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【企画参加】 ワナの色はうつりにけりな 〜 #色のある風景

 ツバメの背をなぞったような花弁を見せる燕子花(カキツバタ)がしっとり湿った夕の刻。移ろいやすく露草色に翳ったひっそり静かな部屋の、若草思わす畳に投げ出された君のつま先。
 恥ずかしそうな藤色がかった薄衣の裾を僅かに持ち上げ、ふるっとした桜の如きふくらはぎから弾力のある太腿ヘ手を滑らせればそれはまるで撫子か。そこをゆっくり開いて覗き込み着いた浄土のその先は、ふと目を閉じさえすれば一面に広がる紅梅の園。おぉなんと、春はここにも来たりて誘惑せり。
 老舗の菓子処の甘さを舌に乗せて楽しむように、羊羹色の烏の濡れ羽を指の平で撫でつけながら、小豆はどこじゃとようようまさぐれば、紫苑に光る腹はらはらとなまめかし。
 しばし私の若竹はすっくと伸び始め、やがてしっかりとしたしなりを見せて青竹へと変貌す。まだまだ捨てたモノではない。飛んで君入る夜のモノ。悶絶するよな上目遣いの間を縫って萌黄色の君の髪に更紗が流れるかのような風をふぅと送ってやれば、やがて柳色となって行ったり来たりと私の胸をもてあそぶ。
 そろそろ待っていたかのように山ぶどうの実でも摘むごとく葡萄(えび)色の宝石をぱっくり口に含んでみれば、その甘酸っパイ味の広がる中で思い出す幼い頃の阪急電車。がたんごとんと左右に揺れる四角い箱は懐かしさがいっパイで、あはんいやんとふんわり手の中で形を整えやがて丸みを帯びてゆく。たとえ脳裏をびーちくパイちくと小さな鳥が横切っても。
 いつもは軽い珊瑚のくちびる、吸われ喘いで濃い牡丹色。首筋さらりとのぞき色、君の瞳は錆納戸。どこまでイクのさカミナンド。ここは地の果て乳の果て。父の歯でイク母の乳。御納戸色に変わったら何度もイケる極楽寺。
 はて、こんなトコまで昇りつめのけぞりながら我に返り、いかん墨に五彩あり。清墨、淡墨擦ったなら揺らぐ煙の湯の中で甘く噛むのは耳朶も良き。中墨ならば賑々しいすっきりとした腰のくびれを楽しむ如し。ぐっと濃墨で奥締めながら、最後は焦墨と化し果てゆきむ。墨は五彩といわねども、女は後妻がいとをかし。
 花の色は移ろい易く、昨夜はヨクても今日はアカン。もっとイカせて欲は底なし。キレイな色に惑わされ、やうやうワナにはめられて沼這い出りゃあすっからかん。




〈 全25色・930字 〉








今回はこちらの企画に参加させていただきますん。






あはんいやん♥







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