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『成瀬は天下を取りにいく』全てをねじ伏せるキャラクターの力

前にも書きましたが私はインプットが苦手な人間です。普通に本を読み音楽を聴きテレビや映画を観て楽しめる人はもうその時点で才能がある人だと思います。私も若い頃はそれなりにインプットを試みていましたが、今はもう集中力が続かないので一念発起しないと出来ません。

(# ゚Д゚) けどお前アウトプットしたいと思ってる奴がそれでは駄目だろう!

と、いつも自分で自分に激しくツッコむ日々なんです。だから、せめてせめて、「おや、これは気になるな」と思ったものだけは、頑張って手を出すべきであると心に決めております。そんな私のショボい「気になる」センサーにすら引っかかった大物がこちら。


どこの本屋へ行っても一番目立つ場所にコーナーが作られていますし、もうとっくに読んだよ、という方も多いことでしょう。せめてこの規模の話題作くらいは読まなきゃならないだろう…と自分に言い聞かせて、でも結果的に自分に合わないと損な気がして図書館で借りることを画策しました。

貸出中 予約件数 17件 

(;´Д`)!


さすが話題作。諦めて書店で購入しました。新書の小説を買うのはおそらく数年ぶりという事実がインプット虚弱体質を証明していると思います。

前置きが長くなりましたが感想。

なるべくネタバレを控えつつ語りたいと思いますが、この小説は「地方のデパートの閉店」という出来事を中心にして書かれてるんですね。もう、それだけで暗い、寂しい、夕焼け色のテーマなわけです。描けてもまあ「郷愁」がいいとこだろうと思ってしまうわけです。

けれども全然違うんですねこれ。物凄く前向きな、早朝に全力でラジオ体操を行うような物語をこの題材で描いてるんです。どうやってそれを可能にしてるかというと、これはもう主人公のキャラクター造形に尽きるわけです。

コンプレックス0ゼロの風変わり少女をぶち込む

これで全部解決してるんです。地方の衰退・東京一極集中・不況・文化格差・港区女子・マイルドヤンキー…そういう今の日本をめぐる様々な背景は、強力な主人公のパーソナリティの前に全て些事になってるんです。

これは確かに凄いですよ。別に異世界転生なんかしなくたって、どこでだって面白い物語は作れるのだ、そういうことを教えてくれてると思います。成瀬みたいになりたい、なれなくても憧れ続けたい、そういう若者が出てきて本当に地方を元気にする可能性も大いにあります。

物語ってやっぱりキャラクターが大事なんですね。そこに魅力があればどんな題材でもグイグイ引き込まれて読めるんじゃないでしょうか。もちろんそういう人物を作るためには、前述した「今、我々が暮らしている世界」への客観的な視点が必要でしょうし、それを土台にして、野心的に作られるのが魅力的な主人公なんだろうと思います。

あと、付け加えるならばこの作者は非常にギャグセンスがあります。なんでもない場面でも読み手の心をくすぐるような言葉選びが徹底されています。早めにそのセンスがわかるので、安心して最後までリズム良く一気に読めます。これがまた人気の大きな要素なんでしょうね。

地方の「今」を題材にした明るく前向きな物語、みんな待ってないフリをして、実は心のなかで待っていたのでしょう。その証拠が成瀬の大ヒットだと思います。やっぱりインプットは大事なんだなと。流行ってるものは全て「今」をとらえてますからね。

続編も出ているようなので、集中力のいらない楽なもの(飲酒・競馬予想・スマホゲーなど)に流されないようにして、なんとか読んでみたいと思います。重い腰を上げた先には、やはり新鮮な出会いがあるもんですね。

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