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社員戦隊ホウセキ V/第 37話;玉瑩合体・シンゴウキング!

前回


 四月十三日の火曜日の午後七時頃、過酷な鍛錬に臨んだ十縷は無理が祟って倒れてしまった。

 そんな中、良極りょうごく須見田川すみだがわ沿いには扇風ゾウオが、詩武屋しぶやには扇風ゾウオと同じ憎悪の紋章を持つ扇風ゾカムゾンが、それぞれ出現した。


 新杜宝飾の本社ビル五階の医務室では、ブレスが投影する映像を見ながら伊禰が現状で可能な対応策を挙げていた。

「強化されたカムゾンにはホウセキングで対抗したいところですわよね。単体の宝世機では少し不安です。二人ずつに別れて、カムゾンには宝世機二台、ゾウオには二人で挑むことになるでしょうか……」

 伊禰が挙げた案は、一ヶ所あたり二人で対応するというものだった。つまり、合計四人で対応するという話で、十縷を抜いているのは明白だった。
 光里はしぶしぶといった様子で頷いたが、ベッドの上の十縷は反発した。

「待ってください。僕も行きます。この状況で僕だけ寝てるなんて、できません!」

 一度点いた責任感の火が消えないのか、十縷は筋肉痛の体に鞭打ってベッドから降りようとする。勿論、その場に居た三人はすぐに制止した。

「熱田君、落ち着いて。勇敢と無謀は違うって、社長に言われたばっかでしょう?」

「お気持ちは理解できますが、ご自分のお体の状態をお考えください。無理をすことは美徳ではありませんのよ」

「今の君が行ったって、やられるだけだ。こいつらにもっと迷惑掛けるぞ」

 光里、伊禰、社林部長が口々に言う。全て、的を射た適切な指摘だった。
 そしてブレスを通じてこの様子は他所にも伝わっていたのか、離れた場所からも十縷は制止された。

『俺たちの任務は犠牲者を助けることと、減らすことだ。その中には、無論俺たち自身も入っている。熱田、自分を救うことも考えろ』

『お前の責任感は立派だ。でも、今は皆の意見を聞いて欲しい。みすみす倒されに行くような真似は、絶対にして欲しくない』

『そうです、ジュールさん。今は皆様を信じて、お休みください』

 ブレスは時雨、愛作、リヨモの順に声を伝えた。それらは全て十縷の耳に届いた。どれも的確だ。
 しかし気持ちが納得しない。十縷は苦悩していた。

(確かに今の僕が行ったって、あの時みたいに一人だけ吹っ飛ばされて終わりだろうね。だけどさ、いつまでも自分だけ弱いなんて、そんなままじゃいられないよ……!)

 そんな風に思っていた十縷の耳に、ブレスは和都からの声も届けた。

『熱田、ごめんな。俺が間違ってた。俺とお前には違いがあり過ぎる。それを考えずに、俺のやり方をお前に押し付けた。それが失敗だった。だから今はちょっと休んで、自分の戦い方を考える機会にして欲しい』

 和都の声は、随分と落ち込んでいるように聞こえた。それを聞いた十縷は、猛烈に申し訳ない気持ちになった。

(伊勢さん、隊長や社長に怒られたのかな? 僕のことを思っての行動だったのに、僕が弱過ぎるばっかりに……。いや、ここでイッチョ出撃して、鍛錬の成果があったことを皆に見せつけて、伊勢さんは間違ってなかったって証明したい!)

 諭す者たちの意思とは裏腹に、十縷は出撃への意欲を増していく。しかし筋肉痛だらけの疲弊した肉体では、確実に活躍できない。十縷は悩んだ。
 そして、今の自分にできることを検討するべく、無作為に記憶の検索を始めた。

「ワット君は私たちの中で最も精神が頑丈だと、私は思っています。あんな方、そうそうはいらっしゃいません」

「忍耐力じゃ誰も伊勢さんに勝てないよ。でもさ、想造力なら誰も熱田君に勝てないじゃん」

「北野と伊勢の良い点を見習え」

   

 検索した記憶の中で、この三つの言葉の印象がやたらと鮮烈だった。これらの言葉を頼りに、十縷は考えたり更に記憶の検索をしたりして、打開策を探る。

(僕の強みは想造力か? 先輩方の良い点……。そう言えば伊勢さん、変わったネックレスのデザインしてたな。ネックレスの環を二つずつ外して、ハーフリングにできるヤツ……。取り外して、組み合わせて……。これなら行ける!)

