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感傷140字小説まとめ⑪

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【No.≠238 ニーア】
雨風を凌げる場所もなく、寒さで震える私をあなたは保護してくれました。ご飯を与えて、何度も頭を撫でてくれます。初めてのぬくもりは愛しいですが、その優しさを失うことが不安で遠い街に走り出しました。もう二度と会えないあなたに向けて、私は身勝手にも「にー、にー」と鳴き暮れます。

【No.≠239 不惜身命】
魔女に願って不死となった代償に、私は恋を封印された。誰かを想う度に心臓が高鳴り死が迫る。恋を失ってまで得たいと思った命だけど、散りゆくあなたのためなら捧げても構わなかった。絶えるなら絶えてもいいと想いを告げる。横たわるあなたの側で、私も静かにまどろむ。今、呪いが解けた。

【No.≠240 涙色】
私の瞳は感情によって色が変わる。悲しいときは青色。悔しいときは緑色に。ある日、彼の浮気を知って鏡の前で泣きじゃくっていると、瞳から赤い涙が溢れてきた。拭っても我慢しても、袖を汚すばかりの私を見て彼はどう思うのだろう。悲しみや悔しさとも違うこの感情は一体なんだというのか。

【No.-214 巡礼者】
鍵のかかった檻に小説や絵が届く。誰かの物語を丁寧に解いては飲み込んで、私の感じた味を嘘偽りなく言葉に直す。閉ざした世界の外は眩しい。鉄格子の間から感想を綴った紙飛行機を投げる。例え夢半ばで塵になっても、まっしろになっても。彼に伝えるために。彼女に見つけてもらうために。

【No.-215 ゆめいっぱい】
「ちびまる子ちゃんの食卓を囲む場面って、いつも一人足りない気がする」日曜の夜にアニメを観ながら彼女が呟く。幼少の頃から側にあった光景だから、自分も家族になった気分なのだろう。幸せそうにご飯を食べる姿を見てお腹が減る。憂鬱な月曜日も笑うために。手を合わせて、いただきます。

【No.916 福音】
「くろいとこふんだらじごくにおちるからね」子どもと手を繋ぎながら横断歩道を渡っていく。小さい足で一生懸命にジャンプしていた。服の下に隠れた青痣を思い返す度に、本当の親の元に返すべきなのか逡巡する。「あ、くろをふんだからじごくー!」明滅する信号に進むか、戻るかは、まだ――

【No.917 幸福論】
彼からもらった指輪を外す。左手の薬指についた跡が蜜月の証にも、後悔の枷にも思えた。幸せになりたかっただけなのに。愛されたかっただけなのに。ただ『それだけ』の共通点で私達は満たされていると思い込んでいた。『それだけ』でいいという願いが、そもそも傲慢な生き方なんて知らずに。

【No.919 不正交業】
歯列矯正で控えていたガムを、終わってからも噛んでいないことに気付く。瓶に詰めたノミが蓋を外しても飛び出さないように、私も条件付けされてしまったのだろう。禁煙か、コンプレックスの克服か。何のために始めたのか思い出せずにいた。綺麗になった歯並びを、いびつになった笑顔で隠す。

【No.-216 ありあまる富】
一緒に買ったペアリングを眺める。同じ趣味で付き合ったなら、接点を失えば終わってしまうのだろうか。それでも人生は、続く。不安を振り払うように、二つの指輪を重ねて永遠を象った。ぽんこつな魂だって、青臭くもなれない赤い春だって、自分にとってはありあまる富だ。どうか、良い旅を。

【No.-217 スリープウォーク】
私は晴れの日が嫌いだ。どんなに未来が暗くたって、上を向いて歩かなきゃいけない気分になる。俯いても泥濘に映る青空は見えるのに。私は私に自信が持てないから、いつか、根拠のない誰かの「大丈夫」に安心してしまう日が来るのだろうか。踏み出した足を止めて、解けてもいない靴紐を結ぶ。

【No.-218 花曇り】
花農家の私達は声の代わりに花言葉で想いを交わし合っていた。けれど、一つの花にいくつもの意味があるせいですれ違ってしまったのだろう。花言葉なんて誰かが作った勝手な祈りだ。私達もそれに倣う。最後の共同作業として、新品種の花に「貴方と出会わなきゃよかった」という願いを込めた。

【No.-219 信葉】
「信じたからな」が親父の口癖だった。夢を言い訳に大学を辞めたときも、一人暮らしは楽しいか聞かれたときも、言葉を濁す俺に頷いてくれたのに。『親だから』という信頼が鬱陶しくて、あの日は感情的になっただけなんだって。だから「死ねよクソ親父」なんて冗談、信じてほしくなかったよ。

【No.-220 クオリア】
「私だって少しくらい過去を見世物にして、オイシイ状態になったっていいじゃないか」彼女の台詞からも、表情からも、それが真実であることは容易く想像できた。同時に昏い傷を雨曝しにして、創作を穢すことが許せないようにも感じた。彼女の書く物語が、どうか、未練とならないように祈る。

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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652