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初心者とドケチのための歌ってみた用ローエンド機材の選び方 〜オーディオインターフェース編〜


前回の記事では何も具体的な話に入れなかったにも関わらず、反響をいただきありがとうございました。
前置きは散々書いたので早速本題に移りたいと思います。今回はオーディオインターフェースの話です。長いです。

基本はUSB接続の箱型を選ぶ

PCがWindowsの人は迷わずUSB接続オーディオインターフェースを選べば良いでしょう。MacはFirewire端子があればそちらも選択肢に入るかと思いますが、筆者はWindowsユーザーなので詳しくは分かりません。
オーディオインターフェースと一口に言っても、用途に寄って様々な形の製品が販売されています。
トップ画像のような前面に操作系がある箱型が最も基本的な形となっています。まずはこの形を基準に選ぶと良いでしょう。
後で詳しく触れますが、ミキサー型は最初は避けたほうが無難です。

音質はスペック表ではわからない

概要編で述べた通り、私の基本方針は見た目で選べです。
小難しい話は抜きにして、必要な機能の有無だけ確認したらあとは好きなものを買ってもらいたいところです。
しかしオーディオインターフェースがデジタルな機器である以上、数値的なスペックの目安は示しておかなければなりません。

機材スペックの話に関してはひとつ注意点があります。
この後で解説するスペックの数値は、確かに高ければ高いほど高性能と言えます。
しかしそれは「アナログ⇔デジタル間の音声波形の再現性が高い」という意味でしかなく、良い音を鳴らす機材とイコールではないということは頭に置いた上で読んでください。

最低限必要なスペック

ここで言う必要なスペックとは、耳で聴いた音の感性的な良し悪しに関するものではなく、音声データの加工による劣化を防ぐために必要な性能のことを示しています。
この数値以上のデータ規格に対応していれば、録音データの加工を繰り返しても劣化の影響が無視できるレベルになる……らしいです。
正直なぜこれで劣化が小さくなるのか、という理屈に関しては私も理解できているわけではないので、もし詳しい方がいたらぜひ教えて下さい。
スペック表で見るべき数値は以下2点です。

  • サンプリングレート:48kHz以上

  • ビットレート:24bit以上

メーカー・製品によっては名称が若干異なるかもしれませんが、製品紹介ページには必ず上記に類する数値が記載されているはずです。
どちらもこれよりも大きい数値の規格に対応していれば、設定で下げることはできますので大きすぎて困ることはありません。
ただしこれらの数値を大きくすればするほど、録音データのサイズがどんどん大きくなっていきます。
録音したデータは録り直したテイクも含め、すべてが個別の音声ファイルとして保存されています。音声データの容量など大したことはないだろう、とナメていると気づいたときにはハードディスクがパンパンになっているかもしれません。
そういった意味でも、上位規格に対応していても実際に使用する時の設定はこのあたりにしておくことをオススメします。

なお水準としては15年くらい前の製品でも対応しているレベルなので、現行製品ならまずクリアしています。
ただし極ローエンドのモバイル用製品などは未だに44.1kHz/16bitの製品があるので注意が必要です。

必要な搭載機能

オーディオインターフェースは各メーカーでシリーズ化されており、接続端子の数や搭載機能の有無でグレードが振られています。
歌ってみたの録音に限定すれば1番下のグレードでも大抵問題ありません。確認すべき機能は以下の3点。

  • マイク入力端子(XLR端子またはコンボ端子)1系統以上

  • ファンタム電源

  • ダイレクトモニター機能

  • ASIO対応

こちらも順番に解説していきます。

マイク入力端子

歌の録音をするための機材なので、当然マイク端子は必須です。通常マイクを接続する端子はXLR端子です。

XLR端子 3つの穴が特徴

またこのXLR端子とギターなどの楽器を接続する標準フォン端子を合体させ、1つの端子で2つのプラグ形状に対応させたコンボ端子というものもあります。

コンボ端子 中央にフォンプラグも挿せる

以前は低価格帯の製品ではコンボ端子はあまり搭載されていなかったのですが、最近ではローエンドでもほぼすべてがコンボ端子になっています。
マイクを繋ぐにはどちらの端子でも同じなので、どちらかが1つ以上搭載されていれば大丈夫です。

