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クリスの物語(改)Ⅰ プロローグ

あらすじ

 小学校六年生の主人公クリスは、学校でいじめに遭い人生に何も楽しいことが見出せずにいる。唯一の生きる糧は愛犬ベベの存在だ。そんなクリスだが、ある日ふとしたきっかけで前世の人生を垣間見ることになる。時代は紀元前。愛する人を救うべく、薬売りの老婆から指示されるまま地底世界へと誘われた前世の自分。
 運命に翻弄されながらも守護ドラゴンや地底人との出会いを果たし、真実を追い求める。 剣と魔法の王道ファンタジーにスピリチュアル的視点を交えた、新しいカタチの長編ファンタジーストーリー第一弾。

本編~プロローグ~

 広場ではシュプレヒコールが響き渡っていた。

「反逆者に死を!王に楯突く者には神の制裁を!」
 何千という民衆が広場の中央に設けられた処刑場を取り囲み、拳を突き上げ高らかに叫んでいる。擦り切れたぼろ切れを身にまとい、馬に乗って駆け付けた青年が馬から飛び降りると、群集をかき分け処刑場へ突き進んだ。

 処刑場には二台の絞首台が並び、その脇に若い男と老婆が両手首を縛られ吊るされていた。身動き一つせずにぐったりと頭を垂れた様子から、どちらも処刑を待たずに息絶えてしまったのではないかと疑うほど弱り切っていた。その脇には、かぎのように湾曲した剣を手に構えた兵士がそれぞれ一人ずつ立っている。

 処刑場の右手には刑の執行観覧用にしつらえられた特別な壇があり、そこでは多数の家臣を従えた王と妃がきらびやかな椅子に座っていた。まるでこの処刑を肴に宴を催しているのか、酒を片手に笑い合っている。

 処刑場の前では、それ以上群集を近づけないよう屈強な兵士が一列に並んで立っていた。
 群集を退けながらなんとか処刑場の前までたどり着いた青年は、止めに入る兵士に構わず処刑を待つ男の名前を大声で叫んだ。

「オルゴース!」
 押さえつける兵士を振り払って何度も叫んだが、それでもオルゴスの反応はない。

「そいつも反逆者の一人だ!その男も吊るし上げろ!」

 頭頂部に馬の毛で装飾された兜を目深にかぶった隊長が剣先を向け、周りの兵士に向かって怒号を上げた。隊長の姿を視界の端に捉えると、兜をかぶったままであってもその男の正体を青年はすぐさま認識した。

 青年は怒りで我を忘れた。腰袋に手を突っ込むと、取り押さえようとする兵士に向かって大きくその手を振った。兵士がひるんだ隙に処刑場へ転げ上がり、青年は絞首台へ向かって一目散に走った。
 こんな処刑などあってはならない。絶対に間違っている。

 「オルゴース!」

 青年は力の限り叫んだ。
 待っていろ。今すぐその綱を切ってやる────

 どん、と背中に重い衝撃があった。しかし、そんなことに構ってなどいられない。後ろを振り返ることなく、青年は走った。
 その後、何度も背中に衝撃があった。あともう少しで手が届く────

 しかし、青年の願いを叶えることを体が拒んだ。どんな槌をもってしても打ち崩せないように見えた意志を、いともあっさりと両足がくじいた。オルゴスの数歩手前で短剣を持つ手を掲げたまま、青年は膝から崩れ落ちた。その背には、何本もの矢が突き刺さっていた。

 まさか、俺はこの場で死んでしまうというのだろうか。オルゴスもエメルアも救うことができぬまま・・・。

 苦しさに悶えながら、青年は視線を巡らせた。気が付いたオルゴスが目の前で起きた惨劇に目をひん剥き、力の限り青年の名を叫んだ。

 しかし、青年の耳にはもうその声が届いていないようだ。処刑を前に行われた狩りを目にして湧き上がる広場の中で、青年の亡き骸だけが永遠の静けさに包まれていた。


第一話 いつもの1日 


お読みいただき、ありがとうございます! 拙い文章ですが、お楽しみいただけたら幸いです。 これからもどうぞよろしくお願いします!