2022年予測:Web3の衝撃:インターネットは民主化されるのか

年末恒例のDIAMOND SIGNALの記事企画、STARTUP TREND 2022からの転載です。

冒頭より引用:

2020年に引き続き、新型コロナの影響を大きく受けた2021年。人々の生活様式はさらに変化し、その影響は大企業からスタートアップまでを巻き込んでいる。果たして2022年はどんな年になるのか。
DIAMOND SIGNAL編集部では昨年と同様に、ベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家向けにアンケートを実施。彼らの視点で2021年のふり返り、そして2022年の展望と注目の投資先について語ってもらった。

https://signal.diamond.jp/articles/-/1005

2021年のスタートアップシーン・投資環境について

下がらなかった株価

まず、マクロ目線の投資環境について。株式市場へ影響を与える最も大きな要因として、コロナ禍が沈静化した後の各先進国の金融政策に注視していました。しかし、残念ながらコロナ禍は沈静化せず。金融政策は引き締められることなく、株式市場は引き続き堅調に推移しました。国内スタートアップの調達環境も一貫して楽観的で、日本へ出資する海外有力VCの名前をよく聞くようになった1年でした。2021年の国内IPO社数も、昨年よりも35社増えて137社の見込みだそうです。

そうこうしているうちに、(この文章は、12月中旬に書いているのですが)12月14日の報道では、マザーズ指数は昨年8月以来の低水準となったのだそうです。実体経済と株式市場が乖離し続けた状態が、そう何年も続くわけはないので、「いよいよ来たか」という気持ちで年末を迎えます。2021年は、上場を延期するかどうか、という議論が起業家の間で聞かれる年になりそうです。

次に、ミクロ目線のスタートアップ環境について。コロナ禍のもとで、力強く飛躍的に成長した支援先を2社紹介します。

教育機関を猛烈な勢いでDXしたManabie

1社めはEdTech企業・Quipper(リクルートが買収)共同創業者の本間拓也さんが2019年に創業した会社です。120社超の支援先スタートアップの中で、コロナ禍において最も大きく成長した企業の一つとなりました。Manabieは、創業時からオンラインとオフラインを融合させた次世代モデルの学習塾を東南アジアで展開。そこへ、新型コロナウイルスというゲームチェンジャーが訪れました。日本でも、子どもたちが塾や学校へ通えなくなり、リモート授業をはじめとしたDXニーズが急激に高まりました。

そのような環境下で、東南アジアで培われたケイパビリティを転用し、塾、専門学校、私立学校等に対して、猛烈な勢いでDXを推進しました。日本人創業者のスタートアップとしては珍しく、現在6カ国に拠点をもち、プロダクト開発チームを完全にグローバルでスケールさせています。シリアルアントレプレナーらしい、死角のない盤石なスタートアップ経営です。

コロナ前から10倍の売上高となったTebiki

2社めは、Tebiki。製造業や物流業等の「デスクレスワーカー」向けに動画で現場教育を行うSaaSを提供。2021年11月にシリーズA調達でグロービス・キャピタル・パートナーズから8億円を調達し、累計調達額は11億円になりました。

これまで、工場や物流拠点では、スタッフの動線設計の難しさや、温度や湿度、粉じんといったオペレーション現場特有の問題によって、IT化が阻まれていました。しかし、コロナ禍による強制的な行動変容によって現場環境は一気にオンラインに向かい、現場DXを標ぼうするさまざまなSaaSが勃興しています。そのなかでも、現場ノウハウを動画で可視化するTebikiの売上はコロナ前と比べて10倍の伸びを見せました。長年OJTに頼っていたオペレーション教育は遠隔かつ非同期のモデルへシフトしつつあり、このトレンドを上手く捉えました。大企業との契約を次々と獲得しながらも、解約率0.5%という非常に低い数字を維持したまま成長し続けており、同社のポテンシャルを実感する一年でした。

2022年の投資環境の変化や注目領域・プロダクトについて

Web3の衝撃:インターネットは民主化されるのか

Web3、クリプト、NFT、DAOなどと表現される領域に注目しています。ビジネスチャンスというよりも、1つの社会実験として興味をもっています。GAFAをはじめとする巨大プラットフォーマーに個人情報や著作物を無料でアップロードせざるを得なかった既存のインターネットのパラダイムから、むしろWeb黎明期の頃の理想に近い、中央の管理者を必要としない自律分散型のインターネットへ。Webそのものを大きく民主化させうるという意味で、スマートフォンが出てきた頃のような混沌と高揚を感じます。

この領域における最もわかりやすい分散型アプリケーションとしてビットコインがありますが、その思想は、価値貯蔵の手段の民主化だと表現できるでしょう。通貨に限らず、さまざまな領域で「民主化」を標ぼうするプロダクトの試行錯誤が、海外を中心に進むと思います。しかしながら、中央集権モデルを上回るかたちでシェアを獲得するようなプロダクト、第二のビットコインのような成功事例が他領域で出てくるまでには5〜10年はかかりそうだと考えています。

