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岡本かの子「金魚繚乱」からみる弱者男性の正体とは?

2024年3月3日(日)に開催するイベントで 著:岡本かの子「金魚繚乱」を朗読させていただくのですが
先に作品に対して感じた私の考えをシェアさせて頂きます。


▪弱者男性の定義

男性が見たときにどう感じるのかは分かりませんが、私から見たら「どうして女性なのに男性の解像度がこんなに高いのだろう」でした。
「金魚繚乱」ってどんな作品なの?と周りの方に聞かれたときの私の答えは
「弱者男性がひとり相撲している作品だよ」です。

ですがその前に、今回の記事で使用する弱者男性という言葉に対しての認識のすり合わせをさせてください。

内閣府NPOのホームページでは

この法人は、弱者男性本人またはその支援者に対して、保護、地位向上、および彼らへの社会的認知の啓発を実現するための団結を促進・支援する事業を行い、「男性の幸福を願う男性」の幸福追求権が正当に尊重される社会の実現に寄与することを目的とする。ただし、ここでいう弱者男性とは、痴漢冤罪や痴女などといった性犯罪の被害にあう、配偶者あるいは恋人からのDVや周囲の者から苛めや虐待を受ける、精神疾患や環境によって就職が困難な者等であって、尚且つその事実または意見が社会的に広く認知されていないような男性をいう。

日本弱者男性センターHPより引用

とあります。

Wikipediaには

弱者男性(じゃくしゃだんせい)とは、独身貧困障害など弱者になる要素を備えた男性のことである[1]

この言葉は、マジョリティであり強者であるとされる男性の中にも、恵まれない者や不幸な者がいると論じるときに用いられる[2]。2010年代からSNSを中心に使用されるようになった[3]

Wikipedia弱者男性より引用

今回はネットミーム的な意図ではなく、Wikipediaが定義している「独身貧困障害など弱者になる要素を備えた男性のことである[1]。」として使用してまいります。


▪女性が描く男性像

主人公の復一は

・渋々金魚屋家業を継いだ夫婦養子に育てられた
・金魚屋は「貧乏旗本の体ていのいい副業」と言われる
・復一達が住んでいる「崖下」の住人たちは「崖上」のお屋敷に対して反感を持っている
→なぜ反感を持っているのか?それは漠然とした階級意識から生まれている。

と、簡単に生まれや育ちを並べただけで「なるほど、これは弱者男性」と納得してしまうのではないでしょうか?

そして崖上のお嬢さん「真佐子」に対して恋慕と劣等感を抱きながら何年も過ごすのですが・・・

\最終的に復一と真佐子には何も起きません!/

\本当に何も起きないんです!/

私的にはここがハチャメチャに面白くて・・・

もしかしたら悪口だと受け取ってしまう方もいらっしゃるかもしれないのですが
復一の「しょーもなさ」が本当に解像度が高く描かれているのです。

幼い頃散々意地悪をしていたのに
他の女性との関係を匂わせる手紙を送っているのに
自分から明確なアクションを起こしていないのに
どこか「真佐子は自分に気がある」「なんだかんだある」という部分が透けて見えるのです。

アクションを起こして、正直に胸の内を伝えて傷つくのが怖い
受け身のままで現状が変わると漠然と期待している
自分の感傷には敏感なくせに、他者を平気で傷つける
自分の感情が崇高なものだと思っている(無自覚)
などなど
本当に「しょーもない」のですが、岡本かの子氏の文章で描かれるとなんとも美しいものに感じるので不思議です。

だって、読んでみてください。
これは秀江を抱いておいて真佐子から結婚していると知らされた時の復一です。

復一は試験室の窓から飴あめのようにとろりとしている春の湖を眺めながら、子供のとき真佐子に喰わされた桜の花びらが上顎の奥にまだ貼り付いているような記憶を舌で舐なめ返した。

「真佐子、真佐子」と名を呼ぶと、復一は自分ながらおかしいほどセンチメンタルな涙がこぼれた。

青空文庫より引用

ずっと文通していたのにね。
気がない所か結婚をしていた事も知らされていなかったのね。

なんていうか・・・復一が思いを告げないのも

論文を纏まとめれば纏められないこともなかったが、そんな小さくまとまった成功が今の自分の気持ちに、何の関係があるかと蔑さげすまれた。早くわが池で、わが腕で、真佐子に似た撩乱の金魚を一ぴきでも創り出して、凱歌がいかを奏したい。これこそ今、彼の人生に残っている唯一の希望だ、――

青空文庫より引用

と、ぐだぐだ言いながら論文を完成させないのも
復一という人間の、ある種の卑怯さが透けて見えてきませんか?

