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『望まない離職』とは、誰にとっての何であるかということ

# これはなに?

## 『望まない離職』とは何か

こんにちは。手塚といいます。
みなさんは、離職というものを聞くと、どんなイメージがわくでしょうか。

色々な感想があると思いますが、100割ポジティブ!なイメージを持つ人は少ないのではないでしょうか。
寧ろ、離職は寂しく、企業にとっても損失で、本人としても諦めのような部分を伴う、のようなネガティブなイメージを持つ人もいると思います。

実際に、『もっと働いてほしかった』、『もっと働きたかった』そのような気持ちを持ちながらも離職してしまう…『望まない離職』が存在していると私も考えます。

しかし、その『望まない離職』とは結局何なのか?誰にとっての何が起こっているのか?つまり、良いことなのか悪いことなのか?
そう考えるうち、自分の離職という事象に対しての解像度も思想も、とても水準が低いことに気付きました。

このnoteは、その『望まない離職』を含む離職という事象について、私が考えてみた記録です。その輪郭を数字ベースで捉えることから始まり、その解釈、さらに個人的な解釈を交えた論旨を述べるという順で進めていきます。

## 伝えたいこと

・望まない離職は過程論であり、結果としては全て「望まれた」離職である。
・離職そのものの善悪は考えても無駄、むしろ口を出すべきではない。
・向き合うべきは望まない離職の過程にある。

## こんな人は読むといいかもしれない

・離職に関しての価値観に迷いがある人。
・離職ってさほど問題じゃないよね、と思っている人。
・職場における離職率が高く、少し心が辛くなっている人。

# 離職とは何か

# 辞書的な意味

離職
《名・ス自》雇用関係が消えて職を離れること。

離職とは、仕事をせず失業している事を指す言葉である。退職した事実そのものを指す場合もあれば、失業の状態を指す場合もある。

本noteでは、離職は多角的な状況を表現できる単語であることを意識しつつ、基本的には辞書的な意味に準じて離職=雇用関係の解消という事象について論じていくこととする。

では、一般的に離職とは、よいものだろうか、悪いものだろうか。
まずは、解釈を挟まない数値としての離職についてのデータを見て、その輪郭を捉えることから始めようと思う。

# 数字で見る「離職」

## 入職率と離職率

令和元年1年間の入職者数は8435・4千人、離職者数は7858・4千人で、入職者が離職者を577・0千人上回る結果となった。

一般労働者は、入職者数4348・2千人、離職者数4171・2千人で、入職者が離職者を177・0千人上回っている。パートタイム労働者は、入職者数4087・2千人、離職者数3687・2千人で、入職者が離職者を400・0千人上回っている。

年初の常用労働者数に対する割合である入職率、離職率を見ると、入職率は16・7%、離職率は15・6%で、入職超過率は1・1ポイントとなっている。

下のグラフも含めると現在は離職者の数よりも入職者の数の方が多く、率としても入職者の方が高い水準となっていることが分かる。

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業種別の離職率はどうだろうか。令和元年1年間の労働移動者を主要な産業別に見ると、入職者数は宿泊業、飲食サービス業が1,671万人と最も多く、次いで卸売業、小売業が1,539万人、医療、福祉が1,210万人の順となっている。

令和元年1年間の労働移動者を主要な産業別に見ると、入職者数は宿泊業、飲食サービス業が1671・8千人と最も多く、次いで卸売業、小売業が1539・1千人、医療、福祉が1210・5千人の順となっている。いずれも入職者の数が離職者の数を上回っており、率としても高い水準を示している。
一方、これらの業界の特徴としては業界別のグラフにおいても高い水準で入職者がいる一方、離職者の水準も高く、各業界の中でも人員の定着に課題あることが伺える。

