荻上チキさん：木村さん、改めてこの学術会議の問題なんですけれども。正確に言うと『日本学術会議を違法に任命拒否をした政府の問題』なんですけれども、これ論点をどういった点に見ていますか。

木村草太さん：論点はですね、どうやって菅総理に認めさせるかみたいな方向の話になっていますが、私は方向が逆だと思っています。
今何が違法かってことなんですが、色々違法があってですね。ツッコミどころがたくさんあると、返ってツッコみにくくなるという問題の典型ではあると思うんですが。
まず今一番の問題はですね、定員不足です。日本学術会議法は定員を210人と定めてまして、6人任命拒否の結果、204名しかいないということで、これはどう考えてもどうやっても説明できない違法状態なんですね。なので、この6人は補充する必要があります。
6人補充の方法は、任命拒否の撤回か、それとも別の人を任命するかです。しかし別の人を任命するには、法律上、学術会議の推薦が必要になります。で、学術会議は6人の推薦を維持するという態度を変えてませんから、これはまず、総理が違法状態を解消したいのであれば、学術会議に任命拒否をしないのであれば推薦をやり直して下さいとお願いしないといけないんですが、その説得はまったく成功してないわけですね。学術会議の側からすれば、総合的俯瞰的とか訳の分かんないことを言われてるので、やり直そうとしてもですね、まったくそのやり直す基準が分からないということになっているので、まあ変えようがないということです。
また、そもそも学術会議というのは業務独立してやらなきゃいけないので、推薦のやり直しを首相が要求することが適法か、という問題がありますし、それから学術会議は法律で研究と業績によって会員の候補を選ばなきゃいけないというふうになっているので、研究と業績の無い人をですね、選ぶことはできないんですね。なので総理がこういう人をって言っても、学術会議が法律上そういう人は選べませんって言われたらそれまでです。
また総理は再推薦を命じる命令権も学術会議上持ってないので、学術会議の側としては法的義務、総理に再推薦を依頼されても変える義務は全くない、ということなので、実は再推薦をさせることは法的に不可能だし、実際上もできないわけですね。
ということは6人追加の方法ってどうするかっていうと、もう任命拒否を撤回するしかないんですよ。
なので違法状態の解消方法は、詰めていけば一つなんですね。なのでこれ『学術会議を総理はどう説得するのか。6人の欠員という違法状態をどう解消するのか』という問いを総理に投げていかないといけないんだけど、そういう議論になってないので、そこを私は非常に心配していますね。

荻上チキさん：その学術会議の問題などについては、学術会議サイドにも色々と課題があるんじゃないかということで、既に菅政権を擁護することありきで学術会議側の問題にする人たちも出て来たりしていますね。
また一方で、総合的俯瞰的とかバランスとかそういうものが大事なんだという形で無理くり擁護する動きも出て来たりしていますね。
こうした無理くり擁護に関しては木村さんどう見ていますか。

木村草太さん：これはですね。政府の側がまったく理由の無いことをやってしまったために、デマを流すとかですね、差別を煽るとかっていう形でしか、それも擁護になっているかもよく分かんないんですけども。

荻上チキさん：年金もらってるんだとか、中国に協力してるんだとか色んなデマが。

木村草太さん：そういうことをやるしか政権を支持する方法が無いからこういうことになってしまってるんですね。
なので非常に大事なのはですね。デマを流す人っていうのは自分の道徳的な自尊心とか道徳的な名誉っていうのを切り崩しているわけですから、菅さんがやっていることっていうのは、自分たちの支持者に名誉とか羞恥心といったものをどんどん切り売りして下さいねと。そういうことをやらせているということなので、支持者に対しても非常に酷なことをやっていると思いますね。
総理がきちんとした理由があってそれを説明するのであれば、それを支持する、いややっぱりそれでも駄目だという議論が噛み合うんですが、それができない状況ができてしまっているということですね。なのでこれは総理はですね。自分が差別を煽っていると。そして支持者の人を差別をするという道徳的にいわば傷ついてしまう方向に支持者を追いやっているということに早く気付いてほしいですね。

番組リンク：
【音声配信】特集「”新型コロナ””菅新政権””学術会議問題”～ニュース座談会・10月場所 あなたが気になったニュースは何ですか？～」
荻上チキ×麻木久仁子×木村草太
https://www.tbsradio.jp/532409