140字小説 No.916‐920
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【No.916 福音】
「くろいとこふんだらじごくにおちるからね」子どもと手を繋ぎながら横断歩道を渡っていく。小さい足で一生懸命にジャンプしていた。服の下に隠れた青痣を思い返す度に、本当の親の元に返すべきなのか逡巡する。「あ、くろをふんだからじごくー!」明滅する信号に進むか、戻るかは、まだ――
【No.917 幸福論】
彼からもらった指輪を外す。左手の薬指についた跡が蜜月の証にも、後悔の枷にも思えた。幸せになりたかっただけなのに。愛されたかっただけなのに。ただ『それだけ』の共通点で私達は満たされていると思い込んでいた。『それだけ』でいいという願いが、そもそも傲慢な生き方なんて知らずに。
【No.918 晴る】
『やか』の付く言葉には綺麗なものが多い。あざやか、しとやか、すこやか。繊細な響きは私の心をおだやかにしてくれる。彼の「つまやか、ひよやか、おもやかなんて言い方もあるだろ」という皮肉をかろやかに躱して、今日も朝が始まった。なごやかな静寂に、そんな彼のやかましさを笑い合う。
【No.919 不正交業】
歯列矯正で控えていたガムを、終わってからも噛んでいないことに気付く。瓶に詰めたノミが蓋を外しても飛び出さないように、私も条件付けされてしまったのだろう。禁煙か、コンプレックスの克服か。何のために始めたのか思い出せずにいた。綺麗になった歯並びを、いびつになった笑顔で隠す。
【No.920 夢見るあの子】
幸せな夢を見れる枕を購入する。大金持ちになって、おいしいものを食べて、とても幸せな時間だ。でも彼女は「別に普通の夢だったな」と残念がっていた。「あなたとコーヒーを飲んで、読書して、絵を描きに散歩する。いつもの、普通のことでしょ」と笑う。まだ、僕は夢の中なのかもしれない。
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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652