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色彩140字小説まとめ③

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【No.≠020 花末路】
幼いころ、花売りの女性に出会った。私に種を授けて「二十歳までに花を咲かせるの。赤い花は幸福の終わり。青い花は不幸の始まり」と告げる。もしも、花が咲かなかったら? 私はなぜか種を捨てることができず、操られるように水を与え続けた。十九歳になった今でも、種は埋まったままだった

【No.≠022 花塞ぐ】
彼女が好きだった赤い花が、至る場所で咲いていることに気付く。別れた途端に、SNSで悪口を書き連ねていたのには思わず苦笑した。大切なものはいつも一つしかないと思っていたのに。地面に落ちた花を足で潰した。そうだ。彼女の好きな花は、どこにでも咲いているような存在だったんだよ

【No.≠051 花まじない】
別れた彼女にクロッカスの種を贈ったことを思い出す。「紫色の花が咲いたら結婚しよう」遠い昔の約束だ。花言葉を調べてみると『あなたを愛したことを後悔する』という意味があった。なんとも皮肉めいているなと苦笑いする。あのクロッカスが、今でも、種のまま芽吹いていないことを願った

【No.≠058 鈍色に染まる】
ふと、書き殴られた絵が目に入る。何枚も、何枚も。未完成の油絵だ。飼い猫がウイスキーの入ったグラスを倒して液体が零れる。元からそういう色だったのか、煙草の灰で汚れてしまったのか、正しい色を思い出せずにいた。『画家になりたい』という夢が、絨毯の中にくすんだ色で染まっていく

【No.≠067 祈りの羽】
私の全てを覆い隠すように、背中から翼が生えていた。飼い猫が爪で引っ掻くと微かな痛みが走る。感情に伴って翼は色と形を変えていった。両手を合わせて、祈るように布団の中で小さく丸まる。今はまだ這い蹲ることしかできない日々でも、いつか、この白い翼で羽ばたく日が来るように願った。

【No.≠097 海の月】
「海に月が沈んだら、くらげになってふよふよ泳ぐんだよ」だから月の漢字はくらげに似ていると、彼女がけらけら笑っていた。透き通るような肌の白さは、どこか月の光を感じさせる。「私も海に沈んで、くらげになって、行方不明になりたいなぁ」何もかも奪うような、白くて大きな満月だった。

【No.≠115 逃命】
朝、目が覚めたら透明になりたいと願う。みんなから見えず、みんなから気付かれず、みんなから取り残されて。死んでしまうのは悲しいから、せめて、誰もが私のことなんて忘れてしまえばいいのに。夜、目を閉じると私の輪郭が浮き彫りになっていく。その度に、心が透明に濁り出すのを感じた。

【No.≠117 群青散花】
数年前、彼女が花の髪留めを羨ましそうに眺めていた。黒くて、とても長い髪が揺れていたのを思い出す。こっそりと買っては、そのまま渡す機会はなかった。彼女のお見舞いに訪れる度に、使う必要のない花の髪留めがバッグの底で息を潜める。薬の副作用で抜けてしまった、彼女の髪を見つめた。

【No.≠122 色織りの彼女】
魔女に色を奪われた地で、彼女は機織り機を使って色を紡いでいます。ある日、彼女から手紙が届きました。『ほんの少しの橙と、肌色があるので私は大丈夫です。だから心配しないでください』彼女は今でも色を紡ぎます。いつか全ての色を取り戻したら、みんな、夕日の美しさを思い出せるはず。

【No.≠149 渡り鳥達】
冬が訪れる度に、彼女との思い出が蘇ってくる。流れない噴水の絵ばかり描いていた左手には、多くの吐きダコができていた。白紙を塗り潰していく彼女の横顔が、なぜだかとても悲しそうに見えた。今ごろ、君は、あの公園で泣いていて。今ごろ、渡り鳥も、あの公園で鳴いているのかもしれない。

【No.≠159 色明かり】
モノクロの町に色生みの老婆が訪れました。「私は歳を代償にして色を生み出します。町が美しくなるのなら、私が老いることも気に留めません」老婆は顔をシワだらけにしてほほえみます。色を取り戻した町は静かに時間が動き出します。寿命を迎えた老婆の姿には、少女の面影が残っていました。