歌の録音しかしないのであれば、入力端子は1つで充分です。
もし楽器を演奏しながら歌う弾き語りなど、2本以上のマイクを同時に録音する可能性がある場合は、上記のマイク用端子に加えて楽器を接続できる2つ目の端子が必要になります。
なお、楽器と歌を同時に録音せず、別々に録ってあとで編集で合わせる場合は入力端子は1つで問題ありません。

演奏する楽器がエレキギターなどの電子楽器であるならば、2つ目の端子は標準フォン端子でも大丈夫です。(エレキギターをエフェクターなどを挟まず直接繋ぐ場合はHi-Zという機能が必要になります。)

コンボ端子と標準フォン端子の組み合わせ

アコースティックギターのように楽器の音もマイクで拾わなければいけない楽器を使用する場合はマイク入力端子が2つ必要になります。
2つ上のコンボ端子の画像の様に、コンボ端子が2つ並んでいればどちらのパターンにも対応できますが、少し値段帯が高くなります。

ファンタム電源

コンデンサーマイクを使用するためには、XLR端子から供給されるファンタム電源という専用の電源が必要です。
個人的にはラフに宅録するならダイナミックマイクでも充分だと思っているので必須感は薄いですが、あったほうが後々の選択肢は広がります。
大抵の製品には搭載されておりますが、チラッと確認しておきましょう。

ダイレクトモニター

音声を録音する際、オーディオインターフェースとPCの間でデータをやりとりすることでラグが発生し、歌っている自分の声が発生よりもわずかに遅れてヘッドホンから聴こえます。この遅れのことをレイテンシーといいます。
このレイテンシーはPCの性能が十分高ければ、ほぼ感知できない程度(約5/1000秒)になります。
しかしノートPCなど性能が低いPCを使用している場合は、ヘッドホンからの出力に明らかな遅れが発生し、歌うのに支障が出る可能性があります。
またこうした場合、録音したデータも全て伴奏より遅れて記録されてしまします。
こうした問題の対策として搭載されているのがダイレクトモニター機能です。

ダイレクトモニターをオンにすると、入力した音声がPCへ行く前に直接ヘッドホンに出力されるため、レイテンシーがほぼゼロになり問題なくレコーディングを行うことができます。
ローエンド帯でもほぼすべてのオーディオインターフェースに搭載されている機能ですが、ローエンドだとオンオフだけなのに対し、ミドルレンジ以上は音量バランスの調整ができる、という違いがあります。
音量調整ができない機材でダイレクトモニターをオンにする場合、ダイレクトモニターの音が聴こえるように伴奏の音量を小さくし、録音音量もそれに合わせる必要があります。
(ヘッドホン出力の音量を小さくするとダイレクトモニターの音まで小さくなってしまうのでダメ)

不便に思うかもしれませんが、このダイレクトモニターの音量に合わせた音量設定にすることで自然と適切な録音設定になる……可能性があります。
詳しくはMIXの領域の話に近くなるので割愛しますが、デジタルな録音では限界まで大きい音量で録ることは必ずしも良いことではないということは覚えておきましょう。

ASIO対応

さてここまでは筐体を見ればわかることでしたが、このASIOに関してはソフト側のことなのでPCが苦手な人には少し難しい話になるかもしれません。しかし3点のうちで最も大事な機能なので頑張って読んでください。
Macを使っている人はあまり読む必要はないです。

なお、ここで何をいっているかわからなかった人でも大丈夫な選択肢を用意してありますので、とりあえず最後までお読みくださいませ。

ざっくり言ってしまうと、ASIOは可能な限りレイテンシーを小さくするための接続規格のことです。
前の項で「PCの性能が良ければレイテンシーは無視できる」と書きましたが、このASIOで接続することを前提としています。

WindowsのPCでは、入出力する音声をWindowsが一旦全て受け取って自動で割り振ることで、一般ユーザーでも困ることなく音声設定ができます。
ただこの「一旦受け取る」ことでレイテンシーが避けられなくなり、音楽的には問題となります。
そこでこのASIOというWindowsの割り振りをスルーする専用道路を用意することで、レイテンシーを小さくすることができるということです。(なんとなくのイメージでいいです)

