アルバムと共に引退?:ブライソン・ティラーがアルバム『Bryson Tiller』で語る
ケンタッキー州ルイビル出身のシンガーBryson Tiller(ブライソン・ティラー)は、2014年にSoundCloudで発表したシングル『Don't』がインターネット上で話題となり、翌年にはデビューアルバム『T R A P S O U L』(2015)をリリース。このアルバムは、全米チャートのトップ10に入り、セカンドシングル『Exchange』はグラミー賞の「最優秀R&Bソング賞」にノミネートされるなど、幅広いオーディエンスから注目を集めました。
セカンドアルバム『True to Self』(2017)は、全米チャート1位を獲得し、彼の音楽キャリアをさらに確固たるものにしました。また、2020年にはドレイクをゲストに迎えた3枚目のアルバム『A N N I V E R S A R Y』をリリースしています。
また、彼は他のアーティストとのコラボレーションでも高い評価を得ています。2017年には、DJキャレドとリアーナとのコラボシングル『Wild Thoughts』が全米シングルチャートで2位を獲得し、ブライソン・ティラーのキャリアの中でも特に成功を収めた楽曲となりました。また、シンガーH.E.R.とのシングル『Could've Been』はグラミー賞にノミネートされるなど、彼の多才さが評価されています。
そして、2024年4月に自身の名前を冠した4枚目のアルバム『Bryson Tiller』をリリースしました。今回の記事では、この最新作に焦点を当て、その魅力を詳しく探っていきます。
レーベル : RCA Records & TrapSoul
リリース日 : 2024年4月5日
名前 : Bryson Tiller
本名 : Bryson Djuan Tiller
年齢 : 31歳
出身地 : ケンタッキー州ルイビル
アルバム制作の困難を乗り越えて、彼が見つけた音楽の喜び
冒頭でも触れましたが、ブライソン・ティラーの代表曲のひとつであるシングル『Exchange』は、イントロからK.P. & Envyiの『Swing My Way』をサンプリングしており、過去の名曲に自身のスタイルを取り入れて昇華させました。彼は、新しいアルバムでもサンプリングを多用して制作を行っていましたが、サンプル元の使用許可が得られず、何度も最初から楽曲を作り直すことを余儀なくされていました。
オフィシャルでのリリースが見送られた楽曲は、2023年に『Slum Tiller, Volume 1』というミックステープとしてSoundCloudで公開されました。このシリーズは、2024年1月までに3部作がリリースされました。ブライソン・ティラーのブレイクソングであるシングル『Don't』も、最初はSoundCloudで公開され、その後注目を集め、レーベル契約やアルバムリリースに繋がったことから、彼は自身のキャリアの原点に戻ることで、音楽を再びリリースできるようになりました。
彼が話すように、『Slum Tiller Vol.2』に収録された楽曲『Whatever She Wants』は、600万ダウンロードというヒットを記録し、多くのファンから高い支持を受けました。この人気を受けて、2024年2月にはシングルとして正式にリリースされました。この楽曲は、全米チャートでも成功を収め、ブライソン・ティラーの代表曲『Don't』以来の全米チャートトップ20入りを果たしました。
さらに、『Whatever She Wants』は新アルバムの最後にボーナストラックとして収録され、彼にとってこのシングルの成功は、SoundCloudという自身の原点に戻るという決断が正しかったことを示すものとなりました。同時に、音楽制作のシンプルな喜びとファンとの直接的な繋がりを大切にする彼の姿勢が、多くのリスナーの共感を呼んだと言えるでしょう。
Bryson Tiller - Whatever She Wants
アルバムタイトルに自身の名前を冠した理由とは?