そんな所に私は「わぁ・・・なんて弱者男性的」と思ってしまったのでしょう。
彼は自分から弱者男性でいることを選んでいるように見えたのです。

復一のような人間を〇〇でたくさん見てきました。
(流石に物議をかもすのでメンシで書きます。)

そして私には上記のような行動が「こういう男の人っているいる~!」と思ってしまうのです。
男性からみたら全然違うのだと思いますが、私(達って言ったら主語が大きいけれど)から見たら「ねぇ、分かる!」となるのです。

photographer/Risako Sueyoshi

▪都合が悪い女

女はミステリアスに描かれがちであるし
ある時は聖女として
ある時は売女として
男性の欲望を満たし続けてきたもはや概念。

著:三島由紀夫「豊饒の雪」に出てくる聡子に通じるように見えて真佐子は全然違う。
だって真佐子はずっと「都合が悪い女」なのです。

聡子もナオミも男性が「振り回される悪女」でありながら、なんだかんだ主人公に対を裏切らないのです。
ハーレムものに出てくる「絶対に主人公を好きなるヒロイン」と実は変わらないのでは?と思っています。
その点 真佐子は復一の事も好きでなければ旦那さんの事も好きではないのです。(ように受け取れる)
彼女の興味は金魚をはじめとしたや建築や服飾などの美しいものにあるように見えます。
それを享受するための教養も持っています。
旦那さんと結婚しなくても勝手に楽しく暮らしていただろうなと思えます。

・(自分へ/復一)に)興味や好意がない女
・(復一には理解しがたいであろう物事を楽しむ)教養を持っている
・精神的にも経済的にも自立している

↑働いてないじゃん!親の金じゃん!と思うかもしれませんが、当時の時代背景から鑑みて「結婚しないと生きていけない/男性に頼らないと生活できない状態ではない」ので自立していると私は捉えました。

真佐子は復一が優位にたつことが出来ない「どこまでも都合が悪い女」なのです。

復一から見た真佐子の雄弁な無機質さを表現できたのは、岡本かの子氏が女性だからではないか?と私は思いました。

まぁ復一も真佐子も自分勝手ではあるのです。
ですが人間は自分勝手な生き物なので。

過剰じゃない・美化されていない女性像が、読んでいてとても新鮮でした。

「生命感は金魚に、恋のあわれは真佐子に、肉体の馴染みは秀江に。よくもまあ、おれの存在は器用に分裂ぶんれつしたものだ」

青空文庫より引用

なんて感傷に浸っている復一より真佐子の方が器用に分裂しています。
結婚/子育て/自分の人生の楽しみ
それぞれ割り切って生きているように見えるのです。

実は男性の方がロマンチシストですよね。岡本先生、解釈一致です!


▪弱者男性の正体

著:岡本かの子「金魚繚乱」に見る弱者男性の正体とは
「傷つくのが怖くて何事も成しえない受け身な人」だと私は思いました。

流行りに乗って「弱者男性」にスポットを当ててみましたが
この作品自体は本当に美しくて

人間が命を弄る高慢さとか
どうやって生きる意味を見出して、縋って生きていくのかとか
負けたら人生は終わりなのか?など
面白いテーマが多分に散りばめられている作品です。

短編ですのでサクッと読めてしまいますので、是非本編もご一読いただけますと幸いです♡

面白いですよ!

論文を提出しない所で「お前!そういう所だぞっ!」と声に出して突っ込んでしまいました。笑

真佐子に向かいあえないなら、せめて仕事には責任もって向き合うんだっ!!!!
復一ぃいいいいいい!!!!!

「復一なら出来るよ!」って励ましてあげたい。笑

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