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それでも私がツイッターで発信をする理由

栃木SCに入社して間もなく一週間になる。入社してすぐにホームゲームの準備、本番、それからJリーグの方々と一緒に岡山の視察と、休む間もなく私のゴールデンウィークが終わりを告げようとしている。

この業界に入ってたった一週間だが、いくつか気づいたことがある。そのうちの1つが「本当にこの業界の人はSNSやってないんだな」ということだ。

もちろん友人とのやりとりなどに個人的には使っているとは思うのだけど、仕事で活用している人はまだまだレアだ。だから当然私のことなんて誰も知らない。先日の私の転職に関するnoteはツイッタートレンドに4キーワードが同時にランクインするという自分史上一番のバズり方をしたのだが、会社の人に至っては社外の人に指摘されるまでこの現象に誰も気づいていなかったほどだ。

スポーツビジネス関連、とくにクラブやリーグの関係者が積極的な発信をしないのは、いくつか理由があると思う。1つは、単純に仕事量が多く忙しすぎること。これは想像を絶していた。なにせスタジアムにできた水たまりまで自分たちで除去しないといけないのだ。この業務量を抱えながらSNSで不特定多数とコミュニケーションをとるのは物理的にかなり難しい。

もう1つの理由は、プロスポーツのファン・サポーターはチーム愛や地元愛が強く熱量の高い人が多いため、慎重なコミュニケーションが求められることだ。これは私もやってみて分かったことだが、本当にちょっとしたことで批判されたり、ツッコミを入れられたりする。これは通常のビジネスアカウントではありえないことだ。ツイッターの趣味関連のアカウントは大半の人が匿名であることもこの状況に拍車をかけているのかもしれないが、匿名同士のやりとりならスルーされる軽口も、実名(企業)vs匿名になるといとも簡単に燃えてしまう。

おそらくこういった理由から「面倒で」あるいは「リスクを恐れて」発信をしない、または止めてしまう関係者が多いのではないかと思う。結果、サポーターがツイッターで喧々諤々議論をしていても、有益な改善提案をしても、クラブにもリーグにもまったくその声が届かないという状態になる。

サポーターの熱量はクラブの重要な「資産」

ただ、私はこれは実はけっこうな機会損失なんじゃないかと常々思っていた。というのも、サポーターの中にはあらゆるジャンルの「その道のプロ」がいて、クラブが悩んでいることを簡単に解決できる方法があるかもしれないからだ。

たとえば、私の知り合いの@jigen_1さんは熱狂的なベガルタ仙台のサポーターなのだが、SNSマーケティング界隈では知らない人はいないというくらいのトップマーケターである。ところが、ベガルタ仙台はツイッター公式アカウントを持っていない。明確なポリシーがあってあえて開設していないのかもしれないが、もし開設したい意向があるならそれこそ@jigen_1さんに相談すればいいのにな、と思う。あれほどの人が「タダでもいいからやりたい」と言ってくれるのは、サッカーの力、地元愛のなせる技だろう。

私自身もそうだったけれども、多くのサポーターはただサッカー観戦がしたいというのではなく、大好きなクラブのお役に立ちたいと思っている。だからクラブ側から「こんなことで困っているんだけど」「何か良いアイデアはないかな?」と発信すると、予想以上に皆真剣に考えてくれて面白いアイデアが集まる。それだけでなく「他のクラブ(スポーツ)ではこうだよ」という情報も集まる。クラブの人間が発信することで批判的な声や感情を投げつけてくる人も皆無ではないだろうが、大多数の人は極めて冷静な大人である。

ただ、一方で公式アカウントでそれをやるのは難しいという側面もある。私自身も大企業の公式アカウントの運用に関わっていたことがあるからわかるのだが、企業という体でやると「会社とお客さん」という図式になるので、フラットなコミュニケーションが成り立ちにくい。また、すべての発言が会社の公式見解ととられることも運用の難易度をあげてしまっている。結果、「やる意味あるのかな?」というくらいの無難な運用しかできなくなる。これは貴重なリソースの無駄遣いだ。

だから私は、社長の許可をとってこれを個人でやることにした。クラブへの陳情というほどでもないようなちょっとした意見や要望、アイデアなどはいったん私が個人としてコミュニケーションをとり、そこからクラブの運営にフィードバックしていく。そして、サポーターの熱量をSNSを介してクラブ経営に還元する。ざっくりと私がやりたいことを一言でいうと、そういうことになろうかと思う。

「情報の非対称性」が激しいスポーツ業界

もう1つ私がこの業界に入って思ったのは、業界内部と外部の情報の非対称性が激しいということだ。入って初めてわかることがあまりにも多く(ググっても出てこないような話が多く)、いかにプロスポーツ業界が限られた少数で構成された閉鎖空間であるかを実感できた。

もちろん、勝負事に関連することでもあるし、なんでもかんでも公にすれば良いというものではないが、「別にそれは教えてあげてもいいんじゃないの?」というレベルのことも外部には伝わっていない。クラブからの公式リリースだけでは、サポーターが本当に知りたいことは到底知ることができないのだ。また、メディアが伝えることはピッチ内に関わることがほとんどで、事業そのものや運営に関する情報はとても少ない。

私はサポーターをやっていて常々これが不満で、もっと中のことが知りたいし、中のことがわかればもっと応援しがいがあるのにと思っていた。これはつまるところ「サッカークラブは誰のものか」という話にも通じる。

市民クラブの醍醐味は「共創」にある

Jリーグのクラブには大きく分けて親会社のあるクラブと親会社を持たない市民クラブがある。私が勤務する栃木SCは後者の市民クラブだ。こういった資本構成に関わらず、基本的にサッカークラブは「地域のみんなのもの」と認識がされているが、それがより色濃くでるのが市民クラブだと私は思っている。つまり、市民クラブにおいては「サッカークラブはみんなのもの」と言い切ってしまって良いのではないかと思う。

クラブが「みんなのもの」である以上、私たちフロントスタッフの役割はあくまで事務局的なものであり、事業の主体ではない。にも関わらず、その「みんな」の声が事務局に届かないとか、逆にその「みんな」に我々がやっていることが伝わらないというのは、いびつな構造なのではないかと思う。

「共創マーケティング」という言葉が出てきてかれこれ10年くらい経つけれども、いまだ多くの企業はこれを実現できないでいる。その理由の1つに、本当の意味でSNSを使いこなせる人材がいない、という問題があった。結果、日本のマーケ業界においてSNSはただリーチ数を競うだけの宣伝媒体に成り下がってしまっているという残念が現実がある。

だから私にとってこのチャレンジは、2つの意味がある。1つは、本当の意味での「SNSマーケティング」を成功させるということ。もう1つは、市民クラブという器を介して本当の意味での「みんなのサッカークラブ」を作り上げること。

いままで自分が取り組んできた仕事の中でも難易度が高いというのはこの1週間で本当に良くわかったので、共感してくださる方がいらっしゃったらこっそり応援していただけると嬉しいです。

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次回のホームゲームは、5/20(日)14:00〜 vs 町田ゼルビア戦!

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