非行少年だった息子が銀座で社長になった話#5(息子逮捕後の家族)
さて、今このnoteを書いているということは、私は生きているので安心してください(笑)
これで良かった
後ろから長男の身体にしがみつき、
「やめて!やめて!」
という次女の叫び声が耳に入ってきました。
私がキッチンで長男に包丁を突き付けられた状況の中で、果敢に止めに入ったのは次女は、一番冷静でした。
肩をつかまれ包丁を突き付けられていた私は、
「殺される…」
と静かに覚悟し完全にフリーズしていました。
・通報
次女の必死の声に、私への殺意から我に返った長男は、包丁をシンクに投げ捨てリビングに戻っていきました。
でも、次の瞬間私は”119”をダイヤルしていました。
そして、バレエのレッスン行く準備をしていた長女(長女はこの騒動の間洗面所にいたので何があったかよくわかっていない模様)と次女とで部屋にカギをかけて立てこもりました。
電話が繋がったので
「息子が刃物を振りかざして私を殺そうとしました。来てください!」
と震える声で必死に話したのですが、電話の向こうの反応があまり良くありません。
警察は事件が起こらないと動かないというのは本当で
「今は落ち着いているんですか?」
と返事されてしまいました。
でも、次に何かあったら本当に殺されるという危機感があった私は
「今、刃物を持ってまだ暴れていて私と小さい娘たちとで部屋に立てこもっている状態です!」
と、少し大げさに伝えました。
すると、
「わかりました!身の安全を守っていてください。パトカーを向かわせます」
と言ってくれたので、ホッとしました。
・非現実のような光景
しばらくすると、おびただしい数のパトカーのサイレン音が近づいてくるのがわかりました。
インターホンが鳴ったので鍵をあけると、ドドドと防護服を着た警官たちが5~6人入ってきました。
リビングにいた長男の様子を見ることはできませんでしたが、暴れることもなく警官の声掛けに反応してたようでした。
私は恐る恐るリビングに行き、様子を見守っていましたが、ほどなくして私の目の前で長男の手に手錠がかけられ、長男は警官と一緒に家を出ていきました。
・この涙の意味
長男に手錠をかけられたときのことは忘れられません。
私はその場に泣き崩れていました。
長男が警官に連れていかれた後、遅れて少年係の刑事さん達が入ってきました。
顔は忘れていましたが、おそらく昔お世話になった年配でいぶし銀のベテラン刑事さんでした。
すっかり気の抜けた私に向かって
「お母さん、通報してくれてよかったよ」
と思いがけない言葉をかけてくれました。
「このまま放っておいたら本当に罪を犯すかもしれなかったし、今の生活環境から離れることがお母さんにも息子さんにも必要だよ」
刑事さんはこんな時なのに、長男のことまで思ってくれました。
「お母さん、よく頑張ったね」
ねぎらいの言葉を聞いて更に涙が止まらなかった私でしたが、刑事さんの言葉に本当に救われた気がしていました。
刑事さんの言葉が優しすぎて心に染みていった反面、これほどの恐怖を味わったことはなかったと、今このnoteを書いていて改めて思います。
涙の意味は、この恐怖から開放された安堵感からも間違いなくきていました。
刑事さんは、包丁を証拠品として持ち出したのですが、それは検証に使った後に捨ててもらいました。
事件後
刑事さんとの話を終えて、私と娘2人は刑事さんと一緒にパトカーに乗せられて警察署まで行くことになりました。
マンションを出ると、野次馬が周りを取り囲んでいました。
パトカーもまだ数台止まっていました。
いったい何台のパトカーが来ていたのでしょう。
近所中、大騒ぎでした。
・事情聴取
少年係に入ると、私と娘2人はいったん同じ部屋に案内されましたが、事情聴取は一人ずつ呼ばれるのでその間は部屋で待機することになりました。
長女はコンクール前の大事なレッスンの日でもあり休ませるわけにいかなかったので、一番最初に事情聴取を始めてもらいました。
そしてなんと、警察署から家までパトカーで送ってもらいレッスンに間に合いました。
なかなか経験できることじゃないですが、あまりパトカーには乗りたくないですよね💦
続いて次女が呼ばれ、最後に私が呼ばれました。
通常の事情聴取が終わると、警察署内の体育館のような広い場所に私と次女が一緒に案内され、事件の再現いわゆる”現場検証”を行いました。
・現場検証
長男役を刑事さんがやり、私の証言をもとに実演していったのですが、何しろ私はその瞬間の詳しい説明はできませんでした。
「正直、恐怖で固まってしまって覚えていません」
と話し、一部始終を見ていたのは次女なのでそこからは次女の証言をもとに進めていきました。
長男からどんな風に包丁を突き付けられたのか、どうやって肩をつかまれたのか、角度だとか包丁と私の距離とか…って?
