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経営者として培った方法論や自負を一旦脇に置いて考えてみる(後編)

写真右が産総研デザインスクール校長 小島一浩 左は株式会社ディープビジョン研究所代表取締役 江上隆夫さん

産総研デザインスクールの修了生・現役生の活躍を紹介するnoteマガジン「AISTDSアンバサダー」。産総研デザインスクール校長・小島がデザインスクール4期生(2021年度)の江上隆夫さんとガチンコ対談した後半編です。

いま経営者に必要なのは、成功バイアスを壊すバイアスブレイク

江上さん:小島さんから事前にいただいた最後の質問の「経営を目指している人達に向けたアドバイス」ですが、基本的に経営者は成功体験により、強烈に自分の中の方法ができてしまっていて、これはいい、あれはいいという、ものすごいバイアスになっています。僕のクリエイティブディレクターの仕事も、ある種の成功体験であり強烈なバイアスなのですね。このデザインスクールで学んだ中では、バイアスを壊す、バイアスブレイクのところがたくさんありました。学んでいく授業の中でそれが経営者にとって一番いいのではないかなと思います。
小島:なるほど。
江上さん:経営者って固まるのですよね、やってきた自負があるし。それを一旦外していく作業は苦しいですが、体験した方がいい。それが経営者にとって一番いいことなんじゃないかなと思います。
小島:このデザインスクールではデザインプロセス自体を学ぶというよりも、デザインプロセスを通してバイアスを外すという体験を何回もしますからね。
江上さん:すごく重要です!特にカオスパイロット(デンマークのビジネスデザインスクール)の先生2人の授業はすごく刺激的で新鮮でした。言語的なこともありますが、テキストがとてもシンプルに作ってあって、わかりやすいけれど深いなということがすごくありました。
小島:さて、だいぶ話が飛びましたが、その経営者としての部分を非常に聞きたいなと思います。やっぱり会社員には経営という視点がないので、そこが一番、江上さんに聞きたかったことでした。成功パターンからどうしても離れられなくなってしまうのですね。
江上さん:それはありますね。

場所を変えて話が盛り上がる2人

現場にデザイン思考を入れることでゴールを意識する

小島:では実際に学びを、今の経営に活かしていますか?
江上さん:実は私の業務はワークショップが非常に多いです。クライアントに対して、まずは理念・ミッション・パーパスを作るので、大体半年から長い時は1年半くらいかかります。基本的にクライアント10数名のプロジェクトチームを作り、そこに上長の方たちが入ってワークショップ形式で進めるので、デザインスクールで学んだテクニックを結構入れています。そういう意味ではすごく役に立っています。
小島:それはクライアントから、問題意識を持ってやって欲しいと依頼があるからですか?
江上さん:たとえば最近お付き合いしている会社さんですと、1社はプロジェクト形式で⼀緒にビジョンとかミッションを作って、さらにそうした理念を社員一人ひとりに浸透させるお手伝いしています。この場合は職階ごとに1日間とか2日間のワークショップを実施しています。もう1社は宣伝・広報部署の方を対象にしたもので、コンセプトやこうした理念をつくる方法論、スキルを学ぶワークショップを定期開催しています。ベンチャー的なところから大企業まで業種も含めて、いろいろな会社でやっています。大企業だと会社の一番上にある理念的なものは何なのか、そこが僕から見るとすごく弱いです。そこではパーパスプロジェクトというのが始まっていたりしますが、社内の人はコンセプトを考え、概念を作り、方法論を考えながらという仕事のやり方をやっていません。まず上から課題が降りてきて、どうやってそれに答えを出そうかという、日本の企業に共通なやり方として、戦略ではなく戦術で動いています。
小島:現場で動いてしまう。
江上さん:現場のノウハウで「対応」してしまうのですね。戦略のゴールのために何をしたらいいかという発想をあまりしないのです。社員さんはとても優秀なのに、コンセプトを作れと言われても作れない。でも実は企画書に書いてあるのに、それがあまり機能していないという状態が起きていて、それで危機感を抱いて外部の講師によるコンセプトワークのワークショップをみんなでやろうという風に始まっています。どこの会社でも感じますが、コンセプトやビジョンを立てるのがみんな苦手なのだと思います。

経営に携わるならデザイン思考を身につけることをオススメします

小島:最後に江上さんは経営者としてこのスクールに参加して、仕事との両立はいかがでしたか?
江上さん:僕の場合は楽でした。たまたまコロナ禍だったこともあり、仕事がオンラインに移行していましたし、元々、私の場合は月に4~5日くらい出張か現場に行くだけで、その他はその準備をしたり、オンラインでやり取りをするという感じだったので、金曜日は仕事を入れないことにしておけば、調整は相当できたので、両立の苦労はそんなになかったです。でも、通常の経営者の方はそれなりに調整しなくてはいけないとは思います。
小島:はい。それではだいたいこれでお聞きしたいところは、網羅できました。ありがとうございます。最後にこれから受講を考えている方へのメッセージなどをいただけますか?
江上さん:若い人だったらデザイン思考を身につけた方がいいかな。ある程度、長年会社経営している人でしたら、自分の思考をぐちゃぐちゃにする体験をやってみて欲しいです。自分の方法論と自負を一旦、脇に置いて考えてみることですね。
小島:それは経営者だけでなく、大きい企業の部長クラスの人も同じですね。企業の中では、例えば組織文化に染まって、組織文化を素早く身につけて仕事を回せる人が部長クラスまで出世していくのですね。方法論が固まっている人が上にいる構造は、実はあまりよろしくない。だからそういう意味で学んで欲しいなと思っています。
江上さん:そうですね。
小島:本日はお時間を頂きまして誠にありがとうございました!


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