見出し画像

堂々とミルク育児を。「ミルクでも大丈夫」と寄り添ってくれた、ある助産師さんの話

私は妊娠中から母乳ではなく、ミルク育児をしようと決めていました。だけどいざ出産し、生後間もない息子がおっぱいを探す姿を見た時、「本当にそれでいいの?」と、自分を責める気持ちと迷いが生まれた。

けれど、ある一人の助産師さんに掛けてもらった言葉に救われ、私は堂々とミルク育児をスタートさせることができた。いま息子は3歳半、元気に育っています。ミルク育児をしたことに、ひとつの後悔もありません。
”ミルク育児はいいよ”とおすすめしたくて書くわけではなく、ただ、母乳じゃなくミルクにしたいのに、世間体が、周りの声が、と悩む方の気持ちがラクになったらいいなと思い、この話をシェアします。

ミルク育児をしよう、と妊娠中から決めていた理由

私は昔から色々な人のブログを読んできましたが、出産後の女性が書く記事としてよく目にしたのが、母乳についての悩み。赤ちゃんが母乳を飲んでくれないから痛くて泣きながら搾乳しているとか、おっぱいがカチカチになって激痛、母乳外来に駆け込むとか、栄養を子どもにもっていかれるので抜け毛がひどくハゲたとか…。
「まぁこれも、母になった証」と前向きに締めくくるブロガーさんもいたけれど、「うわ〜無理だわ」という感想しか持つことができなかった。

仕事でも家事でもなんでもそうだけれど、体のコンディションが悪いととても効率が悪く、苦手なことは余計に嫌なことに、好きなはずのこともただのタスクにしかならない。おっぱいが痛いという状況を抱えながら、育児という未知の世界に飛び込むことは、私にはとても困難なことに思えた。
なんとか母乳を逃れたくて情報を探していると、ミルク育児のメリットがいくつか分かった。

・母乳はママ以外はできないけれど、ミルクならパパや他の家族でもできる
 (その間、ママは体を休めることができる)
・赤ちゃんにママの体の栄養をとられないので、ママの体の回復が早い
・いまは市販の粉ミルクもとてもよくできていて、栄養素的には全く問題がない
これらの情報を提げて、私は夫と実母にミルク育児の意向を伝え、協力を仰いだ。

入院の手続きで、「母乳にしますか?ミルクにしますか?」と確認されて…

予定日を1週間過ぎても生まれてこなかった息子。入院し、陣痛促進剤を使うことに。入院手続きの際、助産師さんに「母乳にしますか?ミルクですか?」と確認されたのだけれど、その時、私はなぜか急に自信がなくなり「ミルク」と即答できなかった。自分ひとりだけの問題ではないこの決断は、いざとなるとととても悩ましい。
「ミルクです。でも…まだちょっと迷っています」緊張しながら告げ相手の反応を待つ。すると助産師さん、テキパキと言った。「そうですか。ミルクにするなら、母乳を止める薬を飲まなきゃいけないので、早く決めてくださいね」
事実をそのまま伝えられただけなのに、私はちょっと落ち込んだ。

日本では、赤ちゃんが生まれたらまずは母乳で育てる母親が一般的であること。母乳のメリットは調べればいくらでも出てきたけれど、その逆は多くはなかったこと。もしかして私は、息子にとても申し訳ないことをしようとしている?

おっぱいを探す息子の姿に、決意が揺らぐ

出産翌日、息子と一緒に授乳室へ。”初乳”と呼ばれる産後すぐの母乳は特別に栄養価が高いそうなので、それはあげよう、と決めていた。なんとなく、私はあまり母乳が出ないタイプなんじゃないかと予想していた。なのに、母乳はスムーズに出たし、息子もおっぱいを吸うのが上手で、「あ!うまいうまい」と助産師さんにも褒められていた。
あれあれっ…、これは母乳育児をしたほうがいいということなのかな…?子どもがおっぱい求めてるのにあげないなんて、私はダメな人間なんじゃないか…?
お腹にいる間はまったくといっていいほど母性が湧いてこなかったのに、誕生しひと目その姿を見てからというもの、愛おしさが込み上げていて「こんな可愛い子がきてくれたのに、母乳も上手に飲めるのに、それでも自分の体のラクを選ぶなんて私は頭がおかしいのだろうか」と自分を責めた。

「ミルクでも大丈夫」18歳年下の妹をもつ助産師さんの言葉

出産から2日ほど経った夜、当日立ち会ってくれた助産師のMさんが部屋にやってきて、「ミルクで迷ってるんだって〜?」と笑顔で話しかけられました。
「私には18歳下の妹がいるんだけどね、私が育てたようなものなのよ」えっ、そんなに歳の離れた妹さんが?私はちょっと驚き、彼女の顔を見た。

「母にお願いされてたの、”すぐ仕事復帰したいから、ミルクはあなたよろしくね!”って。だから夜中のミルクも、学生だった私がずっとあげてたんだよ〜」
明るく話すMさんの姿。
なるほど、だから彼女は赤ちゃんが好きで、この仕事を選んだんだ。素敵な方に出産のサポートをしてもらえて良かったな…やっぱりこの病院にして正解だった… そんなことをぼんやりと頭の中で考えていた。

「妹ももう16歳で、色々欲しいものがあるみたいで。最近はお小遣いちょうだい、とかあれ買ってこれ買ってってせがまれてる」Mさんは困ってる、と言いつつも誇らしげ。

「だからね、妹はずっとミルクで育ったけど元気に成長して飛び回ってるよ。母乳でもミルクでも、どっち選んでも大丈夫だからね」
私はMさんがこの話をしてくれた意図をようやく理解した。心底ほっとして、Mさんが部屋を出て行ったあと泣いた。おそらくその話をするために、わざわざ部屋にきてくれたのだ。

あとから聞いた話、その日はふだんよりもたくさんの出産があり、とても忙しかったそう。人の命を守ることで大忙しだったはずの夜、ひとりの母親の母乳かミルクかという小さな悩みに寄り添ってくれて、なんてありがたいことだっただろう。

正々堂々と、自分の体のラクを選ぶ

おかげで私は、ミルク育児をすることを決断し、実行できたのです。正確には、生まれて最初の2日と、病院から帰宅してすぐ、ミルクを沸かすのが間に合わなくて(というか泣く息子をどうしたらいいのかわからなくて)1回だけ母乳をあげた。だけどそれ以降はずっとミルク。

初めての育児はちょっとしたことで不安になったり、寝不足でイライラすること、うまくできなくて自分を責めることの連続だった。そんな中で体の痛み(おっぱいトラブル)とは無縁でいられたこと、「これで大丈夫」と一つでも思えることがあったのは、とても大きな支えになった。

ただ、外出先で母乳をあげていること前提に「胸が張っちゃって大変でしょう」とか「アプリで左右どっちのおっぱいであげた、って記録できるんですってね」などと話しかけられた時は、答えに詰まった。

「いえ、うちはミルクなんです」と言う勇気が当時はなくて、「ええ。そうですね」などと言葉を濁した。だけど本当は、もっと堂々としていて良かったはずだ。それぞれの環境や思い、考え方があり、母乳かミルクか選択する。母乳をあげたいのに出なくて、仕方なくミルクをあげている母親もいる。

みんな、自分にとって家族にとって何が大切なのかを考えている。だからその選択を人にどう思われようと関係ないのよね。ミルク育児というだけで肩身が狭い思いをする女性が、この国からどうかいなくなりますように。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?