そんなことを聞かれても当事者が答えれらるわけないじゃん!と思いましたよね…
場違いな父親
逮捕された後の長男の動向は、あまり詳しく知らされていませんでしたが、検察署に行ったりしつつしばらくは警察署内の留置所にいたようです。
面会するかどうか連絡をもらったのですが私は行けませんでした。
ところが、それまで何ひとつ長男の問題にかかわってこなかった元夫が、父親面して長男に会いに行くと言ったのです。
・刑事さんも驚きの言動
すると、面会に行った元夫の行動に驚いた刑事さんが、私に連絡をくれました。
それによると、元夫は長男と対面するやいなや突然殴りかかり、同席していた刑事さんに止められるまで暴言と暴行が収まらなかったと言います。
連絡を受けた私はあまり驚かず、残念ながらそんなものだろうと思いました。
長男には、申し訳なかったのですが…
・父親面する心理とは
実は元夫、警察署内で長男を殴ったことがあるのは2回目でした。
1回目は中学生時代の補導で、引き取りに行った時です。
引き取りは、どの子も基本母親の時がほとんどでしたが、その日はなぜか父親が行きました。
今思うと、殴る気満々で行ったのではないかと思います。
とっくの昔に父と息子の信頼関係なんて崩壊しているのに、自分が長男に何を言っても無駄だと気付かなかったのでしょうか。
そして、お決まりの暴力で自分の感情を吐き出して終わりです。
それを、警察署という公衆の面前で行うことの心理的な意図とは?
父親の威厳でも見せつけたかったのでしょうか?
少年係でいろいろな親子を見ている刑事さん達を前にしたら、そんな行為はわざわざ親子関係の欠陥を露呈したようなものだったと思います。
穏やかな日常
数日後、長男が鑑別所に収容されたという連絡があり、最低でも2週間から4週間の鑑別所生活が決まりました。
・やっと訪れた平穏
我が子が”鑑別所”に収容されているという現実に多少心が痛みましたが、娘たち2人への影響を考えると長男のいない生活は平穏で落ち着いたものでしたから、心底ホッとしていました。
丁度、夏休みだったこともあり次女とはゆっくり過ごすことができましたし、長女も事件直後のコンクールでまさかの立派な成績を収め、長女にもゆっくり向き合うことができました。
・日にち薬
それでも、一日一日が過ぎていく中で長男はどうしているのか気にならない日はなかったです。
事件の日の出来事、前からあった問題行動、私や元夫の親としての対応…
どれをとっても、何かが変われば結果は違ったのでしょうか。
それとも、私だけが被害者…?
親子関係をじっくりゆっくり考察するには、いい時間でした。
逮捕された日、刑事さんが言っていたように”距離を置く”のは効果があるんですね。
というか、そこまでしないと修復できないくらい深い溝ができてしまっていたということでしょう。
でも、それに気付けたことは不幸中の幸いといっていいのかもしれません。
私自身は命があってよかったですし、長男は殺人犯にならずに済みました。
・家族再生の準備
夏が終わる頃、最初に決められていた収容期限の4週間が経とうとしていました。
4週間経とうとしていた時点での私の気持ちは
「早く迎えに行きたい」
と思っていました。
このタイミングで、家族でこれから先の長男への対応を話し合う必要があったので、
「全員一致で長男を家庭に戻したいと思っています」
と鑑別所に伝えました。
そして実際に、鑑別所にいる長男に面会に行くことになりました。
その前日は、ドキドキして眠れませんでした。
久しぶりに会う長男はどんな様子なんだろうか、会ったらどんな言葉をかけたらいいのか…
そんなことを考えていると事件の日のことばかり思い浮かんできてしまいました。
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