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満たすもののためのテキスト#03

「満たすもの」ははじまりと、終わりの間を続けていくために「満たしていくもの」ではないかと考えている。

場所を構えることと、続けていくことと、続けないことは全部セットでもある。この場所、リトルライトシアターを閉じることについて考えることは、とても具体的な不安だが、この不安が完全に 解消されるなんてことは、全くない。

Covid-19 の影響を体験して、「こういうものだ」や日 常はあっという間に変容するものだと間近にじっと見たのと同じように。生き物として始まりと終わりがあるように、店や事業にも始まりと終わりが、調子が良い時と悪い時がある。 人の体を健やかに保つコツがあるように、店にも事業にも元気を保つ、出すコツが、あると 思う。

自分でコントロールできないことは悩まない。というのは新潟でお世話になったバー「カマラード」で 教わったこのとひとつ。Covid-19 のようなできごとは、自分ではコントロールはできない が、自分の店で何を、どんなことをするのかは、検討しがいのあることだ。始まりがあって 終わりがあるのは決まっているが、その間に起きること、起こすことは自分がハンドルをとることができる。ハンドルを握るのは、自分。始まりと終わりの間という乗り物を、どう乗 りこなすかは、自分の考え方と行動でどんな経過も結果も起こる。

リトルライトシアターの4周年記念の企画の主軸を「大橋さんの鎚起銅器」のオーダー企画にしようと考えたの は何故だろうかと考える。

いつか形にしようと思っていたから。

色々な人が関わって組成さ れてきた「リトルライトシアター」という場所や「Bar Book Box」を体現することになると考えた。

それもある。

けれどもきっとそれだけではなくて。ここから先は、このテキス トを書きながら少しずつ見えてきたこと。そういうことなのかもしれない。

大橋さんとの最初の縁は、秋葉小夏に出店させてもらった時からはじまった。思えば、現在色濃く一緒に仕事をしている人たちは、秋葉小夏で出会った人たちばかり。あそこでの出 会いそのものが、会場だった森のように色々な人が、一番得意なことを、楽しく、面白く、 思い切り。手かげんなく出力していた場所だった。

それから、折にふれ大橋さんは声をかけてくれて、多様な取り組みの幾つかで一緒に仕 事をさせてもらった。大橋さんの個展でのバー出店や、鎚起銅器のたのしみ方を提案するユ ニット企画「鎚起銅器30日コーデ」も。こちらはあかねさんとの3人チームで今回の「満 たすもの」につながっている。


鎚起銅器の ちろり の製作企画「とりちろり」で自在にオ ーダーができる自由を知り、オーダーをするために自分の好みや欲を把握し、知覚し、伝え ることのハードルを知った。


酒の陣で大橋さんが異色の個人出展をする、ということで、私 としては酒蔵勤め以来の酒の陣ブースに立ち、日本酒ではなく鎚起銅器を案内した。

つばめ の学校というオルタナティブな文化力を自分たちで積み上げるこころみであるチームにも 気づけば参加をしていた。


ものづくり学校に大橋さんが拠点を構えた時は、工場の祭典が開催される時に何をしても いいですよと声をかけてくれた。「singing hands」という企画をたて、1度目は新潟で手仕 事を営むひとたちの展示を。


2度目は、大橋さんの手仕事と私にとって、同じ地平線に存在する金沢のイギリスアンティーク専門店「フェルメール」のシルバースプーンと大橋さんの 鎚起銅器の展示を行った。



振り返ると大橋さんからもらったきっかけは様々で、前橋の「AVANTI」さん にもつな いでいたたいだ。大橋さん渾身の書籍「俗物」刊行記念のリリースブースを勝手に担当し たりもした。

なんというか、世話になりっぱなしであることにあらためて気づき驚く。大橋 さんの新しい拠点「石瀬の家」でも、大橋さんのもうひとつの柱である活動家としての大事 な取り組み「風フェス」をサポートするイベント「風フェスマルシェ」で共同代表として運 営してきた井上真由美さんと大橋さんの対談進行も得難い体験となった。

折に触れ、大橋さんは声をかけてくれる。そしてその内容は「おお、こう来たか」という わたしの想像値からは離れたエリアを指差して、あそこに行ってみませんか、という声かけ なのだった。わたしのなかでの大橋さんは、そういう人である。その道行は大変なことも多 いけれどとても有意義で面白い。

なぜ、4周年企画の主軸を大橋さんという人にしようと思いついたのか。それは、始まり と終わりの間。自力でなんとかすることができる間を、不安も楽しみも燃料にして、どうす るか、どう乗りこなしていくか、というこころみを、鎚起銅器職人としての日々は勿論、続 けていくための努力を、仕掛けを、過剰な熱量でやり続けている人だから、だと思う。



その過剰な熱量がたちあげ続けるこころみのいくつかに同乗してきた。理念の頑強さを肚 におとしながらも「まずやってみる」心意気に厚い人である。4 周年企画を考えはじめた時、 具体的な不安がやってきた。このなくならない不安にフタをするのでなく、燃料にする企画 を実行したかったのだと感じている。「まずやってみる」過剰な熱量を持つ大橋さんに、随 分時間がかかってしまったが、大橋さんがまだこしらえたことのない、「私が欲しい機能を 形にするためのツール」の鎚起銅器のオーダーを、オーダー会というスタイルでしてみよう と決めたのだと観察している。

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