血文

時空がすっかり歪んでしまって。
歪んでしまったので。
目の前に産気づいた母がいる。
母の隣には産気づいた祖母が二人いる。
祖母たちの隣には産気づいた曾祖母が四人いる。
七人の女が七つの声で叫びながら、
りきんでいる。
りきんでいる。
叫び声がどんどん大きくなって、
高くなって、
私の目がそれにつられてどんどん見開かれて、
まんまるになって、
もう耳をふさいでしまえ、
と思った時、
ついに祖母が生まれてきて、
それから母が生まれてきて、
それから私が生まれてきて、
みんな血まみれで、
あたりは血の海で、
生まれたばかりの私の泣き声と、
生まれたばかりの母の泣き声と、
生まれたばかりの祖母の泣き声が、
七人の赤ん坊の泣き声が、
わんわんと響いて響いて、
生んだ母は、祖母は、曾祖母は、
静かな目をして、
知っているような知らないような顔で、
私を見ている。
わたしは両手を小さく前へならえの形に突き出して、
手をぱーにして、
ただうろうろとうろたえて歩き回るばかりで、
気が利かない、
まったく気が利かない。
曾祖母の一人がくしゃみを一つする。

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