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140字小説 No.921‐925

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【No.921 朱夏】
赤ちゃんの泣き声に気付いて数学の参考書から顔を上げる。電車の中でお年寄りが母親に怒鳴ってみんなが目を伏せた。自分には関係ないと知らんぷりする赤の他人も、楽しそうにあの子と話す彼の小指に繋がった赤い糸も、全部全部、全部。見て見ぬ振りして。参考書の赤シートで隠してしまえば。

【No.922 煙る感覚】
音に触覚を感じたり、匂いに形を覚えたり、文字に色が見えたりすることを共感覚と呼ぶらしい。昔から憧れてた僕も、大人になってから別の感覚が伴う。3ならアメスピ、86ならメビウス、105ならセブンスターといった具合に。数字を見るとタバコの銘柄が思い浮かぶようになってしまった。

【No.923 陽光】
疲れた体で喫茶店に立ち寄る。メニュー表はなく、マスターが私の日常を挽いてサイフォンに入れた。「こだわって抽出すると格別になるんですよ」いわく、飲む人によって苦みや甘みが変わるらしい。丁寧に振り返ってみれば、些細な今だって幸せなのかもしれない。口に含む。私の人生の味は――

【No.924 感情連理】
人は一生で笑う時間より泣いている時間の方が圧倒的に長いらしい。今がどんなに幸せでも、どうせ悲しいことが多いから毎日を楽しめなくなってしまった。「でも、嬉し泣きもあるから不利じゃん」彼がよくわからない文句を垂れる。「そういう問題?」切った玉ねぎに涙を流しながら、少し笑う。

【No.925 晩年】
「玄冬、青春、朱夏、白秋と言って、人生を四季に当てはめた考え方があるそうよ。まるで、出世魚みたいね」金婚式を迎えても慎ましく、ブリの照り焼きを食べながら妻が微笑む。齢八十にも満たない若造の僕らは、今、どの季節にいるのだろう。記憶や、髪の色が、例え白くなっても。お前と――

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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652