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音調140字小説まとめ④

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【No.≠231 兎月】
小学生のとき、学校でウサギのラビ太を飼っていた。飼育委員だった僕は一生懸命お世話したのに、近所に住む高校生に小屋から逃がされてしまった。あれから何十年が経ったのだろう。ふいに、ウサギの鳴き声を聞いた気がして夜空を見上げると、月には安らかに眠るラビ太の模様が浮かんでいた。

【No.≠233 樹海守の鳴く】
人生に疲れて樹海を彷徨う。木の間に多くのロープが括ってあった。遺書を用意して滝から飛び降りる。水底には同じ末路を辿った人間達が沈む。命を投げ捨てた者がいないか、樹海を守る鹿が僕を見つめる。大層な角を傍らに置く。憐れむように、弔うように、鹿の悲しい鳴き声が山の中に響いた。

【No.≠234 春凪】
サナトリウムから波の音を聞く。夏になれば本土で花火大会があるらしい。桜が散る。先生の話では、私の寿命はあと数ヶ月しかないそうだ。写真に映る恋人と目が合う。病気のことを言い出せずに私から別れを切り出した。夏になれば、彼と花火を見るはずだったのに。春が終わり、夏になれば――

【No.≠238 ニーア】
雨風を凌げる場所もなく、寒さで震える私をあなたは保護してくれました。ご飯を与えて、何度も頭を撫でてくれます。初めてのぬくもりは愛しいですが、その優しさを失うことが不安で遠い街に走り出しました。もう二度と会えないあなたに向けて、私は身勝手にも「にー、にー」と鳴き暮れます。

【No.-211 食材の声】
私は食材の声を聞くことができた。初めこそ楽しかったけど、仲良くなった野菜達は調理するのが憚られるし、ご飯をよそえばお米達が「たった一粒の妹だったのに…」と涙を、いや、でんぷんを流すから食べにくい。プリンに愚痴をこぼしながら「僕でも食べて元気を出しなよ」のお言葉に甘える。

【No.-212 音泳ぐ】
「今日の天気は晴れのち音でしょう」夕方から夜にかけて騒がしくなるらしい。濡れる代わりに雨の音だけが街を打つ。傘を差すとメロディーが弾けて、踵を鳴らせば雫が躍る。イヤフォンを忘れてしまったけどたまにはいいだろう。どんなに足取りは重くても、たんたんとたんと階段を駆け上がる。

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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652