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キテレツ食事体験


旅先で発見した

「日替わり定食500円」

と書かれたごはん屋さん

値上げが続くこのご時世に
貧乏旅行人にはありがたい価格!と
偵察気分で入店してみたら

今までにない食事体験が待っていた

そんな話をします。



場所は愛媛県の道後温泉街。

道後温泉といえば
夏目漱石「坊ちゃん」ゆかりの地

そこにあった「坊ちゃん」という名前のお店

ド直球。
これは気になるでしかない。
いざ入店。


店内はオレンジ色の明かりがついており、
テレビの音が大きく響いている。
座席はカウンターのみで
ボトルキープのお酒がずらりと並んでいる。
定食の文言につられてやってきたけれど、
スナックのような印象だ。



「1名です」
「ん」

シンプルすぎるやり取りだった。

着席のためにお客さんたちの後ろを通る。
通路がやや狭いため、小さく謝りながら通る。
しかしみんなこちらを一瞥もせず、
料理にがっついている。
千と千尋の神隠しのあのシーンを思い出した。
期待が膨らむ。


奥の席に着くと
「そんな奥に行かんでもええのに」
とのお声掛け。
寡黙なお方かと思いきや
笑顔が素敵なマスターだ。
手前側に移動。

マスターはご年配の女性。
80歳くらいなのかなあ?
丸まった背中がかわいらしいけれど
凛としたお顔立ちで手の動きも速い。
お一人で切り盛りしている様子だ。

日替わり定食を頼もうと思うが
マスターの都合のよいタイミングで注文をしよう、
ゆっくりさせてもらおう、と考える。


すると突然

「ごはん食べる?」と聞かれ

反射的に「はい!」と答える

どうやらここには
メニューがないようだ。

あまりに突然のことで
呆然としてしまった。

…ごはんって日替わり定食のこと?
…大丈夫そ?
…まぁこのまま待ってみるか!


「はい、お茶ね」

マスターからカウンター越しに
2リットルのペットボトルと
キリンビールのグラスを渡される。
思わず「はい!」と答え受け取る。


新しいセルフサービスの在り方だ。

何か言われるたびに脊髄反射で
「はい!」と言ってしまう。
しかも結構なボリュームで。

初っ端から圧倒されまくっている。


周りのお客さんからしたら私は
ビビり散らかしてるくせに声デカい奴
という感じだっただろうなあ…。


グラスにお茶を注ぎ、
店内をもう一度見渡す。

何かを焼く音と美味しそうな匂い
もくもくと食べているお客さん達

ここは温泉街で観光地だけど
地元の人に愛されているお店なのかな
発見できてラッキーだったな
そんなことを考える

そしてコレに釘付けになってしまった。

♡我等友情永久不滅♡

昔こういう待ち受け流行ったなあ。


しばらくするとマスターがカウンター越しに
おかずを1皿ずつ渡してくれた。

お。
家庭料理だ。いいね嬉しい。
お肉だ。
お野菜もいいんですか。ありがとうございます。
わ、いい匂い!美味しそう!

順番に受け取り終えると

「ごはんはこのくらいか?」
との声掛け。

マスターの方を見ると
大きなお茶碗に
モリモリの白米。
漫画でよく見る山型のアレ。
食いしん坊の私でもさすがにキツい。

「もうすこし少な目でお願いします」

「このくらいか?食べれるね?」

と言いながら
1口分くらいしか減らしていないマスター。

全然量が減っていないことに
笑ってしまいそうになりながらも
「頑張ります!」と答え受け取る。

当然だが
受け取ったお茶碗はずっしりと重い。
わんぱくな部活少年が食べる量だ。


いただきます!

お味噌汁は甘めで深い味わい

お野菜は優しい塩味の中に辛みもある

お肉はカリカリとジューシーの焼き加減が神

これはごはんが進む〜!!


…書き忘れていたんだけど
写真に写っているたくあんは
「たくあん食べるか?」
「ぜひ、いただきます」
「これ持ってって」

タッパーごと渡してもらったものを
私がごはんに添えたものである。

ずっとこんな調子なのよ。


それにしても美味しい。
ごはんの量は野球部の合宿だけど。
しかし、
一生懸命にとか、無理してとか、
そんなこともなく食べる切ることができた。
それはおかずが美味しいからだよね。

マスターに一皿ずつお返しする。


すると

「コーヒー飲むか?」
「はい!」

またやってしまった。
脊髄反射。

満腹だからコーヒーはなくてもよかった。
しかし返事をしたからにはいただこう。

ほっとする〜HOT COFFEE〜


素敵なカップだ。
ミルクも入れてくれた。
ありがとう、マスター。


さてそろそろお会計、と思ったが、満席。
マスターは料理をするために
カウンターに背を向けている。

忙しいよね。
マスターのタイミングに合わせよう。

ひとまず
「ごちそうさまでした」と言うと、
隣に座っていた常連さんが
「500円ね。ここに置いとけばいいから」
と教えてくれた。


いやいや
ガバガバすぎでしょ。驚いた。

そして「ごはん食べる?」で始まった食事が
ちゃんと日替わり定食だったことに安堵した。

500円…食後のコーヒー込み…お得…。

もう、なんというか、
最後まで情報量というか、
考えることが多い。
むしろまだついていけていない。
落ち着くためにもう一杯コーヒー飲みたい。

…などと考えていると
マスターがこっちを向いてくれた。

常連さんが「お代、ちょうど貰ってるよ」と
私の代わりにマスターに手渡ししてくれた。

常連さんにお礼を言う。

そしてマスターへの挨拶は
お礼と美味しかったという感想で済ませるつもりが
これからも頑張ってください、と
思わず言ってしまった。

ありがとうね、
またおいで、と言ってもらえた。

なんだろうな
他のお店でそう言われるよりも
嬉しく、温かく感じた。
それはマスターのご年齢があるのかな?
わからないけど、グッと来ちゃった。

どうか身体に気を付けて、
これからも色んな人に、
キテレツな食事体験を
提供してあげてほしいな。

私もまたいつか
実家のような気分で
この場所に帰ってきたい!
と思う。
そんなお店のお話でした。


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