ASIOはドライバというソフトの一部です。ドライバをインストールすることでPCはオーディオインターフェースを認識できるようになります。
ドライバは製品ごとに専用のものが用意されており、各メーカーの製品ページのサポートなどからダウンロードできます。
製品を接続するのとドライバのインストールの順番はメーカー・製品によって異なりますのでインストーラーの指示に従ってください。
また録音ソフト側でも接続設定をASIOにする必要があります。

ASIO対応も前2件と同じく、ローエンド製品でもほぼ全てに用意されている機能です。しかし一部でASIOに対応していないオーディオインターフェースがあります。
代表的なものが「ミキサーにおまけでオーディオインターフェース機能がついている製品」です。
コロナ禍以降の配信ブームでYAMAHAのAG03が物凄い人気ですが、ミキサー型は見た目もプロっぽくていいな、と思う人も多いと思います。
しかしミキサーのオーディオインターフェース機能はあくまで「PCと音のやり取りができる」程度のもので、配信にはよくても音楽には適さない場合があるので注意が必要です。
(なおAG03はしっかりASIOに対応しておりますのでご心配なく。)
スペックの項で触れた「極ローエンドのモバイル用製品」もASIOに対応していない場合があります。

避けたほうがいい製品

前提知識のお勉強はここまでです。お疲れ様でした。
ここまでの条件を考慮したうえでお財布と相談してお好きな製品を選びましょう。
ただし一部避けておいたほうが無難な製品がありますので、サウンドハウスのラインナップから紹介しておきます。

安いミキサー型

ASIOの件でも触れましたが、最初はミキサー型は避けたほうがいいと思います。
スペックの項目が一般的なオーディオインターフェースと異なるため注意点を見落とす可能性が高いです。
また接続方法によっては内部ループにより一瞬で機材と耳の両方を再起不能なまでに壊す危険性を孕んでいます。そうした意味でも初心者向けではありません。
どうしてもミキサー型が良ければ安く済ませることは諦めてAG03を買うほうがいいと思います。

マイクに直接接続するタイプ

JTS MA-XUのようなマイクの根本に直接取り付けるタイプのものがあります。持ったことこそ無いですが、どう見ても操作しにくそうですし、操作するたびにマイクに振動が伝わる可能性があります。
手軽そうな見た目ですが、デメリットを承知で購入する玄人向けの製品だと思います。

MIDITECH AUDIOLINKシリーズ

見た目は無難でいい選択肢のように見えますが、たびたび言及している「極ローエンドのモバイル用」とはこのシリーズのことです。
スペックが推奨する最低ラインに届いておらず、ASIOにも非対応なため音楽用には厳しいです。

BEHRINGER UM2・UMC22

最後に激安で及第点な機材の(元)代表メーカー、ベリンガーのローエンドモデル2種です。友人の歌い手が購入したUM2をしばらく借りていたことがあります。
スペック的には申し分なく、機能も必要なものは揃っているのですが、ドライバに大きな問題があります。
現在公式サイトでは「ASIO4ALL」というソフトをドライバとして使用するように推奨しています。しかし本来このソフトはASIO非対応な機材を無理やりASIOとして認識させるためのフリーソフトで、メーカーが公式サイトで配布するようなものではありません。
実際UM2をASIO4ALLで接続すると、常に音声にノイズが乗るため使い物になりません。

では全く使い物にならないかというとそうでもなく、以前ベリンガーが公式で配布していた旧ドライバであれば正常に動くのです。
現在旧ドライバは公式サイトでは配布しておらず、私は海外の掲示板に貼られていた物を見つけてインストールしました。もちろん名前を偽って危ないソフトなどをインストールさせられる可能性もありますので、とても初心者に勧められる方法ではありません。
よって使おうとすれば使えるけど公式が罠、というこの2機種は非推奨とします。
なお型番の末尾にHDがつく上位機種は、ベリンガーが公式ドライバを配布しているので問題なく使用できます。

……しかしこのシリーズは随分高くなりましたね。5年くらい前までは半額くらいで買えたはずなんですが。
今の値段だとお得感もないのでそもそも優先度は低めです。

ちょっと特徴のある製品(オススメとは敢えて言わない)

こちらからオススメを提示してしまうとそちらに意見がひかれてしまう人もいるかと思いますので、あえて提示しません。
ただちょっとだけ面白いポイントがある製品を紹介します。