また、下のグラフの内容を含めると、離職者率が入職者率を超えている業界も存在している。電気・ガス・熱供給・水道業がマイナス7・2ポイントと最も低く、次いで、鉱業、採石業、砂利採取業がマイナス5・2ポイントである。そのほか、金融・保険の業界でも離職者率が入職者率を超えており、業界によっては離職者の数が入職者を上回る事象も生じていることが分かる。


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## 絶対数としてのトレンド

将来的な離職者のトレンドとしては、どのようなものが考えられるだろうか。

前提として、日本は人口減少が始まっている国であるということを念頭においておきたい。
少子高齢化が急速に進展した結果、2008年をピークに日本における総人口は減少に転じており、人口減少時代を迎えている。そのような人口動態により、15歳から64歳の生産年齢人口は2017年の7,596万人(総人口に占める割合は60.0%)が2040年には5,978万人(53.9%)と減少することが推計されている。(下グラフ)

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そうなると、入職率や退職率のトレンドが変わらないと仮定した場合に、人口の減少によってそれぞれの絶対数の減少は避けられない。

## 人口動態の影響を受けるだろう離職①介護離職

2017年に介護・看護を理由に離職した人数(介護離職者数)は、9万9000人であり、過去1年間に前職を離職した者の1.8%(介護離職率)に相当するとの調査がある。グラフを見ると、2012年と同水準のまま推移していることが分かる。

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介護を行いながら就業する方の数は、男女での差が生じている。男性よりも女性の方が、介護を行いながら就業する割合(総数)が平成24年度においては高い。

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## 人口動態の影響を受けるだろう離職②育児離職

第一子出産を機に離職する女性の割合は、1985年より継続して6割程度の高水準にあった(厚生労働省「出生動向基本調査」)。しかし、第一子出生年2010-14年には、第一子出産離職率が 46.9%にまで大きく低下している。リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)」の調査によると、その後の推移をみても、2016年に45.0%(第一子出生年2011-15年)、2017年に44.2%(第一子出生年2012-16年)、2018年に44.2%(第一子出生年2013-17年)と低下している。

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※介護・育児ともに、離職者の離職理由のうち約1%であるという調査がある。また、令和元年の調査では、自己都合退職の理由のうち1%未満であるというデータもある。
離職者全体における割合は高くないものの、今後の人口動態を鑑みた際に変動する可能性のある離職のケースとして、記載しておく。

## 有効求人倍率

日本における有効求人倍率(求職者1人あたりに対する企業の求人数)は平成26年平均において1を超える数値となり、それ以降は年平均で1を割ることがない。
昨今のコロナ渦の影響があり業界によっては新規の求人数が減少しているが、依然として有効求人倍率は1を超える数値となっている。

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ただし、雇用形態別に見た際には正社員の有効求人倍率(季節調整値)は0.82倍となっており、1を割っている数字である。

## 企業数の推移

視点を変え、需要側の動態はどうだろうか。日本の企業数の推移を確認すると、年々減少傾向にあり、直近の2016年では359万者となっている。このうち、中小企業は358万者である。

また、1999年を基準として規模別に増減率を見ると、いずれの規模においても企業数が減少してはいるが、特に小規模企業の減少率が最も高くなっている。

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# 離職は善か、悪か

## 国にとっての離職 -労働力不足の本質

先述の調査の内容から、以下のことが分かっている。

・入職者数>離職者数である。
・人口動態として入職者数の絶対数としては減少の推定がなされる。
・企業数は減少傾向にある。

そうなった際、離職はよいか悪いかでいうと、どうだろうか。

まず、入職者の方が離職者よりも多いということで、マクロ環境で見た際にも最低限の労働力担保ができており、現状維持が可能であると解釈ができる。

とはいえ、入職者数は減少が推定されており、企業の数が減少傾向にあったとしてもどちらの減少角度に口が開くかは定かではない。そうなると、極端な話として企業数が現状を維持し入職者数が減少した場合に労働力不足は顕在化する。

