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雑感・Watch Dogs 2

 コンピュータを習い始める頃、多くの人がこんなことを聞かされる。コンピュータとはつまり、膨大な数のスイッチの塊である、と。
 多くの初心者が無意識に抱いているコンピュータへの畏怖のようなものを、ほんのすこし緩和してくれる文句ではある。が、その裏にある「多くのシステムが同じ形のスイッチで管理されていること」の副作用を連想できる人は皆無ではないだろうか。
 手元のPCで鉄道を動かすことができないということが「当たり前」であった時代が去り、決して当たり前ではなくなった時、その意味と危険性を、どれほどの人が捉えられるだろうか。

 一都市を混乱の坩堝におとし入れ、一元管理の強烈な副作用を露呈したシカゴ事件から三年。都市を管理する『ctOS』は、萎縮することなくさらに機能を強化した2.0にバージョンアップ。アメリカの複数の都市がこれを導入していた。
 技術革新の発祥地、サンフランシスコに暮らすマーカス・ホロウェイ。ハンドルネーム『Retr0』として知られる一介のPCオタクに過ぎない彼に、ctOSの犯罪予測アルゴリズムが危険人物のレッテルを貼った。
 前科はおろか事件自体がなくても、ctOSの回答を盲信する周囲の人々に失望したマーカスは、むしろctOSの�望むようになることにした。
 ネットを騒がせる数多のハッカーグループの中で、シカゴ事件にも深く関わり、最強ともうたわれる集団『DedSec』に志願したのである。
 見事「入隊試験」をパスしたマーカスは、都市という巨大なシステムの深い溝を覗き込んで行く。違法捜査、インサイダー取引、選挙操作……。
 情報を奪い不正を暴く彼らは、システムの中のウィルスなのか、それとも自由と平等を取り戻すワクチンなのか。街を武器に街を救う戦いが、始まった……。

 前作を未プレイという方のためにまず申し上げれば、本作から遊んでも何ら問題は無いといってよい。ストーリー的なつながりはほぼないし、基本となるゲームシステムも大きな違いはない。
 オープンワールドで再現されたサンフランシスコを自由に走り回り、ctOSというシステムで一元管理された都市機能をハックし、それを盾や武器や道にして進んで行く。
 例えば、工事現場のクレーン、倉庫の無人フォークリフトをラジコンのように動かし、ビルの上まで移動したり、信号機を操作して混乱を起こし、追っ手を振り切ることもできる。人々の手にあるスマートフォンやPCなどは当然ハックでき、時には発火させるなんていうやばいお仕置きもできるのだ。
 ゲームの手触り的な部分で前作との違いがあるとすれば、主人公のほうだろう。マーカスは市街をパルクール(自身の体のみで素早い移動、跳躍、登攀を行うパフォーマンス)を駆使して駆け、ビルの屋上などを自由に行き来できる。ハッキングすべき端末や侵入口へたどり着くのにかなり重宝するし、前作に比べテンポがかなり早い印象。
 というより、西海岸が醸し出す開放感や、DedSecメンバーのアングラポップなヴィジュアルも手伝って、より「ワルいことしてる」感が磨き上げられている。
 またハッキングを助けるガジェットとして、RCカーやクアッドコプターを操作することができる。特にRCカーは、ほぼプレイヤーと同様に機器をハックできるので大変重宝する。
 本作の大きな特徴のひとつに挙げておきたいのが、シームレスなオンラインマルチ機能だろう。ゲームは常にオンラインに開かれており、プレイヤーが望めばいつでもマルチプレイを開始できる。対人戦も協力プレイも可能で、ミッションも豊富だ。
 が、それは同時にいつ侵入されてもおかしくないということでもある。いつ誰とマッチングするかはお楽しみだが、不規則な緊張感は心地よい。

 これから買ってみようと思った方に注意点を少々。ITのダークでディープな部分にスポットを当てたストーリーであるから、当然そういった用語もかなり出てくる。雰囲気を大事にするためか、説明的要素は極力排されているので、かんたんな予習は必要かもしれない。52ヘルツの鯨までご存知のような方なら、何ら問題はないだろう。

 情報化社会の暗部を描いたSFは数多いが、実体験させるという意味でも、ゲームは最適なメディアだろう。街を操る魔法使いになったような快感と、その矛先が自分に向いたときの恐怖。ふたつを同時に感じさせてくれる、深い傑作である。

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