとした大人のための不倫ドラマだ。セックスができなくなってしまった中年夫婦が、それぞれパートナーを見つけることで再生を図ろうとするドラマなのだが、筋書きはともかく、ドラマはきちんと撮られている。夫婦の食事の風景は、(おおげさではなく)20カットくらいに割られ、台詞ひとつとして凡庸なものはない。脚本家たちが、シノギを削って書いているに違いない。

 とりたてて美男美女が登場するわけではない。どちらかというと、冴えない風貌の夫と、大づくりの顔の妻。だが、脇役を含めて全員のキャラが立ち、みんな活き活きと動き回っている。一言でいえば、リアリティがある。海外ドラマ特有の大げさな身振り手振りは入るが、住宅展示場のような噓っぽい空気感はない。いったい何がどう違うのか。

 予算が違う、と言ってしまえばそれまでだろう。だが、かつて山田太一や向田邦子や倉本聰たちは、上質な大人向けの恋愛ドラマを創っていたはずだ。脚本の話である。昔は良かったという話ではない。なぜ、努力することが放棄されたのだろう。Netflixで海外ドラマを見るたびに、日本のドラマ制作の後進性を思い知らされることになる。


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