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皇后杯の優勝賞金は、なぜ300万円なのか?そして関係者の努力、女子サッカーの待遇改善の先行事例とは?

2019年の日本のスポーツの開幕は皇后杯 JFA 第40回全日本女子サッカー選手権大会。日テレ・ベレーザが延長戦でINAC神戸レオネッサを4-2で下した。強豪2クラブが死力を尽くして競い合う好ゲームだった。試合後にテレビ中継に映し出された「優勝賞金300万円」の文字。これが話題となった。

男子の天皇杯 JFA 全日本サッカー選手権大会の賞金は2017年から1.5億円になっている。それまでの1億円から大幅に増加された。

ただし2020年以降も1.5億円が維持されるかどうかは不明だ。また1億円に戻るかもしれない。なぜなら「駿」から始まる大型スポンサーが協賛を継続することができないからだ(2018年の天皇杯 JFA 全日本サッカー選手権大会のピッチ脇広告看板が大会途中からスカスカになったのは、広告看板が撤去されたため)。

男子と比べて女子の賞金が少なすぎる。差別ではないかという声。

そんな意見がツイートされた。確かに、金額の差が激しい。差別なのか?金額の設定は適切なのか?まず、この賞金が何であるのかを考えてみたい。

天皇杯と皇后杯はプロの大会ではなくオープン大会。優勝賞金として支払われるお金はチーム強化費。

いずれの大会もプロクラブでもアマクラブでも参加できるオープン大会となっている。だから、この大会は「日本一を決める大会」と呼ばれる。そして、日本サッカー協会は優勝したクラブにチーム強化費として優勝賞金を支払う。

間違えてはならないのは、賞金は「給与」ではないということ。またプロアマ混在のオープン大会は労働ではない。雇用(給与)の問題ではないので、ここに厚生労働省が登場する理由がない。これはスポーツの賞金の話なのだ(仮に雇用を平等にという主張であれば天皇杯では地方予選から行われる約5,000試合の参加選手全てに等しく「給与」を支払う必要が生じる)。

オープン大会であるから、日本全国のプレーヤーに対して平等であるべきだというのが基本的な考え。

賞金は集めた金の分配。天皇杯決勝戦は5万人を有料で集め皇后杯決勝戦は6千人を無料で集めた。そして天皇杯は「駿」から始まる大型スポンサー等の多くの企業から協賛金収益も挙げてる。ここで差が生まれる。そして、最も重要なのはサッカー選手登録数だ。女子の登録数は約28千人。それ以外は約887千人(そのうち第1種から第4種は353千人)。女子のサッカー選手登録数は男子のサッカー選手登録数の3%に相当する。日本サッカー協会は興行会社ではなく「サッカーを通じて豊かなスポーツ文化を創造し、人々の心身の発達と社会の発展に貢献すること」を目的に活動している公益財団法人だ、

賞金は平等な分配が適切であると考えれば皇后杯の賞金は天皇杯の賞金の3%ということになる。

天皇杯の優勝賞金1.5億円の3%は450万円、増加する以前の天皇杯の優勝賞金1億円の3%は300万円となり皇后杯の優勝賞金と同額になる。(この考え方は、正式にサッカー協会は発表したものではない)

日本サッカー協会および女子サッカー関係者は女子サッカーの普及拡大に努力をしている。

古い話で恐縮だが、一つの事例を紹介しよう。実際に私が関わった事例だ。2006年に株式会社モックがなでしこリーグの冠スポンサーとして協賛した。この時の協賛金は非公表となっているが、かなりの金額であった。

あまり浸透していなかったが、このとき、株式会社モックは全日本女子サッカー選手権大会(現在は皇后杯を下杯)も含む各種大会の協賛も行なっている。

ここからは報道されていない話。実は、株式会社モックは、なでしこリーグだけの協賛を考えていた。日本サッカー協会(当時はなでしこリーグが法人化されていなかったので日本サッカー協会との協賛契約)も、なでしこリーグだけの協賛を得られればと考えていた。ところが、株式会社モックへプレゼンテーションしたPR会社(および広告代理店)が日本サッカー協会が考えるよりも遥かに大きな金額で株式会社モックから協賛金契約を引き出すことに成功した。そこで、日本サッカー協会は協賛の範囲をなでしこリーグだけではなく全日本女子サッカー選手権大会(現在は皇后杯を下杯)も含む各種大会へと拡大し、それぞれの大会に協賛金を分配した。このような関係者の努力は、今も水面下で続いており、皇后杯は発展していった。

では、どのようにすれば女子サッカーの待遇改善を実現できるのだろう?

FIFA女子ワールドカップ2019フランス大会では賞金が倍増となる。

FIFAが女子選手数の倍増を計画し数々のプロジェクトをスタートしている。それにともない、先行してワールドカップの賞金を倍増した。女子サッカー部門の主任責任者を務めるサライ・バラマン(Sarai Bareman)氏は、「われわれが今最優先にしている目標は三つある。競技人口の増加、商業的価値の向上、そして土台作りだ」とAFPに語っており、ここでも重要なのは、やはり競技人口の増加だ。

さて、先に、賞金とは無関係な別物として説明した「給与」についても参考事例を紹介しよう。

男女平等の先進国であるノルウェーが代表チームの報酬における「性の平等」を実現する最初の国となる。

ノルウェーは「北欧モデル」と呼ばれる男女平等の先進国の一つ。2017年9月に行われた総選挙で女性議員の割合が41.4%。初めて40%を超えた。そんなノルウェーでは代表選手の報酬が男女平等になるという。男子選手が報酬カットを受け入れて、カットされた55万クローネ(約800万円)を女子選手の報酬のために転用したのだ。

米女子代表選手たちの年収は20〜30万ドル(約2,200〜3,300万円)に倍増する。

「サッカー界では『同一労働・同一賃金』が守られていない」という訴えは広くメディアに取り上げられ、スポーツ界を越えた支持が集まり、ヒラリー・クリントン氏も大統領選中にツイッターで応援メッセージを発信。一方で女子代表の一部の選手が、自分たちと男子代表の成績を比較して中傷するなど、米サッカー界や代表ファンを二分する騒動にも発展している。平等の国である米国でも、その道は険しい。

皇后杯の賞金は天皇杯の賞金の3%が平等ではあるが、女子サッカーへの協賛企業が増えることで増額の可能性は十分にある。

近年の男女平等、女性支援の動きの活発化により「女性をターゲットにした企業による女子スポーツ支援」は拡大している。日本の女子サッカーにも多くの企業が参入した。中には、ノジマ、ちふれ化粧品といった、雇用も含めて女子サッカー選手を支援する企業もある。「ママの公式スポンサー」をコンセプトとしたP&Gによるオリンピックにおけるターゲティング戦略も成功例として挙げられる。

女子スポーツへの支援は意義あるもの。ぜひ、多くの法人、個人に参入していただきたい。

私自身の女子サッカー協賛の業務は2年間で終了した。「協賛効果」の判断の難しさもあるが、当時と比べれば、格段に女性支援の社会的意義は高まっている。ぜひ、支援の輪が広がってほしい。

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