見出し画像

澤田大樹記者、今週の国会を振り返る。アシタノカレッジ(2021年3月5日放送) 文字起こし

3月5日放送のTBSラジオ『アシタノカレッジ』で今週の国会について振り返っています。その部分を文字起こししました。

澤田大樹記者(以下、澤田):昨日ちょっとすごい質疑を見たので国会についてやりたいなと思ってます。
予算委員会の質疑、国会のオールスター戦と私が呼んでますけれども、今週けっこうすごい質疑があって、それから学ぶあれこれがあるなということを取り上げて行きたいんですけれども。

1. 福島みずほ議員の質疑

澤田:まず一つは社民党の福島みずほさん。
福島党首のやり取りなんですけれども、これは3月3日でした。選択的夫婦別姓に関する案件で、丸川男女共同参画担当大臣が過去に地方議会に対して、選択的夫婦別姓導入を求めるような請願に対してそれに賛成しないでねということを連名で送りつけてたという関連で、福島さんが
「あなたどう思ってるんですか、これについて」っていうのを何度も何度も聞くというやり取りがあったんですね。
参議院予算委員会だったんですけれども、これひどいんでぜひ見て欲しいんですけれども。10回近く答えなくて、質疑はその度に止まると。言い訳の仕方が結構アレというかですね。
「いや私は組織のトップなので職員に対しても私は本音を言ってないのでこの場で言うことは控えます」みたいなこと言ってるんですね。
武田砂鉄(以下、砂鉄):見ましたけれども、自分がはっきりと意見をしてしまうと職員が萎縮してしまうっていうような言い方をされていて、それって自分の発言には職員の行動を左右させてしまうんだっていうことを暗に表明してしまってるという状況でしたけどね。
澤田:これのやり取りだけで20分ぐらい、止まったり答えたり、止まったり答えたり、まあ答えてないんですけど。っていうやりとりが続くっていう、ひどい質疑なんですけれど。

澤田:そんな感じかなと思ったらその直後に、自民党の森まさこさんという元法務大臣ですけど、この人が聖火リレーについて丸川さんに振ったらもう饒舌にベラベラベラベラ喋っていくわけですね。ああ全然違うなあと思ってて。
ただこの森まさこさん、実は選択的夫婦別姓導入の旗振り役の一人で、丸川さんに聞いたようなのと同じ質問を河野大臣、それから小泉環境大臣に対しても聞いてるんですね。それに対して二人は前向きな答弁をそのまますんなりすると。一方、男女共同参画を担当している丸川さんは全然答えないという。だから結果的にこの森さんの質疑と福島さんの質疑を見比べることによって、丸川さんがいかに適格じゃないか。適任じゃないかってことが浮き彫りになる。たった1日の質疑で。
砂鉄:ましてやこの男女共同参画担当大臣でありながら五輪担当大臣、ジェンダー平等を目指すという風に書かれているオリンピック担当大臣でもあるというこの方が、そういったところに一切答えないという状況があったわけですね。
澤田:自民党の人が結果的にトスを上げてしまった形になるという。これはぜひ見てほしいという感じでございます。