また、今回の調査はいずれも「入職」「離職」といった輪切りでの数値となっている。つまり、以上のデータだけでは、その後の定着や継続の部分については推定が難しいということである。仮に入職/離職率ともに高い飲食業界などの数値が、やはり定着の難しさを反映しているものだとすれば、労働力は担保されたとしても、その業界における人材の入れ替わりの激しさにより、企業体力がコスト/時間/ノウハウ的にも削られ得ることは想像に難くない。

以上のことから、数値を解釈した上で以下のことが言えそうだ。

・特に離職について対策を打たなくとも、数年は現在の経済を維持できる可能性がある。
・しかし絶対数としての入職者数の減少が推定されるのであれば、労働力の獲得をどのように推進するかは国としての課題になる。
・さらに、現状維持ではなく更なる企業発展≒国としての生産性を上げていくことを鑑みた際、過剰な人材の流動性が負に働く可能性も考えられる。

## 企業にとっての離職 -問われる離職観 

では、企業における離職は善か悪か。

ある意味では善である。ローパフォーマーや所謂問題社員と呼ばれる人材の離職は、当人による組織への悪影響やマネジメントコストと天秤にかけた際の手段の一つとして取られることもあり、必要な離職があるのが一般的な事実だろう。

しかし、離職をされた場合にネガティブな側面も勿論ある。大きくは以下である。

・採用コスト
・育成コスト
・顧客や関係会社リレーションシップの喪失
・社内リレーションシップの喪失
・リレーションシップの喪失による工数増加
・リレーションシップの喪失による周囲の意欲低下
・(早期離職の場合)立ち上がり前の人件費

具体の金額についての推計は個社に応じて様々ではあるが、これらが失われる事実に加え、現在における口コミサイトの普及から生じるレピュテーションリスクの可能性など、定量・定性いずれのネガティブな影響を受け得る。

## 個人にとっての離職 -選択肢の増加と伴う痛み

諸法令の改正を含む雇用条件の改善や、健康経営・ダイバーシティの推進、SDGsの社会的な意義が認知されている昨今、求職者に不利な状況にはなりにくいことが予想される。
また、リモートワークの普及がコロナ禍をきっかけによくも悪くも高まった。そのような状況も相まって、総じて個人の転職や入職へのハードルは低くなっているのではないだろうか。

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一方で、先にデータで見たように介護・育児を理由に就業を諦めざるを得ない方の存在は確かにある。また、労働条件を改善する風潮が広まっているにも関わらず、求人倍率が1を割らない上に離職者数が発生している背景として、慢性的な採用のマッチング精度に課題があることをも考えられるだろう。

選択肢が増え続けている一方で、そのメリットを享受できる人とそうではない人が存在する状況は、おそらく一定の期間生じることが推測される。

# 離職への個人的見解 

※ここからは、一個人としての主観も交えた上で、論述していく。

離職は、先に述べている通り労働力の消滅でもある。ゆえに、マクロ観点で損失と捉えるならばネガティブな側面は勿論ある。それは私も理解しており、また情緒的な観点でも、働くことを無為なことであったり、自分には無理だと思ってしまうこと、その事象は撲滅する義務を感じている。

ここで、『転職』という事象を改めて取り上げたい。

この転職による損失はその転職者を出している一企業においてのものであり、視点を変えると、ある企業においては利益であると考える。
寧ろ、例えば従前の企業におけるパフォーマンスが40であったのに対し、転職先でのパフォーマンスが150になるのであれば、マクロ観点でも利益があり、その積み重なりで国の生産性になるだろう。

では離職、転職それぞれを個人単位で見た場合どうだろうか。

離職は、これは損失にも利益にも、どちらにも転びうる。
働くことをやめてしまえば、そこで得ていた収入や自己実現、承認、コミュニティ帰属といった機会は潰えてしまうわけで、他の代替手段を採る必要がある。この場合損失の側面を持つ。

