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212.香りと味わいはどう関連付ければいいのか? 問題

かつて、“食べるラー油”が流行したとき、不思議に思って自分なりに分析をしたことがある。そこから整理できたことが新刊『スパイスを極める』では掲載されている。

食べるラー油はなぜ人気があるのか、従来のラー油と何が違うのか。

当時、いくつかの商品の原材料を比較したときの資料をひっぱりだしてみた。

A.従来のラー油
ごま油、香辛料

B.食べるラー油の原型
植物油、唐辛子、ニンニク、黒豆(大豆)、食塩、山椒、島唐辛子、黒糖、ヒハツモドキ、ウコン、胡椒、白ゴマ

C.食べるラー油
食用なたね油、フライドガーリック、食用ごま油、唐辛子、フライドオニオン、唐辛子みそ、砂糖、食塩、パプリカ、すりごま、オニオンパウダー、粉末しょうゆ(小麦を含む)、調味料(アミノ酸)、酸化防止剤(ビタミンE)

Aは割と古くから日本で親しまれているラー油。
Bは食べるラー油的な分野を最初に切り拓いた、とある食堂のラー油。
Cは食べるラー油ブームを生み出した、とあるメーカーのラー油。

本来、ラー油は「香り油」のはずだから、Aが流通していたのは自然なことである。Bはおそらく完全にオリジナルで開発され、知る人ぞ知る人気商品として火が付き、それに目をつけたメーカーが、BをベンチマークにCを作って全国販売に乗り出した。
ということだったんじゃないか、と記憶している。
ポイントはそんな経緯よりも、原材料として何が使われているか、そこにどんな意図があるのか、の方だ。

結論からいえば、「香り」を楽しむアイテムだったはずのものに「味わい」が組み込まれたこと。AとB・Cの差はそこにある。

料理をする上で、香りと味は“切り離せないが別のもの”という考え方で僕は捉えている。
そこで食べるラー油の原材料を役割によってざっと分類してみた。

1.    塩
2.    油
3.    調味料……唐辛子みそ、砂糖、粉末しょうゆ(小麦を含む)、調味料(アミノ酸)、トマトパウダー、酵母エキス
4.    風味料……ニンニク、黒豆(大豆)、白ゴマ、フライドガーリック、フライドオニオン、オニオンパウダー、
5.    スパイス……唐辛子、山椒、島唐辛子、ヒハツモドキ、ウコン、胡椒、パプリカ、ペッパー、タイム、セロリ、オレガノ、パセリ、タラゴン
6.    その他……加工デンプン、コーングリッツ、上新粉、馬鈴薯でん粉

従来のラー油(A)は、1番と5番で作られていた。細かく言えばこのときの5番にはにんにくやしょうがをスパイス(香りのアイテム)として捉えていて、油に香りを移して濾している。その後に生まれた食べるラー油たちは、いわゆる「ジャリジャリ」が残っているから、口に入ったときに香りだけでなく味わいも楽しめる構造になっている。

そして、香りと味わいの両方が入った、という点で象徴的に切り取れる原材料は、「塩」である。ラー油に塩が入ったのか! というのは、当時の僕にとって衝撃的な事実だった。
「ご飯が何杯でもいける」とか「豆腐にかけただけでしょう油いらない」とか、当時のそういう話題はすべて「塩」に起因していたのだと思う。

あの頃の自分なりの整理をその後、何年もかけて図式化し、今回の新刊で発表したフレーバーメガホンとなった。

フレーバーメガホンでは、とある素材を調理して味わうときに活躍するアイテムを並べ、その役割を明示している。

素材→塩→油脂分→調味料→水分→風味料→香辛料(スパイス&ハーブ)

この分析で最も収穫だったのは、本来、「香りづけをする」役割はあるが「味つけをする」役割を持たないはずのスパイスの中に「味つけもしてしまう」ものが存在することを発見できたことだ。それを僕は“風味料”と名付けた。
そこから派生させて整理を進め、スパイスと呼ばれることのあるアイテムを香りの狙いごとに「トップノート」、「ミドルノート」、「ベースノート」とした。例外はあるが、大きく以下のように分類している。

トップノート……ハーブ類
ミドルノート……スパイス類
ベースノート……風味料類

そして、誰もが効果的な香りの配合を生み出せるように、指標として、ツールとしてのルーレットを作ってみたりした。

ここまで整理できると、素材を味わうために「味つけ」があり、それを増幅させたり別の形で楽しんだりするために「香りづけ」があることがよくわかる。
これは画期的な解釈だ! と当時も今も思っている。たいてい自分がこう感じるときには周囲の反応は薄いのだけれど……。

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