2. 田村智子議員の質疑


澤田:メインで取り上げたいのはこの後でして、昨日、参議院予算委員会で、予算委員会は私は参議院に限ると思っているんですが、共産党の田村智子議員の質疑がすごく学ぶところが多かったので、ぜひ紹介したいんですね。テレビでもあまり触れられていないんですけれど。以前にも何度もこの番組では触れているんですが、国会議員の質疑のタイプを私は大きく2つのタイプに分けているんですね。これボクシングで分けるんですけれども。
いきなり殴りかかっていくインファイター型と距離を取りながら手数で追い詰めていくボクサー型という2つの質疑のタイプがあって。田村さんはこの細かい手数を打っていくアウトボクサー型なんですけど。今回の質疑でその能力がいかんなく発揮されるんですけれど。
ターゲットとなったのは総務省の谷脇総務審議官なんですね。テーマはもちろん総務省の接待問題なんですけども、田村さんは冒頭、事実確認をしながら聞いていくわけです。
「NTT以外からも接待受けてないんですか。他にも受けてないですか」って言うことを聞いていると、谷脇さんは
「他にもありました」と。
「公務員倫理規定違反している、法律に違反してるって認識あったんですか」と谷脇さんに聞くと
「認識はなかったです」と。
そこでさらに
「総務省の調査で大丈夫なのですか」と菅総理に対して監督責任を聞いていくわけですね。そうすると
「総務省が調査開始してますよ」って言う。
このやり取りだけで分かって来るのが何かと言うと、谷脇さんは他にも接待を受けていたと。つまり谷脇さんに対する接待は常態化してますよということですね。これ総務省の人ですけども、総務省で接待が常態化してたんじゃないかと。
法律違反の認識はなかったっていうのは、接待はかなり当たり前のように行われていると。違反するかどうかが分からなくなるくらい当たり前に行われてる。かつ、「東北新社に対しての調査の中で、他の業種では接待ありませんよ。東北新社だけでしたよ」と武田総務大臣この間ずっと言って来てたんですね。国会の答弁で断言していた。
つまり総務省に調査する能力はないんだということがこの質疑だけで分かるわけですよ。にも変わらず菅さんは「総務省が調査を開始してる」としか言ってない。
つまりこれ調査能力が無いところに調査させてると。ということは菅さんには本気で調査する気も、さらに官僚とか省庁に対してそれを統治する能力もないってことを、この時間で証明しちゃったんです。
砂鉄:なるほど。このわずか数問で今行われてる構図がそもそもこれでいいのかということが明らかになっちゃった。
澤田:全部ダメだっていうことが分かった。これわずか10分です。
砂鉄:見事な質問。
澤田:そうですね。アウトボクサー。それでもうゴールまで行ったと。
普通の議員っていうのはどういう質疑をしてるかっていうと、スタートとかゴールが明確じゃないままに個々の質問を当てていくっていうタイプが多くて、アウトボクサータイプの人っていうのは、時間内にどこまで答弁を引き出させるかっていうある種ゴールが最初から決まってるんですね、その人の中で。そこを目掛けて質疑をしていくというようなタイプなんですね。
田村さんは官僚に対する接待の実態、それから罪の意識を確認するところからスタートして行って、総理の管理能力を問うところをゴールにしていた。ある種、設計図が最初から書かれたんだなというのが分かる。
砂鉄:僕もまあ政治家ではないですけどね。こういった番組でもいろんな人にインタビューしますけど、この質問にもインタビューにもインファイター型とアウトボクサー型ってあると思っていて、割とアウトボクサー型っていうか、この質問は後半でした方がいいんだろうなっていうタイミングを待って、それがうまく行ったりうまく行かなかったりすることもありますから。割とこの田村さんのやり方っていうのは、ちょっと共感するところがあるんですよね。かなりタイミング見てここまで来てこれをやってるんだなっていう見取り図を自分の頭の中である程度用意してる。
澤田:このタイミングでこの質問を出そうっていうのは分かってる。
インファイター型でもちゃんとそこで不意に出した答弁から広げていくっていうタイプの人もいるので、能力としてまったく別なんだけれども、この田村さんの質疑というのは、私のような記者でも使えるなと思っていて、会見での質問とかもそうなんだけれども、その他にも一般の方も実は使える能力なんじゃないかというのはちょっと思ったんですね。
例えば就活生の面接とかの場合で使えそうだなと思ったのは、面接官から質問を受けてそれに答えるっていう形で就活の面接ってすると思うんですけど、その返しの中に相手の興味を引きそうな単語とかエピソードをあらかじめ散りばめておくっていうのことをしてですね。それに食いついたところで自分のしたい話に持ってったりするっていうこと。これがつまりゴールなわけですね。
砂鉄:就活生のプレゼン。確かにそうですね。
澤田:だからこれだけでも他の就活生からは一枚抜けられる印象をより強くつけられるなって風にちょっと思って。これ企画のプレゼンとかでも使えるなと思いながらこの質疑を見てたりしてました。