しかし、意志を持って仕事を手放している場合、それはその人に必要な選択であり、結果的には利益になる。(利益にする為に行動するしか無い時もある)
転職もそうであり、結果としてそれは当人にとって利益になる筈である。

個人的な経験だが、私は前職を離職する際に、離職/転職は物凄くネガティブな事象だと捉えていた。

しかし今転職をして、そこでは微力ながらも成果を出していて、様々な役割を担うことができている。

つまり、離職/転職をするまでは、そのきっかけはネガティブであり、その場から離れることでの損失も多々ある。しかしながら、結果論としてのそれぞれは少なくともその人個人としては利益になるのではないかと、そう考えている。

# 望まない離職は過程論である

## 結果論としての望まない離職は存在しない

望まない離職は、存在しえないというのが本論の結論の一つである。離職という手段を採った時点で、それはその当人としての利益になるからであり、『望まれた』離職であるからだ。

では、離職は全て受け入れ、栓方なしとするので良いのか。
それではいけない、というのが本論のもう一つの結論である。

何度か話にあげているが、個人にとっては望まれた離職であるものの、それはやもすると企業にとっては『望まない』離職である。退職に際する企業のコストとしては様々なものがあるのも、先述の通りである。
大企業のようにリソースが潤沢な会社ではない限り、インパクトのあるコストだ。このコスト負担をなくすためにも、企業は離職から目を逸らしてはならない。

また、先の話に戻る。
個人にとって望まない離職は、存在しえないか。
その問いに対し、離職という選択肢を選び取るその前、検討の過程では、それは当人にとって望まない離職となっている可能性があると考える。

最初からすっぱりと「転職最高!!!!」と望まれた離職となることは極めて稀で、「これさえできればな」、「やりがいはあるのにな」などと悩むことが大半ではないだろうか。働き続けたいけれど、働き続けることを手放そうとしている、その状態が過程論としての望まない離職である。

望まない離職を企業が防ぐということは、その過程にある従業員に対してのアプローチを策定し、その過程に入り込む前に検知や予防をしていくことなのではないだろうか。
逆に、結果としての『望まれた』離職を周囲がとやかく言って、その意志を捻じ曲げるのは極めてナンセンスな行為だと言える。とはいえ、離職の理由にはその過程に起こった意思決定を、今後はどう防ぐかのヒントが多分に含まれているため、退職者ヒアリングはとても重要となる。

# 離職への向き合い方

##  離職は、善か悪か

離職は、悪いものだろうか。それとも善いものなのだろうか。

万事に通ずることであるが、どの側面においても悪、どの側面においても善というものはほぼ存在しない。離職もそうである。

人事として、企業と道を違える人の存在に向き合う度にその事象を悪い、良い、正しい、正しくない、様々な角度から見てきた。今後も見ていくのだろうと思う。
その責任はどこにあるのだろうと、犯人捜しの思考に陥ることもゼロではないし、そのような気持ちを覚えた方もいるのではないだろうか。

しかし、離職は善でも悪でもない。その選択を選んだ当人にとってはそれが最善であり、それを引き留めたり退職をカードにいずれかが忖度するような関係性は極めて不健全でもある。

人事・経営・会社全体のチームとして、結果としての離職よりも、望まない離職をいま仮定し検討している人に向き合う必要がある。それは1対1の対話かもしれないし、衛生委員会での議論かもしれないし、ちょっとした立ち話の中かもしれない。(その検知の根底にあるものは他者への関心と誠意だったりするのだが、それは本稿では詳細は論じない。)

結果論に一喜一憂している場合ではない。向き合うべき対象と、その重要性を理解しさえすれば、望まない離職はなくなる。私はそう考える。

## 書いたのはこんな人です

株式会社OKAN という会社にいます。HR・EX領域を担当しています。

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## Twitterやってます

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https://twitter.com/ChihiroTezuka

## 引用・参考URL



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