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スポーツチームにおすすめのSaaS(2023年度版)

たまには有益(かもしれない)情報も書いておこうかと思う。

私がIT社長を辞めてサッカークラブに転職した2018年当時、スポーツ業界はDXというかデジタル化が著しく遅れている業界の1つとしてよく槍玉に挙げられていた。しかしコロナ禍を経て、スポーツ業界の裏方業務もかなりデジタル化が進んできている。

私自身も、かつてはスポーツナビでこんな連載を持っていた。

2018年、つまりコロナ禍前の話なのだが、この当時はスポーツチームでSlackを導入しているところは(私の調べでは)ほとんどなかったのではないかと思う。

それから私自身もチームを移り、現在は関東一部リーグの南葛SCで働いている。クラブの事業規模としては、当然Jリーグクラブであった前職より小規模になるのだが、南葛は「選手社員」という制度があり、20名以上の選手がフロントスタッフ業務も兼務しているため、頭数で言えば今のほうが多い。

また、南葛SCではいわゆる「南葛SC所属の正社員」以外のスタッフも大勢働いている。スポーツチームあるあるだと思うが、親会社からの出向者、業務委託のフリーランサー、副業従事者、外部協力会社のスタッフなど、とにかく関わる人が多く、一般企業に比べると人の出入りも激しい

そんな会社こそ「SaaS」を活用して、情報を一元化しておくべきだと思う。

というわけで今回は、ビジネススタッフ50名以下くらいのスポーツチームにおすすめのSaaS(インターネット経由でどこからでもアクセス可能なソフトウェア)をご紹介したい。もちろん忖度一切なし、独断に基づく完全な「えとみほセレクション」なので、その辺はご了承いただきたい。

Google Workspace

デジタル化の第一歩、基本の「キ」である。社員50名以下くらいの小規模な会社では、自社でメールサーバーを管理することはないと思うので、多くはGmailの法人プランを使うことになると思う。となると、オフィスツール(スプレッドシートやドキュメント作成アプリ)は自動的にGoogle製品を使うのがもっともコスパが良くなる

もちろん、メールを別のサーバーで管理している場合や、オフィス製品はMicrosoft製品に限るという組織は「Microsoft365」という選択肢もあるが、組織内でのドキュメントの共有やアカウントの一括管理(退職者の権限を一括で削除するような場合)などはGoogleのほうがラクだと思うので、人の出入りの多いスポーツチームにはGoogleをオススメしたい。

Slack

コミュニケーションツールは「Slack」か「ChatWork」の二択になるかと思うが、私は現時点ではSlackを推している。理由は、やはりさまざまな外部アプリと連携をして通知を自動化したり、最近だとChatGPTとの連携なども可能だからだ。拡張性の高さは大きな魅力である。

逆にChatWokは余計な機能が少ないので、デジタルツールが苦手な人にも使いやすいのではないかと思う。日本製で、為替レートで金額が変わらないところも良い。

ちなみに、スポーツチームの現場では個人向けの「LINE」を連絡網的に使っているところがとても多い。その流れでビジネスサイドのやりとりもLINEが使われがちなのだが、これは極力避けた方がいいと思う。公私混同が起こりやすいし、誤操作(いわゆる「誤爆」)による情報漏洩のリスクがあるからだ。パワハラやセクハラ防止、過重労働回避の観点からも、個人で使うツールと会社で使うツールは極力分けるべきであると思う。

Sansan

正直、導入するまでは「Eight(無料版の名刺管理ツール)でええやん?」と思っていたのだが、導入してみたら全然違っていた。Sansanは名刺のデジタル化ツールではなく速報性の高い企業データベースなのである。とくに私が便利だと思うのは以下の3点である。

・転職だけでなく人事異動の情報もわかる
「Eight」とも情報連携しているため、名刺交換済みの人が転職したり役職が変わったりして新しい名刺を登録すると、その情報が即座に反映される。また、上場企業に限ると役職者の人事異動も拾えるため、この情報きっかけでお久しぶりの方にアプローチすることもできる。

・条件を指定して企業検索ができる
たとえば「葛飾区」にある「資本金1億円以上」の会社といった条件検索が可能なため、営業アプローチをかける会社のリストが即座に作成できる。上場企業はIRも反映されるため、直近の業績の良し悪しや、業界内での競合との比較もできる。

・社内のメンバーとのつながりが見える
SansanのCMでも「それ、早く言ってよ〜」というセリフ出てきたが、自分がコンタクトを取ろうと思っていた会社の社長が実はすでに社内の人と繋がっていたというケースや、営業のアポ取りで同僚と同じところにコンタクトしていたというようなケースは少なくない。Sansanでは自分以外の社員のつながりも見られるので、そんな無駄な動きはカットできる。

スポーツチームのように人の入れ替わりが激しい組織の場合は、顧客情報を個人ではなく、組織に紐づけて管理することがとても重要になる。それには今のところ、企業DBも兼ねたSansanがベストなのではないかと思う。

formrun

formrunは、オンラインフォームを作成するだけでなく、そこから来る問い合わせに担当者をつけたり、対応状況を可視化したりするツールである。

スポーツチームの業務は、トップチームの運営だけがとても目立っているが、実際には女子チーム、アカデミー、スクールの運営に加え、ホームタウン活動やその他の事業も行なっている。当然のように、お問い合わせのジャンルが多岐にわたる。

実はこのメール問い合わせの担当者の振り分けが非常に工数がかかるのだ。しかも、本当に返信されているかどうかを確認する術がないため、お問い合わせメールが放置されてしまうこともしばしばある。

