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EDI・コラム「ブランド選択モデルによる消費者行動の理解(猪狩 良介)」

こんにちは!エコノミクスデザインです。

エコノミクスデザインは、アカデミアサイド3名、ビジネスサイド1名の計4名が2020年に「経済学をビジネスに活用すること」を目的に共同創業した会社です。

HP:https://econ.news/

エコノミクスデザインは、主に2つの事業を行なっております。

  1. エデュケーション事業

    1. ビジネスに活用できる経済学を中心とするビジネスマン向けオンラインスクール「The Night School」の運営

    2. DX・AI等にまつわる経済学分野のリカレント教育関連の企業研修等

  2. コンサルティング事業

    1. エコノミクス・アドバイザリー・サービス:課題解決に関連する学知の提供・データ作成及びそれに関連するサービス

    2. エコノミクス・デベロップメント・サービス:学知に基づく仕組み(アルゴリズム・関数・指標等)の設計・開発及び提供

この記事では、エコノミクスデザインで活躍する研究者が執筆したコラムをお届けします。



ブランド選択モデルによる消費者行動の理解

エコノミクスデザイン エコノミスト
猪狩良介(慶應義塾大学 商学部 准教授)

1. 消費者の購買行動の解明

 近年、消費者行動を捉えるマーケティング・データが非常に豊かになってきています。店頭における商品の購買履歴や、インターネット上でのサイト閲覧・購買履歴、アプリ利用履歴や位置情報など、多種多様なデータが利用できるようになりました。購買履歴データを見ると、消費者IDを付与したID 付POS データは、いつ、誰が、何を、いくらで、何個購入したのかという購買履歴を記録しており、これを分析することでどのような消費者がどの商品をどれだけの頻度で購入するのかなどを把握できます。また、個人の購買行動を広く捉えたスキャン・パネルデータも広く利用されています。このようなデータを用いた消費者の購買行動の解明は、マーケティング・サイエンスと呼ばれる学問分野では古くから研究されており、たくさんの知見が蓄積されています。その中でも今回のコラムでは、ブランド選択モデルを中心にお話ししたいと思います。

2.ブランド選択モデルによる消費者行動の理解

 消費者は店頭で、複数の選択肢(ブランド)の中から1つを選ぶ選択行動を日常的に行っています。このような選択行動は経済学や心理学、交通工学などでも広く分析されており、マーケティング・サイエンスではブランド選択モデルなどと呼ばれています。ブランド選択モデルは現在でも重要な研究テーマの一つですが、初期の研究としてGuadagni & Little (1983)の論文が有名です。前述のID付POSデータやスキャン・パネルデータなどのような、同じ消費者の購買行動を複数時点にわたって記録したデータをブランド選択モデルに適応することで、非常に豊かな知見が得られます。ブランド選択を説明する要因としては、価格や値引きプロモーション、チラシや店頭での特別陳列など、購買場面の情報が主に用いられます。
 
 ブランド選択モデルを通して、消費者行動をより深く理解することができます。ここからはブランド選択モデルで扱うトピックスについて紹介したいと思います。

例1)ブランド・ロイヤルティ

 ブランド・ロイヤルティは、消費者がそのブランドに対してどの程度の忠誠心を持っているかを表しており、ブランド資産(ブランド・エクイティ)の要素の1つとされています。ブランド・ロイヤルティを購買履歴データから直接観測することは難しいですが、過去の購買ブランドの情報からブランド・ロイヤルティを推計することが可能です。前述のGuadagni & Little (1983)によってブランド・ロイヤルティがブランド選択モデルに組み込まれ、いままで広く利用されています。

例2)ブランド・スイッチングと交差弾力性

 前述のブランド・ロイヤルティとも重なりますが、消費者は、ずっと同じブランドを購入し続けてくれるわけではありません。これまで購入してくれていたブランドとは別のブランドを突然購入することも考えられます。このように購買ブランドが変化することをブランド・スイッチングなどと呼びます。消費者レベルのブランド・スイッチング行動を見るには、個人レベルのブランド選択データが必要になります。個人レベルの分析により、ブランドスイッチにどのような店頭プロモーションが影響していたのかを検証することができます。例えば、値引きによってスイッチした消費者もいれば、特別陳列によってスイッチした消費者もいます。ブランド選択モデルを用いることで、これらを解明することが可能になります。

 また、特に価格はブランド選択に直接的な影響を与えます。価格をモデルに組み込むことで、選択に対する(自己)価格弾力性を計算することができます。加えて、複数ブランドを扱うブランド選択モデルでは、別ブランドの価格変化によって生じる当該ブランドの需要変化をはかる交差価格弾力性も計算できます。自己価格弾力性と交差価格弾力性を測定することで、プロモーションにおける最適な値下げ額などをシミュレーションすることが可能になります。

例3)家庭内在庫

 消費者は多くの商品を自宅にストックしています。これらは家庭内在庫と呼ばれ、商品購入に大きな影響を与えます。しかし、消費者アンケート調査などを行わない限り、各消費者の家庭内在庫を企業側で知ることはできません。ここで、消費者の購買履歴をさかのぼることで、過去の購買数量と経過時間から家庭内在庫を推定することが可能になります。これらを可視化することで、買いだめや需要の先食い、将来の競合ブランド購買の先取りなどに対するプロモーションの効果を検証することができます。

例4)考慮集合

 一般的なブランド選択行動ではすべての選択肢を考慮していると考えますが、消費者は実際には候補となる限られた商品やブランドから検討を行っていると考えるのが自然です。消費者が実際に商品を購入する際に考慮するブランドやサービスの集まりのことを考慮集合といいます。商品カテゴリによって異なりますが、一般的に考慮集合に含まれるブランドの数は2~8ぐらいであるといわれています。家庭内在庫と同様に、消費者アンケート調査などを行わない限り、各消費者の考慮集合を正確に知ることはできません。マーケティング・サイエンスでは、ブランド選択モデルに考慮集合の概念を組み込む方法が提案されています。代表的な方法では、各ブランドが考慮集合に入る確率を導入して、ブランド選択モデルに組み込みます。

例5)セグメントや消費者別の異質的な反応

 マーケティング戦略の重要な立案プロセスの1つに、STPアプローチがあります。特にセグメンテーション(S)では、市場を顧客の特性やニーズに応じて分類します。個人レベルのブランド選択モデルにセグメンテーションの概念を導入することで、ブランド選択に対するセグメントによって異なるプロモーションへの反応などを推定することができます。また近年では、より分析の粒度を細かくして、消費者1人1人のマーケティング施策に対する効果の違いをブランド選択行動に組み込むことも一般的になってきています。

3.まとめ

 本日のコラムでは、ブランド選択モデルと代表的なトピックスについて紹介しました。ブランド選択モデルでは、前述のように主に店頭における購買場面でのプロモーション情報を分析に用います。一方で店舗単位では管理できないマーケティング変数、例えば広告投入量(GRPなど)は要因として盛り込むことが難しいという欠点があります。こういった場合は、マーケット・シェアモデルマーケティング・ミックス・モデリングなどの集計データを用いた分析が用いられています。しかし、集計データを用いた分析手法では、これまで紹介したような消費者行動のメカニズムを詳しく捉えることは難しいです。こういった行動の背後にあるメカニズムを捉えるには、今回紹介したブランド選択モデルをはじめとした消費者レベルの購買データを用いた分析が適しています。

参考文献
Guadagni, P. M., & Little, J. D. (1983). A logit model of brand choice calibrated on scanner data. Marketing Science, 2(3), 203-238.


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終わりに

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