【No.≠168 ネイビーブルー】
絵描きになるのが夢だった彼女を思い出す。水彩絵の具で汚れた顔や、ペンだこの多い手が印象的だった。絵を描く姿を見られた彼女が小さく笑って、小さく涙を流す。描き終えた絵にタバコの煙を吐きかける癖が嫌いだった。「私の絵は綺麗じゃないよ」と、ゴミ箱に夢を隠す彼女が大嫌いだった。

【No.≠174 花冠の眠る】
投薬治療の影響なのか、彼女の黒い髪は少しずつ抜けていく。僕に用意できるものや捧げられるものなんて何一つなかった。せめて、白詰草で編んだ花冠を渡そうと思う。髪飾りが必要なくなった彼女の頭を、誰も救えない僕の弱さを、そっと隠すために。何の役にも立たない、その言い訳のために。

【No.≠176 秋あざみ】
娘を連れて妻の墓参りへ訪れる。出産してから数年で亡くなった妻のことを、娘は何も覚えていないはずだ。照れると白い肌が紅葉のように染まることも、頭を撫でる手が秋風のせせらぎのように感じることも。それだって娘の代わりに僕が忘れなければ、きっと、思い出の中で妻に会えるのだろう。

【No.≠181 白い夜明け】
家出した女の子を泊めた日の夜明け、初雪がしんしんと街を彩る。駅まで送る道すがら、女の子が羽織ったコートの汚れが、雪の白さと対比して目立っていた。店のシャッターが開いて明かりが漏れ出す。中を見てはいけない気がして、それは、知らない女の子を泊めた僕の罪悪感なのかもしれない。

【No.≠209 蝶の行く末】
ベランダで流蝶群を待っていると、彼から「行けたら行く」とメールが届く。月から光の残滓が溢れて蝶が生まれる。色彩豊かな蝶が流れ星のように、群れを成す光景はとても美しかった。眠い目をこすりながら、三日月に変わっていくのを眺める。彼の言葉を信じて、私は寒さに震えるのだ。

【No.≠215 ささなぎ】
絵羽模様の和服を纏ったまま砂浜に横たわる。私の長くて茶色い髪をさざ波が揺らす。夕陽が海に融けて、景色が橙から群青に移りゆく。彼が浮気していたとも知らずに逢瀬を重ねたことは、疎い私にも責任があると友人から嗤われる。私も、空も、心さえも。病葉のように本来の色を失っていった。

【No.≠240 涙色】
私の瞳は感情によって色が変わる。悲しいときは青色。悔しいときは緑色に。ある日、彼の浮気を知って鏡の前で泣きじゃくっていると、瞳から赤い涙が溢れてきた。拭っても我慢しても、袖を汚すばかりの私を見て彼はどう思うのだろう。悲しみや悔しさとも違うこの感情は一体なんだというのか。

【No.916 福音】
「くろいとこふんだらじごくにおちるからね」子どもと手を繋ぎながら横断歩道を渡っていく。小さい足で一生懸命にジャンプしていた。服の下に隠れた青痣を思い返す度に、本当の親の元に返すべきなのか逡巡する。「あ、くろをふんだからじごくー!」明滅する信号に進むか、戻るかは、まだ――

【No.-216 ありあまる富】
一緒に買ったペアリングを眺める。同じ趣味で付き合ったなら、接点を失えば終わってしまうのだろうか。それでも人生は、続く。不安を振り払うように、二つの指輪を重ねて永遠を象った。ぽんこつな魂だって、青臭くもなれない赤い春だって、自分にとってはありあまる富だ。どうか、良い旅を。

【No.-217 スリープウォーク】
私は晴れの日が嫌いだ。どんなに未来が暗くたって、上を向いて歩かなきゃいけない気分になる。俯いても泥濘に映る青空は見えるのに。私は私に自信が持てないから、いつか、根拠のない誰かの「大丈夫」に安心してしまう日が来るのだろうか。踏み出した足を止めて、解けてもいない靴紐を結ぶ。

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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652