こないだ見た夢のこと。
先日、昔好きだった人が夢に出てきた。
夢の中で私は、彼の手に触れた。
柔らかい手のひらの感触があり、困り果てた。
彼の周りを取り巻く寂しそうな空気感、空っぽな瞳、時々クシャッと笑うところまで再現度が高く、私は夢の中なのに、
「ゲッ。これ以上、絶対にこの人に触れてはいけない」
と、警戒モードMAXだった。
一方、とても冷静な自分もいた。
久しぶりに君臨する目の前の男に、どうやらもう熱烈な恋愛感情は残っていない。
その代わり、
「ねぇ。どうしてそんなに寂しそうなの?ご飯は食べてるの?もしも食べてない、人と会ってない、誰にも心を開けないということであっても、人は生きてるだけで偉いんだからね」
そう言って、彼を激励出来るくらいには、明るく接することが出来た。
それは執着や未練からくるものではなく、親しい人に、ごく普通に心を開いているような感じだった。
もしも彼から自己憐憫にかられた返答があるようならば、私は速やかにその場から撤退できる自信があった。
しかし、彼は意外にも子供のように嬉しそうな顔をして、「いま、俺、幸せなんだよね」と言う。
あ、そう。それは良かったね。
出来れば少しくらいは不幸でいて欲しかったと私は思う。
しかし、まぁ、当て所なく彷徨う彼の生きた魂が世界のどこかで迷っているより、よほど良いことなのだろうと思い、無の境地で「良かったね」と呟く。
◆
もう二人のあいだには光の川のようなものが流れており、それは収斂することを知らなかった。
互いが絶対に互いの領域に踏み込むことはないという予感だけが、私の中で立ち込めていた。
そこで目が覚めた。
寝室の天井が目に飛び込んできて、全て夢だったとすぐに理解できた。
私はどこか、寂しくなった。
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