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地銀クラウド移行、富士通ゼロ線に暗雲? 巨大ベンダー攻防の裏側

日経FinTechの記事によると、地銀システムのクラウド移行が本格化する中、富士通のクラウドサービスの受注が2024年にはゼロになる見込みだ。業界トップベンダーのNTTデータと日立製作所の攻防が一因とみられるが、地銀の事情もある。クラウド移行を巡る熱い動きの裏側を探る。

先ず、上記記事を解説した後にグラフを見ながら検証していく。

日経FinTechの記事解説

NTTデータの銀行専用クラウド

NTTデータは自社の勘定系アプリ「BeSTA」を稼働させるため、2024年から「統合バンキングクラウド」の開発に着手する。プライベートクラウドベースの"銀行専用クラウド"で、地銀の共同システムに適用する考えだ。

第1号は京都銀行らの「地銀共同センター」で、2028年1月の移行を予定。その後、横浜銀行が中心の「MEJAR」(2030年ごろ)、さらに「STELLA CUBE」や「BeSTAcloud」への展開を想定している。

日立との攻防

日立は、NTTデータとの長年の業務提携の下、BeSTAを採用する共同システム「NEXTBASE」を展開してきた。しかし、NEXTBASEのオープン化に向けて、日立には2つの選択肢がある。

1つは、提携を強化しNTTデータの技術を取り入れること。もう1つは、独自の知見を活用して単独でオープン化を図ることだ。NTTデータは「最終的に日立が決める」と語る。

OpenStageに熱視線

一方、日立は地銀向けに別のパッケージ「OpenStage」も手掛ける。このOpenStageにはパブリッククラウド適用の動きもあり、日立と静岡銀行、AWSが技術検証中だ。

静岡銀行は2027年ごろからOpenStageのクラウド移行を始める計画。日立は「銀行システム全体をクラウドに移し、地域のプラットフォームにしたい」と構想を語る。

富士通肝いりクラウド採用0、NTT躍進を検証する

2023年10月の全銀システム障害(※注01)は、銀行のシステム基盤の刷新を加速させる一因となった。

高度経済成長期に構築された老朽化したメインフレームベースのシステムが、金融インフラの重大な障害を引き起こしたのだ。従来の垂直統合型アプローチから脱却し、オープンでクラウドネイティブな次世代プラットフォームへの移行が急務となった。

こうした背景の下、銀行はIT投資を拡大。メインフレームからクラウドへの移行計画を立てるところが相次いだ。ただし、移行先のクラウドベンダー選定をめぐっては、熾烈な争いが既に巻き起こっていた。

地銀システムの共同化を手掛ける大手ベンダー2社、NTTデータと日立製作所の動向が大きな焦点となっている。富士通クラウドへの発注ゼロ線に見る、その攻防の深層を探ってみたい。

※注01:全銀システム障害については以下のNoteに詳しく解説しています。

1年前の地銀勘定系争奪戦、NTTデータの巻き返しに既に火種

下記の2023年4月の記事を見る2023年3月の時点で、地方銀行の勘定系システムを巡る争奪戦は過熱していた事がわかる。メインフレームからの移行が本格化する中、ベンダー各社が熱い視線を注いでいた。

当時は、NTTデータがぶっちぎりの首位シェアを誇っていた。しかし、同社は主力のメインフレーム共同化グループにとどまらず、翌年11月に自社クラウド「統合バンキングクラウド」への顧客約40行の統合を打ち出す動きを見せている。

新興勢力の台頭も無視できない存在感だった。BIPROGYはマイクロソフトAzure上で勘定系を動かすクラウドネイティブ製品を投入。2022年には紀陽銀行の勘定系をクラウド化するなど、実績を着々と重ねていた。

さらに最後発でSBIグループも参戦。フューチャーアーキテクトと連合し、既存とは全く異なる新しいクラウドネイティブ勘定系の開発を進めていた。主力行の顧客離れに危機感を抱いたSBIの反撃の狼煙が、上がり始めていたのだ。

このように、かつてメインフレームに収斂されていた勘定系システムが、バラバラに分散する動きが見え始めた1年前。どのベンダーが主導権を握れるのか、地銀は熱い視線を向けていた。同時に、次に敗れ去るベンダーは誰かといった予想も出始めていた時期だったことが分かる。

下記はアメリカビックテックのクラウドも含めた2017年から2023年へのクラウド利用状況推移だ。

IBMが地銀向けクラウドで圧倒的な存在感を発揮する理由

金融IT大手IBMが、地銀のクラウド活用で抜きん出た存在感を示している。その背景にはどのような強みがあるのだろうか。

長年の金融実績が強み

IBMは長年にわたり、金融機関向けのメインフレームやミッションクリティカルなコンピューティングソリューションを提供してきた老舗企業だ。そのため、金融業界における深い知見と豊富な実績を持っている。この実績が、地銀向けクラウドサービスでの優位性につながっているのは明らかだ。

金融特化の技術力

IBMのクラウドインフラストラクチャや、金融業界向けのサービスポートフォリオ、セキュリティ対応力などは高い評価を得ている。金融業界の厳しい要件に応えられる技術力が、地銀からの支持を集めている。

強力なエコシステム

IBMは幅広いパートナー企業を擁し、地銀の複雑なクラウド化ニーズに対応できる総合的なサービスを提供できる。この一体的なアプローチが、地銀の支持を集める大きな要因となっている。

規制対応力

金融業界は法規制が厳しいが、IBMの深い知見と対応力は地銀のクラウド化を後押ししている。規制対応の難しさから、IBMのような信頼できるパートナーを求める地銀も多いのが実情だ。

金融IT大手ならではの総合力

長年の金融実績と最先端の技術力、そして強力なエコシステムを持つIBMは、まさに地銀向けクラウドサービスの王者と呼べるだろう。今後も地銀のクラウド化ニーズは高まり続けると見られ、IBMの存在感がさらに高まっていくことが予想される。

メガバンクの状況検証:三菱UFJの場合


下記の日経新聞の記事によると貯蓄から投資へのシフトが加速する中、三菱UFJ銀行がBaaS(バンキング・アズ・ア・サービス)を拡大している。銀行が金融サービスを「黒子」として外部提供する戦略だ。異業種との連携を通じ、新たな顧客基盤の構築を狙う。

マネーキャンバスのシステム外販

まず着手するのが、投資信託・保険販売システム「マネーキャンバス」の外販だ。東急リバブルや紀陽銀行に提供し、企業は自社アプリで金融商品と自社サービスをワンストップで提案できる。マネーキャンバスは既に利用者300万人超の実績がある。

事業会社向けアプリ開発

さらに24年度には、事業会社向けに口座開設やローン申し込みができるスマホアプリを開発する。NTTドコモとの実績を生かし、不動産・小売・電気ガスなど100社超と導入協議中だ。顧客は手軽に銀行サービスを利用できるようになる。

BaaSの広がりと課題

BaaSは航空会社や百貨店にも広がりを見せ、ネット銀行が先行してきた。米国では地銀が収益をあげる一方、ゴールドマン・アップル提携解消の報道もあり、一筋縄ではいかない面もある。

顧客基盤維持への危機感

三菱UFJがBaaSに力を入れる背景には、顧客基盤維持への危機感がある。ネット銀行の台頭で、これまでのメインバンク型ビジネスモデルが揺らぐ中、BaaSを新規顧客獲得の切り札と位置づけている。


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