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静かな湖

今から1年半前のこと、絵の具を使って絵を描くワークショップに参加した。お題は「自分がやりたいことをしている瞬間」みたいな感じだったと思う。
わたしは、夜の湖を描いた。
木に囲まれていて、夜空に星が輝いていて、畔にたくさんの花が咲いている、静かな湖。

自分でお金を稼げるようになった高校生の時から、わたしの頭の中はずっと忙しい。常に何かしらの考えが頭を占めていて、浮かんでは消え、浮かんでは消える。
人生がやりたいことで溢れている。終わりのないTO DOリストと、メモと予定で埋め尽くされた手帳。いつも何か大事なことを忘れているような不安と焦りで心がざわついている。頭の中が静かになるのは、何かに没頭している時だけだ。

静かな自分でありたい。
だからあの絵を描いたのだと思う。


休職を機に、健康のため新たに習慣にしたことがいくつかある。そう人に話すと「どれが1番よかった?」と聞かれることが多い。
1番よかったのは、ウォーキングだと思う。厚労省が推奨している1日8,000歩を目標に、朝と夜に分けて歩いている。

誰もいない朝の街を歩くのが好きだ。
やわらかい陽の光と、鳥の声。
遠くに聞こえる車の音。草と花の香り。
凝り固まっていた体が少しずつほぐれていく。

静かな夜の街を歩くのも好きだ。
瑠璃色の空に、月と星。
街灯の光が作る自分の長い影を見つめながら歩く。
鼻に冷たい空気が入り、風が頬に触れる。
心がしんと静まって、頭が冴える。

寒い日も、雨の日も、風の強い日も、歩くと不思議と体は温まり、気分がスッキリする。
さらに、朝までぐっすりと眠れるようになった。これまでいかに体を使わずに、脳だけを酷使していたか実感した。

夜のウォーキングで撮った1枚

大の運動嫌いだから、習慣化するまでは苦労した。
ジャージに着替えるのは面倒だから普段着のまま。スニーカーの紐を結ぶのも億劫でゴム紐に変えた。

目的なく歩くのが苦手だから「花の写真を撮ってSNSに投稿する」というルールを決めた。
花なんて全然咲いていない街だと思っていたけど、探してみるといたる所に咲いているものだ。
季節の移り変わりと共に、咲いている花も変わっていく。それを撮るのが毎日の楽しみになった。

都会を離れて田舎で暮らしたいと本気で考えたこともあったけど、朝晩歩くだけで心身の平穏が手に入る。わたしが憧れていた静かな湖は、生活のすぐそばにあったのだ。
求めているものはどこか手の届かない遠くではなく、自分の近くにある。そう気づいたことが、ウォーキングで得た1番の収穫なのかもしれない。

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