3. 当たり前になっている男女間格差


澤田:田村さんの質疑は実はもうひと山あって、これだけじゃないんですね。
田村さんがその後問うていたのは、
「日本では社会に埋め込まれた男女格差が当たり前になっているのではないか」っていうことをテーマにした質疑をしたんですよね。
この当たり前という単語が通底していくんですけれども、選択的夫婦別姓の先ほどの丸川大臣の適格性を問う中で、菅総理は
「政治家個人として意見を述べることは問題ない」と丸川さんについて言ったんですね。それはそうだと思うんですけども
「そういう人と知ってても大臣に任命したのか」という風に問われて
「知ってても任命した。私はその時は知らなかったけれどもそういう人だからといって任命しないってことはなかった」ということを言ったわけですね。
田村さんがそこで言うわけですね。
「これまで日本では同じ氏、同姓を強制することを当たり前として来た。今回、丸川さんが任命されたのは、森さんが辞任したことに端を発してる」と。そうですよね。それで森さんが辞めて橋本さんが入ったことによって空いた席に丸川さんが入ったっていうことですよね。
「男社会の当たり前を問い直す中での任命だったはずだった」と。それに対して菅さんは
「森会長の件とはまったく違うと思います」と。
でもそうじゃないですよね。さっき言ったように森さんがいなくならなければこの人事は起こらなかったわけだから、その繋がりであるはずなんだけれども、それで丸川さん任命されたのにその関係性がまるで分かってないってことが分かるわけですよ。
砂鉄:分かってないことはないだろう、でも。どうなんでしょうね。
澤田:さらに田村さん、そこから
「社会的に女性が当たり前とされてきたことが、この新型コロナの中でより表に出て来るようになったんじゃないですか」という話をしていくわけですね。
「内閣府の研究会の調査で、例えば去年の4月、女性で職を失った人の数は男性の倍いる」と。
何でかって言うと、それは
「飲食とか宿泊業とかそういったところに女性が多く働いている」と。
「例えば、宿泊とか飲食の53%が女性。生活や娯楽に関わる38%が女性。しかも非正規。だから景気が悪くなると非正規でクビ切られるところに女性が多く働いているという事実というのが出てきている」という話をしてるわけですよね。つまり、
「非正規で働く女性が雇用の調整弁になってる」と。
「それが日本社会において当たり前になってんじゃないですか」という話を聞いていくわけです。
そうなると田村厚労大臣は
「自ら非正規に就く人がいるんですよ」ということを言ってるんですね。
砂鉄:いや、そういうことではないですよね。自分ができる仕事がもう非正規しかなかったという方もたくさんいらっしゃるわけですからね。
澤田:つまりこれって、女性が非正規を選ばざるを得ないところに追い込まれてるっていうことを、社会的な構造の問題じゃないかということを問うてるわけですよ。
だけれども田村大臣は分かってない、ということがこの答弁で分かっちゃうわけですね。分かってないのか、でも田村大臣のところってそういうの研究する機関があるわけですよね。それで田村大臣は多分、分かってて答えてないのかなっていう感じもする。厚労行政のある種スペシャリストの人ではあるから、分かってても答えられないのかなって気もちょっとしたかなと思いました。
砂鉄:答えるとそれを認めてしまって、新たな対策を練らなくてはいけなくなるから、そのまま、どうなんでしょうねということにして何も事を起こさないということなんですかね。
澤田:確かに自ら選んでる人もいるだろうけど、それが大部分ではないだろうっていうことは何となく分かるわけですよね。
砂鉄:ましてこういった数値が出ているんだから、そこでなぜこういう仕事を選んだのかってことじゃなくて、もう既にそこで失われてる人がいるんだったらそこをケアしよう助けなくちゃいけないっていうに考えるのは政治家としては当然の流れだと思うんですけどね。
澤田:総理はその他の質疑の中でも
「非正規には確かに女性たくさん就いてますけど、正規も増えてます」ということ言ってるわけですね。
田村智子さんは
「正規増えてるって言ってるけど、増えてるのどこかっていうと、介護と看護と保育だ」と。
つまり女性が働くそういう3つのような場所っていうのは、大概低賃金の場であると。
砂鉄:そうですよね。もうずっと議論されて来たところですよね。こういったところはとにかく低賃金なんだと。だから資格を持ってもそういった介護であるとか保育の現場に行かない人たちがたくさんいるんだよってことは、ずっと言われてきましたよね。
澤田:しかも給料が上がらない場所、昇給があまりされていかない場所でもあると。これケアワークで女性の仕事とされてきたことをある種、外部化しているところなんですよね。だからこそずっと今までだったらお金にならなかったところお金にしてるから低賃金なんじゃないのというところを指摘してるわけですよね。これもだから日本の社会が置かれている構造なわけです。
「民間企業でも総合職と一般職で、男女で区別、差別がある。女性は一般職が当たり前。給料に差があっても当たり前というような社会状況になってるじゃないか」と。
これについて調査どうなってるかって聞くと、実はデータがないと。働き方の雇用形態、正規非正規とかはあるけれども、じゃ賃金ついてはどれだけ男女の差があるのかっていうようなオフィシャルのデータがあまりないと。
だったらもうそのジェンダーギャップをちゃんと調査して、それを変えて行くってことしなきゃいけないんじゃないのっていう提案をこの間ずっと田村さんは質疑し続けているわけですよね。トスを上げていくわけですよ。この当たり前を変えて行かなきゃいけないですよねっていうことで政府に対してトスを上げるんだけど、閣僚側が誰もアタックを打たない。
この質疑で学べるっていうのは日本社会においての田村さんが言うところの男女のギャップが当たり前に置かれているっていう現状を知るものすごくベーシックな質疑。もう本当に初歩中の初歩。ジェンダーギャップの初歩中の初歩を学ぶような質疑だったんだけれども、それに対して閣僚が理解してない、もしくは理解してるけれども答弁しない。