彼は最新アルバムのタイトルに自身の名前を冠することで、デビューアルバム『T R A P S O U L』に見られたラップと歌の融合スタイルに対する周囲の固定観念に挑戦しているようです。このアルバムタイトルを通じて、彼は自らの多才さと、アーティストとしての広がりを示したいと望んでいるのかもしれません。ラッパーであると同時にシンガーとしての無限の可能性を追求したい、そんな彼の意志が感じられます。クリエイティブな制約から解放され、自己表現の自由を求めている彼の姿勢が伺えます。
続けてブライソン・ティラーは、自分自身をありのまま受け入れることの大切さについて語っています。彼は、他人の意見に左右されず、自分の個性を全面的に受け入れることを決意しており、それこそが真に「クール」なことだと感じているのです。
収録曲について
新作は、全19曲が収録されており、ゲストにはR&BシンガーVictoria Monétと、イギリス、マンチェスター出身のシンガーClara La Sanが参加しています。
『Persuasion』
アルバム4曲目『Persuasion』は、Victoria Monétとの共作で、Silk Sonicのプロデューサーとして知られるD’Mileが共同プロデュースを担当しています。この曲では、男女の一時的な関係をテーマにしており、誘惑や欲望といった感情が描かれています。男性は女性を見つめ、女性も彼に応じる形で、今夜の関係を楽しむ意志を示しています。しかし、男性は彼女に「恋に落ちるな」と警告し、真剣な関係ではなく、あくまで今夜だけの軽い楽しみを求めていると伝えています。
Bryson Tiller feat. Victoria Monét - Persuasion
『Ciao!』
アルバム5曲目『Ciao!』は、ドレイクやSZA、アリアナ・グランデなどのプロデュースやソングライターとして活躍しているLeon Thomas IIIが共同プロデュースを手掛けています。この曲は、ドリル系のハードなドラム音が印象的で、恋愛における金銭的な負担や試用期間というコンセプトをテーマにしています。
ブライソン・ティラーは、この曲の中で、相手に対して2日間と30日間の試用期間を与え、その後で自分の時間を取り戻して相手に払わせる、あるいは関係が無駄だと判断すると述べています。贅沢なものを求める相手に対し、彼は困惑しながらもスポンサーのようにお金を払っている状況を描写しています。最後に「チャオ、チャオ、チャオ」という別れの言葉で、関係の終わりを示唆しています。
Bryson Tiller - Ciao!
『CALYPSO』
アルバムの14曲目『CALYPSO』は、2024年3月にリリースされたリードシングルで、レゲエ風の爽快な裏打ちビートが特徴です。この曲は、クラブでの再会が引き起こす懐かしさや親密さを描いています。物語は、パーティーで偶然再会した主人公と女性の間に起こる微妙な戸惑いから始まりますが、かつて二人が愛し合っていた時の曲が流れると、昔の感情が呼び覚まされます。
女性はすぐに帰る予定でしたが、車を待っている間に彼と親密な時間を過ごします。そして、彼は彼女を自宅でのパーティーに誘い、これが新しい関係の始まりになるかもしれないとほのめかします。この曲は、再会が過去の感情を呼び戻す瞬間を描いています。
Bryson Tiller - CALYPSO
『Outside』
アルバム15曲目『Outside』は、2022年9月に先行シングルとしてリリースされました。この曲は、Ying Yang Twinsの『Wait (The Whisper Song)』(2005)をイントロからサンプリングしており、ミュージックビデオではYing Yang Twinsがカメオ出演しているほか、女性の耳元で囁くシーンなど、オリジナルへのオマージュが込められた映像に仕上がっています。
この曲では、過去の恋愛を乗り越えて新しい人生を楽しんでいる女性が描かれています。一方で、元彼は彼女の変貌に後悔の念を抱いていますが、彼女はもう彼には興味がありません。新しい出会いや自分の道を進むことで、彼女は新たな可能性を見出しています。全体を通じて、自己成長と自立のテーマが強調されているのが特徴です。
Bryson Tiller - Outside
Ying Yang Twins - Wait (The Whisper Song) (2005)
おわりに
ブライソン・ティラーの新作アルバムは、これまでのR&Bスタイルをキープしつつも、新たなビートに挑戦している点が特徴的です。ジャージークラブ調の『Random Access Memory [RAM]』や、アップテンポなダンスナンバー『Assume The Position』など、従来の彼の音楽スタイルに多様なエッセンスが加わっています。これにより、アルバム全体としてバリエーション豊かなサウンドが楽しめます。
しかし、彼は今回のアルバムリリース後、音楽活動から一時的に距離を置いて、ビデオゲームのデザインに専念するつもりのようです。音楽業界のプレッシャーや外部からの指示に疲れ、音楽制作に対する情熱を失いつつあると語っています。
一時的な引退を示唆し、今後はゲームやデザイン業に専念する意向を示したブライソン・ティラー。しかし、音楽業界で10年以上にわたり第一線で活躍してきた彼の功績は、業界関係者やファンにとって非常に大きなものであり、彼が引退することを惜しむ声や、再び音楽活動に戻ってきてほしいと願う声が高まりそうです。
ともあれ、彼が細部にまでこだわったアートワークも見どころの一つである最新作『Bryson Tiller』には、彼のこれまでのキャリアの集大成が凝縮されています。この機会に、彼の音楽の軌跡を辿ってみてはいかがでしょうか。
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