また、日本でも、ここ最近の経営者同士の会食では、Web3についての話題が必ずあがっているという印象があります。しかしながら、国内投資家の動向という意味では、a16z(アンドリーセン・ホロウィツ)やUnion Square Venturesなどの米国投資家のようなアグレッシブさで、国内VCがこの領域へ投資することは、少なくとも2022年中はないと思います。少しずつお金が流れ始める、というのが現実的でしょう。

その理由の1つ目は、まず、日本のVCの目線に立つと、SaaSやFinTechなどの既存の投資機会と比較して、リスク、リターンの魅力度が劣るから。「すぐ横にもっと魅力的な果実があるのでそちらで十分」と合理的に判断するGPが多いと思われます。理由の2つ目は、税法・金商法等の問題から日本にWeb3スタートアップがほとんど存在しないから。また、海外企業に出資したくともLPとの投資契約上それが難しいベンチャーファンドも多数あります。このような現状において、Web3領域で挑戦したい日本在住の起業家にとっての現実的な解は、海外法人を設立してグローバルでチームを組成することです。残念ながら、これは2022年も同様でしょう。

この領域への投資姿勢をアナウンスしている日本のVCファンドは、gumi Cryptos Capital、B Cryptos、Headline Asiaなどが知られており、また、数件のファンドが水面下では組成準備中のようです。日本でも1つの大きな成功事例をトリガーにして、もっと大規模に資金流入がはじまって社会実験が加速するといいな、と思っています。

2022年に注目すべき投資先

OLTA:資金調達サービスの「クラウドファクタリング」と請求管理ツールの「INVOY(インボイ)」の2つのプロダクトを提供するFinTech企業です。累計調達額は30億円超。コロナ禍で、数十兆円の資金が融資のかたちで中小企業に対して供給されましたが、経営実態と比較して融資額の水準が高止まりするという状況を生み出しました。一方、経済が回復局面に向かうと、突発的な受注を受けた仕入れなど、SMBが運転資金を求めるシーンも増えてきます。

こうした状況下、金融機関は「リスクの高い追加融資を実行できるか?」という命題に直面します。融資以外の選択肢をメニューとして備えるため、OLTAとクラウドファクタリングの提携をしようという地銀の動きが増えています。この流れは2022年以降も続くでしょう。USの類似事例では、Fundboxが2021年にユニコーンの仲間入りをしました。OLTAは日本で15行の銀行と提携し、累計申込金額は600億円を突破。既存金融を“破壊”ではなく“補完”しながらグロースしていく攻め方は、日本型FinTech普及シナリオの王道的な勝ちパターンになりつつあります。

Azoop:トラック運送事業者向けに車両売買プラットフォーム「トラッカーズ」を提供する企業です。既存株主はジャフコなどで、累計調達額は13.7億円。日本では、国内貨物輸送量の90%以上をトラック運送が担っています。大都市から地方都市にいたるまで全国に張り巡らされた物流インフラは、成長するEC市場を支えるという意味でも重要な役割を担ってきました。その一方で、トラック運送業は、ドライバーの高齢化や業務のデジタル化の遅れなども影響し、低い生産性が社会課題となっています。

この課題を解決しようとしているのが、Azoopです。2018年のサービスロンチ以降、営業エリアを関東圏に絞ってきた同社は、2021年には全国1万3000社以上の運送業者と取引するトランコム社や地銀など7社と提携し、サービス提供エリアを全国へ拡大。こうした提携がスムーズに進んだ背景には、同社のサービスが、運送業者が求めるニーズに強く合致(PMF)していることにあります。車両売買プラットフォームの累計出品台数は2021年11月末で1万2500台へ、取引社数も1000社へ飛躍的に伸びています。

カイゴメディア:介護職向け動画メディア開発とマーケティングサービスを提供しています。日本の介護市場は現在11兆円、2025年に15兆円、2040年には26兆円になるとの政府見通しが出ています。2021年は、コロナ禍でのクラスター発生、高齢者の外出自粛などの影響で、介護の現場を支えている介護職や家族の負担が非常に大きかった1年でした。また、介護職不足は根深い社会問題で、2025年には32万人、2040年には69万人が不足すると言われる深刻な状況です。

このような課題が山積する介護領域において、長期的なコミットメントを掲げて創業されたスタートアップです。現在は、全国介護職の約1割にあたる15万人の介護職をカバーする動画メディアを運営。メディア開発を皮切りに、大手小売ベイシアグループとの高齢者向け商品の共同開発などを行い、売上規模は昨対比で3倍成長。今後、厚労省との連携や大手消費財メーカーとの取り組みも予定しており、2022年以降も成長が期待される企業です。


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