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私にとっての坂本龍一氏

2023年4月2日、坂本龍一氏の訃報が報道されました。
いつかこの日がきてしまうという覚悟はしていましたが、実際にきてしまうと喪失感でいっぱいになっています。

先日に、私、宇津木紘一の音楽のルーツとして「ジャズ」について投稿しました。その後様々な音楽を深掘りしていく中で、坂本龍一氏の存在は私の中でとても大きく、たくさんのことを教えていただき与えてくださいました。

私が坂本龍一氏の音楽に最初に触れたのはおそらく中学生だったころで[YMO]だったと思います。その当時の私はピアノを習っていたぐらいで、音楽よりも野球や陸上競技といったスポーツに傾倒していました。

その後月日は流れ、私は高校時代はバンド活動、専門学校からはジャズサックス奏者として活動をしていました。そのときも坂本龍一氏の音楽に触れていたのですが、深く掘り下げることはありませんでした。

大きな転機になったのは、坂本龍一氏のピアノアルバムの楽譜 [/05] を書店で偶然購入したことです。
当時私は「ジャズ理論」を使ってジャズやフュージョンの曲を作っていましたが、限界を感じ(ジャズ理論もいろいろあるので当時の私の理解は狭い範囲でのジャズ理論だったと思います)「クラシックの和声」の研究を始めていました。

さらに現在の作曲家を分析しようと思い楽譜を買いに行きました。
お目当ては別の作曲家だったのですがたまたま偶然にこの楽譜がその作曲家の楽譜の隣に置いてあり購入しました。

本人監修というこの [/05] でピアノを弾きながら分析したところ、私の中ではジャズとは全く違うサウンドの深みを感じ「何が違うんだろう」と坂本氏のサウンドの研究に没頭しました。
ジャズとは違う響き、もちろんジャズとの共通項はあるにしろそれとは一線を画す響き。私は一から和声を学び直すことにしました。

研究を続けていくなかで、ジャズと坂本氏(クラシック的なとでも言いましょうか)のサウンドの違い、それは「ファンクションの扱い」に大きな違いを感じ可能性を感じました。
トニック、サブドミナント、ドミナント、ナポリ (→ アルノルト・シェーンベルクよるもの) の3つ(4つ)のファンクションをどう扱うか、これは私の作曲に大きな影響を与えました。

ファンクションの理解はこの「坂本龍一の音楽」という本により深まり、現代音楽の音楽理論のバルトークの「中心軸システム」や、メシアンの「移調の限られた旋法」を研究することに繋がりました。

細かくなりますが「分数コード」や「ポリキー」「ポリファンクション」「リハーモナイズ」といった技法も、ジャズのものとは私の中では違う捉え方をされており大いに参考になりました。

「和声」や「対位法」といった音楽理論的な拡張だけで無く、
クラシック音楽、中世の音楽、民族音楽、電子音楽、アンビエントミュージック等々、今の私の音楽の趣向を構築できたのは坂本龍一氏のおかげです。

よく周りから「ノンジャンルに音楽を聴きます」ということを聞きますが、「本当のノンジャンルというのはこういうことなのか」と自分の無知さを思い知らされたことへのショックと同時に嬉しさを感じたのを覚えています。

坂本氏の音楽のなかで「戦場のメリークリスマス」「energy flow」「映画音楽」の楽曲ももちろん素晴らしいのですが、
個人的には「Suites for Piano」「River」「Just for Me」といった坂本氏の深みを知れる初期の楽曲にもぜひ触れていただきたいです。
こちらは坂本龍一氏による演奏ではなくピアニスト岡城千歳氏による演奏ですが、聴くことができます。

Fennesz, Alva Noto, Ensemble Modern, Christopher Willits, Taylor Deupree等とのエレクトロミュージックは、電子音を私自身の音響や制作に大きな影響がありました。

音楽とは。アートとは。美しさとは。何が大事か。
私は今、坂本氏のラストアルバムとなってしまった [12] を聴きながらこの記事を書いています。

先日放送されたテレビ番組「関ジャム」の坂本龍一特集にて本人がおっしゃっていた、「世界にもっと目を向けるべき」ということ。
日本の音楽は今、日本の中のみでのドメスティックな市場での思考になってしまっているところもあることを危惧しておられたのだろう。

様々な「音楽」「音響」「アート」「テクノロジー」取り入れれば取り入れるだけ間違いなく素晴らしい世界が見えてくる。が、増えればそれだけ複雑になるし手間も増える、つまり苦しくなる。

アートの発展には広い見地や思考、理解が不可欠。
いつの時代もあらゆるものに目を向け取り入れて作品を発表し続けた坂本氏。これからも私の心の大事なところにしまい、前進していく所存です。

「私にとっての坂本龍一氏」という極私的な思い入れの内容になってしまいました。この他にも書ききれないぐらい想いがあるのですが、今回はこのあたりで終わりにしようと思います。

坂本龍一氏に「ありがとう」の感謝を込めて。

UN.a 宇津木紘一


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