砂鉄:
今回この森さんの発言の後に何でこれだけ社会的にムーブメントとか声をあげなくちゃいけないかっていうことが膨れ上がったって言ったら、もちろん森さんの発言は論外であってはならないから辞任されるのは当然だと思うんですけど、でもあの発言をきっかけに私こういう立場ですよとか、自分はこういう立場なんだよってことをたくさん声が上がったからこそ、もうさすがに見直さなくちゃいけないよねっていう、その森発言とこの今の世の中の仕組みっていうのがセットになって大きな声になったわけじゃないですか。でもどうやら彼らに問いかけると「森さんはね、ほんとそうでしたよね」っていうのと簡単に切り離されちゃうんだよね。
澤田:リンクしてないんですよね。
砂鉄:そこがなぜ伝わらないのかって。新聞でもニュースでも何でもラジオでも聞いてればそこが一緒になって今声をあげてるんだよってことは、この一か月ずっと続いてきたような気がするんですが届いてない。
澤田:それを途中、数値とかを入れながら問うていくんだけれども、どんなにしっかり聞こうということは明確だったとしてもやっぱ答弁する側が理解してなかったり、あるいは答える気がない場合には質疑っていうのは成り立たないんだなっていうこともこの質疑で分かるという。

砂鉄:
成り立たないということでもあるし、成り立たせないようにすることが出来るということですよね。Q & Aに対してアンサーの側がQを理解してなければアンサーだけが残るわけなんで、そうすると成立してないやり取りをしてしまったかって見えるんだけど、別にそれはQを投げる方が悪いわけではなくて、アンサーの精度ってことでしょうね。
澤田:見てる方としては結構フラストレーションが溜まるというか、この構造を自明として認識している人にとっては、何で答えないんだっていうのでフラストレーションが溜まるんですけど。
これ見ててこの質疑の意味っていうことを自分としては理解できなくなったら記者として終わりだなっていうのもちょっと同時に思っていて、それがなかなか記事になったりとかニュースで報じられたりとかっていうのはなかったりして。
それはもちろんあの尺の問題とかもあってされないんだろうけど、こういうのをちゃんとしっかり取り上げるっていうの大事だなと思っていると同時に、まだ自分自身でも勉強足らないなという風にこの人を見て思ったんですね。
これ、このことも言ってるよね、いやこのことは今回議論なされてないけどこのことも必要じゃないっていうことも提案する形で記者としてレポートしたりとか解説したりということが出来なきゃいかんなということを思ったので、この質疑を見て大学院に行こうってちょっと思いました。
砂鉄:大学院に行こうと思ったんですか。でも澤田さん、この質疑の後ツイッターでこういうのを分かろうとする閣僚いないのかという風に結構強く憤りが。
澤田:その結果、でも自分自身の勉強も、偉そうに閣僚についてわーわー言ってるだけじゃなくてですね。自分も勉強せにゃあいかんという風に思ったので、まあそういう意味でもいい質疑だったなと。
砂鉄:今週の結論としては「澤田大樹、大学院の進学を考え始める」という結論にになりましたけれども。
澤田:出来れば箱根駅伝に出る大学がいいな。

👉番組公式Youtubeアーカイブ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?