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浮ついた気持ちのままのシーツの上で、

「マジでびっくりしてる、男でも惚れるくらいカッコよかったからお前」
人生初めての恋は、こんな形で、たった一瞬で、崩れ去った。
そう言われた私の髪の毛は、彼よりも数センチ短かった。

この傷の深さを知った以上、私は今後恋愛から縁を切ろうと固く心に決めたのである。これは恋愛ではなかった。と。言葉の末尾を想像する。おそらく「女として見れなかった」や「女として見てすらいなかった」それどころか「お前は女では無い」と彼は言いたかったのであろう。正直にその言葉を受け取っていたなら、私は今こんなに美味しい家系ラーメンを食べられていない。多分。

周りの女子たちがプリキュアごっこにハマり出した頃、私はみんなと同じようにキュアドリーム役を奪い合っていた。
周りの女子たちがお絵描きにハマり出した頃、私はみんなと同じようにキラキラデカ目の女の子達を量産していた。
周りの女子たちが一輪車にハマり出した頃、私は何故か「お前らみたいにはなりたくない」という反骨精神が芽生えた。その言葉の末尾にはきっと「折角の昼休みは体力がなくなるまで走る他ないだろ」という意味が込められていたはず。
周りの女子たちがメイクに目覚め出した頃、私は何故か「お前らみたいにはなりたくない」という反骨精神が芽生えた。その言葉の末尾にはきっと「お前らみたいにメイクが似合わないし、可愛くもないし、肌も白くないから」という意味が込められていたはず。
周りの女子たちが制服アレンジに目覚め出した頃、私は何故か「お前らみたいにはなりたくない」という反骨精神が芽生えた。その言葉の末尾にはきっと「お前らみたいにリボンを着こなせないし、スタイルが悪くて足が出せないから」という意味が込められていたはず。

いつからだろう。世間一般の”女道”から外れてしまったのは。外れるべくして外れたのか私には分からない。
自分は女だという現実から目を背けたくなったあの頃。
髪を刈り上げた。
自分は女だという現実を忘れることが出来た。
「かわいい」の代わりに貰った「かっこいい」がいつしか自分の存在価値になった。
「女らしい」女じゃない、「男らしい」女に。
スカートが揺れる。
スカートが揺れる度に、私の心は揺らぐ。
自分は女だという現実を忘れることが出来た。と思っていた。
好きな人が出来てしまった。
好きな人には好きな人がいて、その好きな人はとてもとても女らしかった。
綺麗に整えられた前髪と、後ろで均等に揺れるポニーテール。うっすらと色付く頬と唇。その娘はいつも笑っていて、くしゃくしゃの笑顔がかわいかった。
かわいらしさじゃ到底叶いそうにない。だからかっこよく。
友達のように、気を遣われないように、明るく、大胆に。
でも、ダメだった。
所詮は女だった。
自分は女だという現実から逃げていただけだった。ろくに会話もできないまま告白まで押し切り、見事にかわされた。ダサい。

ああ、美味しいはずの家系ラーメン。今日はしょっぱくて食べられやしない。伸びかけの髪がスープに浸かりそう。メイクは崩れるから好きになれない。今から私のことを好いてくれた人と会うのに。
女として生きる私が輝ける場所を求めて、今日も昨日と別の人の腕枕で眠ることにする。あの頃とは違う私。でも、こんな生き方はしたくなかった。髪が長くて、メイクをしていて、スカートを履いていて、胸がそれなりにあって、尻がそれなりにあって、好きな色はティファニーブルーで、恋愛経験はほどほどにあって、好きな食べ物はショートケーキな女の私はいつまで経っても眠れないから。
「こんばんは、初めまして」


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