PCが本当に苦手ならRoland

ASIOの項で触れたドライバについて、読んでもなんのことか全くわからなかった人、電源を入れられるだけで褒めて欲しいレベルでPCが苦手な人は、Roland(または旧ブランド名のEdirol)のオーディオインターフェースにしておくといいと思います。
一般的にはドライバの導入時は自分でメーカーサイトに行き、適切なドライバをダウンロードしなければいけません。
しかしRolandのオーディオインターフェースはただUSBケーブルでPCに接続するだけで勝手に適切なドライバをインストールしてくれます。一切手間なし。
全製品が自動インストールに対応しているかどうかは未確認ですが、私が所有したことのあるUA-101、UA-4FX、QUAD-CAPTUREは対応していました。
2005年発売のUA-101が現在のWindows10でもサポートが続いているだけでもすごいことです。ローランドというメーカーへの信頼性は非常に高いです。

おまけが豪華すぎるPresonus

もしまだプラグイン(MIXに使用するエフェクトのこと)を持っていないのであれば、Presonusのオーディオインターフェースはコスパがずば抜けています。
大抵のオーディオインターフェースにはバンドルと呼ばれる付属ソフト群がおまけで付いてきます。その多くは有料DAWの機能制限版で、たまに音源が数個付いてくる程度です。
しかしPresonusは単品販売されているプラグイン(エフェクトも音源もある)が18種類も付属されています。しかもこれはオーディオインターフェースを別のものに変えても使える。超太っ腹。
まだ終わりではありません。上記に加え、最低グレードのAudioBox Goを除いたすべてのオーディオインターフェースに有料DAWのStudioOne Artistの製品版(13,200円相当)がそのまま付属します。
下から2番目のグレードのAudioBoxUSB96なら16,500円で買うと13,200円のおまけが付いてきます。異常です。
もし一通りDAWやプラグインを持っているのであれば優位性は下がりますが、これから始める人にとっては極めてありがたいものとなるでしょう。

中古という選択肢

前回の記事で挙げた、歌ってみたに必要な4点の機材のうち、安く済ませるのが一番難しいのがこのオーディオインターフェースです。
というのもコロナ禍で始まった配信ブームのせいか、ローエンド帯の製品が軒並み品薄となっており、供給が今でも安定していないためです。
M-AUDIOのM-Track Solo/Duoは充分なスペックと機能を持ち値段も安いため、第1候補に挙げたいレベルの製品ですが発売以降ほぼずっと在庫切れとなっており、まともに販売しているところを見たことがありません。
現在では最低ラインが1万円前後となっており、なかなか初心者では抵抗のある値段帯になっています。

積極的にオススメするわけではありませんが、どうしても安く抑えたいのであれば古めの製品を中古で購入するというのもありだと思います。
今回提示しているスペックは現代の水準でいうとかなり低く、15年前の普及価格帯の製品でも余裕でクリアしています。
私は中古品やジャンク品ばかり漁っていますが、今まで買ったオーディオインターフェースで不具合が出たものは殆どありません。最近ジャンクコーナーで2200円で並んでいたUA-4FX(2005年末発売、当時19,000円)も何ら問題なく動きました。

新品で買うといろいろな付属ソフトが付いてくることもあり、基本的には初心者は新品で買ったほうが良いと思います。
ですがもし極限までコストを切り詰めたい、ソフト面は全部フリーソフトでなんとかしてやる!というチャレンジャーは手を出してみてもいいかもしれません。
一点だけ注意があります。古いオーディオインターフェースはメーカーによってはWindows10に対応していない場合があります。(M-AUDIOのFast Trackシリーズなど)
検討する際は対応OSを確認することを忘れずに。わからない場合はすっぱり諦めたほうが身のためです。

まとめ

ずいぶん長くなってしまいましたがいかがでしたでしょうか。
本当の初心者を想定して書いているので、少し詳しく書きすぎたかもしれません。
こちらから「これを買うべき!」と提示したほうが簡単だしわかりやすいとは思うのですが、自分で気に入った機材を選ぶというのもDTMの楽しみの1つかな、と考えているのでこういう形になりました。
次回はケーブルの話です。題材的にあまり長くはならない……といいな。懲りずにお付き合いいただければうれしいです。
拙文ではありますが、もしあなたの機材選びの一助になれたら幸いです。

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