 その時、十縷の中で唐突に名案が閃いた。思わず彼は立ち上がり、その勢いに伊禰たちは堪らず一歩下がった。「どうしたのか?」と心配そうに訊ねた彼女らに、十縷は言った。

「思いつきましたよ、僕の戦い方」

 その名案に相当の自信があるのか、十縷は不敵な笑みを浮かべていた。そして、十縷は静かに語り出した。


 暴れ回る扇風ゾウオと扇風カムゾンの映像は、付近を飛ぶドローンに撮影され、地球から遠く離れた小惑星にも届けられる。その映像はニクシム神の祭壇のある部屋で、マダムとザイガ、そしてスケイリーに鑑賞されていた。

「憎悪獣、効果的ですね。シャイン戦隊も二手に別れざるを得ず、どう戦うべきか悩んでいるところでしょう」

 ザイガは銅鏡が映す映像を見て、鈴のような音を鳴らす。

「ニクシム神の力も弱まっておらん。負担も掛からぬようで、本当に効果的じゃな」

 マダムはニクシム神の状況も確認しつつ、二体の働きを評価する。彼女の言う通り、ニクシム神は青黒い霞のような光を放ち続けており、その勢いが衰える様子は無い。
     一方、扇風ゾウオの活躍が称えられるのが気に入らないのか、スケイリーは舌を打つ。 
      しかし次の瞬間、スケイリーの声が弾んだ。

「おっと、来たな。地球のシャイン戦隊!」

 銅鏡は映し出した。詩武屋の方で、夜空を割って三つのイマージュエルが飛び出してきて、そのまま扇風カムゾンにぶち当たり、なぎ倒す様子を。

「赤と緑と黄、三つだけか。つまり、青と紫が扇風ゾウオの方に向かった訳か」

 ザイガに色を確認される三つのイマージュエルは、各々の色の光を放ちながら降下し、宝世機に姿を変える。

 その間に、扇風カムゾンも立ち上がり、梯子車型のピジョンブラッド、F1カー型のヒスイ、ショベルカー型のトパーズと対峙する形になった。

「宝世機では憎悪獣には勝てん。扇風カムゾンよ、その三つを壊してしまえ!」

 銅鏡の前で、マダムは興奮気味に絶叫した。


 そのマダムの声援に応えようとするかのように、現地では扇風カムゾンが扇を振るう。宝世機は三台とも一般車より巨大だが、それでも相手の強烈な風で後退させられてしまう。しかし、機内の三人は全く挫けていなかった。

「皆さん。余計な体力消費は避けて、下がりながら合体しちゃいましょう!」

 ピジョンブラッドの中のレッドが、ブレスからグリーンとイエローにそう告げる。二人からは「難しい要求をするなぁ」という旨の言葉が返ってくるが、彼の作戦に同意していた。三人の意思は一つで、同時に脳裏に浮かんだ言葉を叫んだ。

ぎょくえい合体がったい!」

 その声を合図に、三台の宝世機は風に煽られて後退しながら合体を始める。胴体と両肩と頭を構成するピジョンブラッドに、ヒスイが右腕として、トパーズが両脚としてそれぞれ連結する。そして、左脚からトパーズのコクピット、右脚からトパーズのショベルアームがそれぞれ離脱した後に合体し、左腕としてピジョンブラッドに連結した。
 なんと、三台の宝世機だけで合体し、想造神を誕生させてしまったのだ。

「完成! シンゴウキング!!」

 向かって左から、グリーン、イエロー、レッドの順に並ぶコクピットの中で、レッドがその想造神の名を叫んだ。そのセンスに、イエローとグリーンは苦笑する。

「その名前、何とかならない? まあ、私もこの三色なら信号って思ったけど」

「だけど、売れなかった俺のネックレスを想造神に昇華させるとは……。お前の発想は天才的だな!」

 イエローの言う通り、十縷は和都のネックレスからシンゴウキングの発想を得た。

 六つの環のうち二つを外してペアリングを作る点から、ホウセキングから幾らか宝世機を外して新たな想造神を創ろうと考え、実現させたのだ。


 シンゴウキングへの合体は、すぐに小惑星のマダムたちにも伝わった。

「イマージュエル三つで想造神を創るとは……! 忌々しい、地球のシャイン戦隊!!」

 マダムはいきり立ち、金切り声を上げる。その傍らでスケイリーは鼻で笑う。そして、ザイガは何の音も立てず、冷静に戦況を見守る。

「想定外の合体ですが、恐れるに足りません。イマージュエルの数を減らした分、力は落ちている筈ですから。事実、この想造神は扇風カムゾンの風に耐えるので精一杯です」

 ザイガの言う通り、シンゴウキングは正面から扇風カムゾンの風を受けており、前に進むことができない。確実に劣勢で、言われたマダムは少し安堵した。


次回へ続く!

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