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[ショートショート] 記憶冷凍 - シナプスの森とフィヨロン

 果てしなく続く海は凍っていた。
 緩やかに押し寄せる波はまるで滑らかなガラスのように見えた。

 凍りついた海の下にはかつてこの惑星に暮らしていた人々の記憶が保存されていた。

 ほんの百年ほどの寿命の中でこの星の人々が経験し想い感じたことの全てがここにあった。

 だけれども、この惑星は凍てつき千年もの間眠りについている。

 これらの記憶がこの世に放出されることはもうない。
 深い深い眠りの中で、永遠に人類の記憶は凍りついたままだ。

・・・

 フィヨロンはシナプスの森を探索していた。
 複雑に入り組んだ回路はまるで迷路だった。

 夢の中に入り込み、その幻想を食らって生きるフィヨロンたちにとって、シナプスの森は格好の餌場だった。

 シナプスの森は絶対零度だった。

 それでもフィヨロンは自由に動き回ることができた。
 どんなに凍てついた環境でも思考は動き続けるものだから。

(375文字)


たらはかに(田原にか)さんの『毎週ショートショートnote』に参加します。


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