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ワークライフバランスを言いすぎるのもよくないが、やっぱりワークライフバランスって大事よねという話。


近年、働き方改革など声高に叫ぶ中で、仕事と生活の線引きをしっかりしようというワークライフバランスの潮流が存在します。こういった流れの中で従来の仕事か生活かというトレードオフ的な思想から、短時間で仕事や勉強を効率的にこなして生活も楽しもうという人や、生活を維持できる程度の仕事をして、あとはガッツリ生活を楽しもうという人も増えたのではないでしょうか。

ただ、その潮流の中で困った人はいないでしょうか?それは仕事や勉強と生活の境界線が曖昧な方です。例えば、研究者や学生など、仕事も生活も関係なく何かで埋め合わせたいような人。そういう人が、組織に所属していたりして、ワークライフバランスの流れに一人だけで逆行できないようなこともあるでしょう。

結論から述べますと、そういった比較的仕事や勉強と生活の曖昧な人は自己嫌悪に陥る必要はありません。過去の研究で、そういったワーカーホリックの中でも熱心さを失わないモチベーションの高いワーカーホリックがいることがわかっているからです。ただ、そういった人でも生活と仕事はやはり分離する、ワークライフバランスを維持する必要があることも言えます。仕事のしすぎは循環器系の疾患などの健康リスクを高めたり、睡眠を削って仕事や勉強をしたりすると、仕事のパフォーマンスが落ちたり、アイデアが出にくくなったり、仕事で落ち込みやすくなったりするからです。

今回はそんな、仕事や勉強と生活の境界線が曖昧な人がワークライフバランスと声高に叫ばれる中で自己嫌悪に陥る必要がない理由と、そしてそういった人でもやっぱり生活や休息は大事である理由を紹介します。

エンゲージメントドリブン型ワーカーホリックの存在

ワーカーホリックとは、(a)仕事に没頭し、(b)仕事に駆り立てられている感覚を持ち、(c)仕事を楽しんでいる、という三要素の強い人のことを指します(1)。このワーカーホリックですが、仕事に没頭している、仕事を楽しんでいるという要素も含まれているため、一般的には悪い意味として用いられますが仕事を楽しんでいる人や仕事に没頭している人もその中に含まれます。

図1は過去の研究(2)(3)をもとに、ワーカーホリック(図ではでは図のスペースの都合上仕事中読者とする)の種類を4つに分けたものです。ここで重要なのは、右上に含まれるモチベーションや仕事への満足度が高いエンゲージドリブン型が存在することになります。

つまり右上の人たちは、仕事や勉強によって、主観的な満足感を得られたり、そして楽しいという感覚が得られるため、その人達に対して、過度にワークライフバランスを強いることは、逆にストレスになってしまうことが考えられるのです。

また、ワークライフバランスは左上の仕事へのモチベーションやそこから得られる満足感の低い、ビジネスライク型になることの予防として一般的に用いられることが多いですが、それが右上のエンゲージドリブン型に対しての予防や障壁ではないことを仕事と生活の境界線が比較的曖昧でかつストレスを抱えていない人は踏まえておく必要があるでしょう。

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図1.ワーカーホリックの4種類(2)(3)を参考に筆者作成。右上がワーカーホリックでも比較的主観的な満足感や幸福度の高いエンゲージメント型。

ただやっぱりエンゲージドリブン型であってもワークライフバランスは大事

図1の右上の人に対してワークライフバランスを押し付けるのはよくないと言いつつつも、ただやはりそういう人であってもワークライフバランスを心がけておく必要があるでしょう。それは健康の問題パフォーマンスの問題から主張することができます。

まず、健康の問題についてですが、これは労働時間が長い、またワーカーホリックの傾向がある人ほど、循環器系の疾患にかかるリスクが高まることが過去の研究で指摘されています(4)。いくら仕事や勉強が好きでそれが満足度を高めてくれるからといって休む時間を削ってずっとそれをやることは健康リスクが上がり、長期的に見ると好きなものができなくなる可能性が存在します。

また、睡眠を削ったり蔑ろにしたりすると、健康リスクに加えてパフォーマンスに与える影響も出てきます。睡眠時間の少ない労働者のアイデアは第三者から評価されづらく(5)、また睡眠不足はパフォーマンスの低下、仕事における落ち込みやすさ、同僚との揉め事などと強い相関性が確認されており(6)、仕事や勉強のパフォーマンスが低下する可能性を示唆されています。つまり、いくらそれが好きだからといっても睡眠を度外視したり、休息を度外視すると好きなものから得られる成果が落ちたりしてしまう状況に陥ることが考えられるのです。

つまり、健康を害したり、認知機能の低下によるパフォーマンスの低下を防ぎたく、楽しいことをうまく長く続けたいのであれば、早めに切り上げたり、たくさん寝たりすること、いわゆるワークライフバランスも重要になってくるのであります。

休むのも仕事や勉強のうち

以上、ワークライフバランスを声高に叫びすぎるのは、仕事や勉強と生活の境界線が曖昧な人(エンゲージメントドリブン型のワーカーホリックの人)にとっては逆にストレスになったりもするけど、そういう人であっても健康やパフォーマンスの観点からすればやはりワークライフバランスって大事だよねって話をしました。

まあベタな言葉でまとめれば休むのも仕事のうちって感じですかね。んじゃ。

[脚注]

(1)The Work Addiction Risk Test: Development of a tentative measure of workaholism. Perceptual and Motor Skills, 88, 199–210.

(2)van Beek, I., Taris, T. W., & Schaufeli, W. B. (2011). Workaholic and work engaged employees: Dead ringers or worlds apart? Journal of Occupational Health Psychology, 16(4), 468–482.

(3)Shimazu A, Schaufeli WB, Kamiyama K, Kawakami N. Workaholism vs. work engagement: the two different predictors of future well-being and performance. Int J Behav Med. 2015 Feb;22(1):18-23.

(4)Griffiths MD, Demetrovics Z, Atroszko PA. Ten myths about work addiction. J Behav Addict. 2018 Dec 1;7(4):845-857. doi: 10.1556/2006.7.2018.05.

(5)Gunia, B. C., Gish, J. J., & Mensmann, M. (2020). The weary founder: Sleep problems, ADHD-like tendencies, and entrepreneurial intentions. Entrepreneurship Theory and Practice, available online ahead of print.

(6)Litwiller B, Snyder LA, Taylor WD, Steele LM. The relationship between sleep and work: A meta-analysis. J Appl Psychol. 2017 Apr;102(4):682-699.

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