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飽和するストリーミングライブの収着地点

コロナが世界的な問題として出現し、ライブハウスでライブができなくなり、大勢が集まるフェスも次々と中止となるなか、ライブストリーミングが飽和状態と言っていいくらいに多発している。日本でもタイでもその他の国でも世界中で。金土日などはストリーミングライブの時間がかぶってしまい多画面で視聴することもあるくらい。

さて、このライブストリーミングはどこに向かい、どう収着していくのだろう。多分、コロナがこの世から完全に消滅することはないと思うので、ワクチン・特効薬が完成・普及したり、ウイルスが弱体化したり、つまり、コロナにかからない、もしくは、かかってもすぐ治る、って状態になったら「コロナ後」って言うとして、では、コロナ後にはライブストリーミングは無くなってしまうのか。

結論から言うと、コロナ前とコロナ中が、コロナ後に「共存」していくのではないか、と思っている。

コロナ後、ライブハウスでライブができるようになったら、今までライブ行ってた人は生のライブにいくと思う。画面で見るのと、生ライブは体感が全然違う。代替はできない。あの低音の振動とか、音が皮膚に吸収されて鳥肌がたつ感覚とか、演奏にあてられて他の観客と一緒にうねる感情を感じたりとか、感情を演者に投げると演者からさらに感情が返ってきて大きく増幅されていくとか、あれは生で音を聞くから。音の鳴りも、空気の振動も、その場にいるということ自体も、体感する情報量が何もかも違う。

だからといって、いきなりライブストリーミングがなくなるか。そんなことはないと思っている。
ライブストリーミングは、今まで距離・時間・年齢・金銭などの制約でライブにいくのを諦めていた人たちに、ライブを見る環境を提供した。東京でやっているライブをバンコクから見に行くのは厳しかったり、仕事があるからその時間には間に合わなかったり、20歳以下入場禁止のライブだとそもそも入場できなかったり、ライブ行きたいけど日々の生活費でいっぱいいっぱいでチケット買えるほどの余裕がなかったり、様々な理由でライブに行けなかった人もいるはずだけど、そんな人たちの「ライブを見たい」という需要を掬い取った(有料のストリーミングライブもありますけどね)。そしてそれは、今まで触れたことのなかったバンド・ミュージシャンに触れる機会が増えることにも繋がった。

また、ライブストリーミングには、生ライブにはない独自の強みがある。演奏している手元・足元が見える(特にミュージシャンは「どんな機材使ってるんだろう?」「どんなコード弾いてんの?」「そんな風にフィルイン叩いてたんだ」とか気になるんじゃないですかね)、とか、通常のライブでは見ることのできないアングルでライブを見れる(ドラム背中越しアングルとか、超寄りアングルとか)、とか、チャット機能など言葉で感想がダイレクトに届く、とか、画面にエフェクトかけられる、とか、様々な独自の特徴がある。

コロナ中に掬い取った新たな需要をコロナ後も合わせるような動き、つまり、観客がいる生ライブにライブストリーミングを組み合わせて「共存」させる、ってのもでてくるんじゃないかな、と。そうなると、チケットがソールドしてもハコのキャパ以上のお客さんに楽しんでもらえることができるし(もちろん、ライブハウスには入場人数制限があるし、体感する迫力が違うからチケット料金の差異をつけなきゃいけないだろうけど)、上記のような制約でライブに行けない人も引き続きライブを楽しむことができるし、ライブハウス側も今まで以上の収益を生み出せる可能性がある。
コロナ前のやり方と、コロナ中のやり方を、コロナ後に「共存」させる。

この「共存」現象は、音楽だけでなく、他のことについても進んでいく(進んでいる)のではないか。
コロナ対策のひとつとして、人との直接的な接触はなるべく避ける、というのがある。その対策方法がきっかけとなって、過渡期だった仕組みだったり新たに生まれた仕組みが加速して、既存の仕組みと共存するようなことがすでに起こっているし、今後もうまく折り合いつけながら共存していくんだろうな、と感じている。
例えば、実店舗にも出向くけどECでの購買やそれに伴う電子決済の普及も後押しされたり、オフィスにも出社するけどリモートワークやオンライン会議でも実務が可能になったり、イートインだけだった店がテークアウトやデリバリーという選択肢を持つようになったり、そういった、「やろうかな」とか「やらなきゃな」とか「手を付けたけどなんかうまくいかないな」と思っていたことが加速して実現しつつ、既存であった仕組みも継続して残っていく、みたいな。
映画なんかも、Netflixがこれだけ大流行して、映画館に人が戻らないんじゃないか、なんて言われてるけど、そんなことないと思う。ただ、映画館で見る映画、Netflixなど家で見る映画、ってのは選別されていくんだろうな。なので、これも、競合する部分があるとしても、共存していくんだと思う。


バンコク含め、世界中でこれだけ壊れてしまった経済や、生活様式や、交通や、仕事や、文化・芸術が回復するまでにどれくらいの時間がかかるのか。もしくは、回復しないのか。被害が甚大すぎて、ちょっと想像できない。失業者も増え、そうなると治安が悪化するだろうし、そういう経済的・社会的な状況がどうなっていくのかはまだ未知数で、これから実感を伴いながら見えていくんだと思う。

個人的な活動でいうと、2018年、2019年と、日本・タイの音楽交流が今まで以上に盛んになってきていて、2020年はさらに交流が加速するはずだった。
特に現地でライブする機会が増え、行き来が相当盛んになっていたんだけど、その大きな一つの要因としてLCCの発達ってのあった。でも、コロナ禍の影響を受け、LCCは相当な痛手を被った。このまま元に戻るのか、戻ったとしても飛行機チケットが高額になれば、今までのように気軽に行き来ができなくなるだろう。

でも、コロナのせいで、日本で流れ始めたアジアの音楽を止めてはいけないし、アジアで再評価され始めた日本の音楽を止めてはいけない。なので、今は、日本・タイ、ひいてはアジアの音楽交流のため、遠隔でも実施可能な施策を考えていくしかない。
実際、現在、多くのプロジェクトが生まれ、各方面からいろんな相談が来てるし、いろんな相談をしている。途中でダメになるのもあれば、これから手をつけるものもある。皆、しょげることなく、先を見て模索している。
進出予定先の国での知名度をあげておくためのプロモーションであったり、国をまたいでの楽曲共作であったり、オンラインイベントの企画・実施・協力であったり、マーチャンダイズの海外での販売であったり、今の状況でも(今の状況だからこそ)、できることはたくさんある。

まずは関わっている国にいる音楽が好きな皆の役に立てることを、考えて、実施していきたい。
そして、コロナ後の新しい世界に向けて、今から準備を進めておこう。

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dessin the world
日本とアジアのインディーズシーンを支援するためのレーベルです。 「日本の音楽をアジアに。アジアの音楽を日本に。」をコンセプトに、アジア音楽交流のための草の根活動をおこなっています。主に、タイのインディーズ事情について発信していきます。
日本・タイのインディーズバンドによるコンピレーションアルバムのフリーダウンロード「a plan named overlap」、アジアの現場で鳴っている音を共有するためのプレイリスト「Scenario Asia」はこちらから。

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