そんな悩みを解決してくれるのが、formrun(フォームラン)である。formrunについてはもともと知人がプロダクトオーナーを務めていた関係で知ったのだが、ユーザーとして利用してみると本当に便利で、これがない世界にはもう戻れないと思った。

ちなみに前職時代にformrun公式の導入インタビューにも答えているので、詳しいことが知りたい方はこちらをご覧いただくのが早いかもしれない。地味ながらも、多くの人の抱える課題を解決する素晴らしいプロダクトである。

ペライチ

ノーコードでウェブサイトが制作できるSaaSである。もともとは開発者の橋田さんと知り合いだったことで知ったサービスなのだが、どんどん機能も充実して使いやすくなっていったので、そのまま課金して利用するようになった。現在でも、栃木SCでは各試合のランディングページはペライチで作られていると思う。

ペライチの良いところは、プログラミングの知識がない人でも簡単にサイトが作成でき、情報の差し替えが行えることである。コロナ禍では、いつなんどき急に試合情報が変更になるかわからなかったため、何かあったときは即座に情報更新をしなければならなかった。それを制作会社等に頼まず、現場スタッフで行えることは非常に大きかった。

また、スポーツチームのサイトはスマホで閲覧する人が7-8割にのぼるため、スマホ対応はマスト要件だった。ペライチはそこもクリアしていた。

決済機能が簡単に利用できるのも良かった。クレジットカードだけでなく、コンビニ払いなども利用できたため、お年寄りや学生さんなど、カードを持たない人も多いスポーツチームファンにも優しい。デザインや利用できるフォントに制約はあるので、徹底的にブランディングにこだわるチームには不向きかもしれないが、そこは公式サイトとうまく棲み分ければ良いのではないかと思う。

teket

今シーズンから南葛SCで利用しているチケット販売サービスである。チケッティングはJクラブ時代はリーグのチケッティングパートナーであるぴあさん一択でお世話になっていたが、関東リーグに来てそこを自由に選択できるということで、リサーチにリサーチを重ねた結果、こちらのサービスを導入するに至った。

teketの素晴らしいところは、なんといっても簡単にチケット販売サイトが作成できる、簡単に情報の修正や追加ができるところである。現在南葛SCのチケット販売サイトは、私と新人の酒井くんの2名で運用しているのだが、二人ともとくに説明を受けるわけでもなく、ただ直感的にCMSを触っているだけで簡単に販売サイトが作成できた。

それでいてteketは、私たちが求める機能が過不足なく揃っている。とくにマストで必要としていた、

・1日単位の販売推移がわかる機能
・流入経路の把握
・CRM(来場者へのメッセージ配信)
・無料招待のシリアルキー発行
・クーポンコードの設定
・購入者へのアンケート機能
・指定席の入稿、販売機能

こういった機能が過不足なく用意されており、それでいて操作が複雑ではないので、非常に優れたUIであるといえる。SaaSマニアであり、私自身もプラットフォームを開発していた身であるため、このように何度もユーザー検証をして改善を重ねたであろうプロダクトに遭遇すると鼻血が出るほど興奮してしまう。久しぶりに管理画面を触っていて「これは…!」と思った。

多くのスポーツチームは、チケッティングに関しては、さまざまな理由で利用できるプラットフォームに制限がある場合が多いと思うのだが、もしこれから電子チケットの導入を考えているスポーツチームがあるならばteketはおすすめできるサービスだ。

Google Photos

最近は広報業務に携わっていないのであまり使っていないのだが、前職の時はこれなしでは仕事にならないというほど使い倒していた。何に使っていたのかというと、試合中に撮影された大量の写真からAIの顔認識機能を使って、特定の選手の写真をピックアップするのに使っていたのである。これを使わずに選手の写真を探していた頃は、膨大な時間がかかっていた。

また、試合終了直後に選手のSNS投稿用に写真をシェアするのにも活用していた。ドライブに全写真をアップしてリンクでグループLINEに投稿すれば、選手たちに簡単に写真を共有できるため、試合直後のSNS投稿も可能になる。これは非常に喜ばれていた。

ちなみにGooglePhotosではアップロードすると写真が勝手に圧縮されてしまうのだが、相当拡大して見てもそこまで違いはわからない。それでも気になるという人は、圧縮せずにアップロードする設定もあるので、そちらを利用すると良いだろう(すぐストレージがいっぱいになるので、容量の追加購入は必要になるが)。

AirPayとAirレジ

南葛SCでは選手社員たちが物販を行なっている。このため、なるべく後日の集計作業などが発生しないようにしたいと考え、Airレジを導入した。それにともない、決済方法はたくさんあったほうがいいよねということで、AirPayも導入した。

Airレジの良いところは、クラウド会計ソフトのfreeeと連携できるので、同じくfreeeと連携しているBASEで作ったECサイトの売り上げを自動で集計できるというところにある。「今月グッズは何がいくら分売れたか」といったことが、リアルタイムに確認できるのはマネージメント側としてはありがたい。Airレジ導入以前は、選手社員たちが金庫のお金を数えて入力していたので、そういった作業負担が軽減されたのも良かったと思う。

ビジネスナンバーセット

手持ちの携帯電話にアプリを入れることで、メンバー1人1人に固有の携帯番号(050番号)を付与し、通話料を法人一括請求にできるNTTドコモのサービスである。1人あたり330円と安価で個別の番号が持て、メンバーにとっても携帯を2台持ち歩かなくて良いという利点がある。

これは南葛SC特有の話になるかもしれないが、たとえお客様とはいえ、選手個人の携帯番号が知られることは好ましいことではない。公私の区別をつけ、プライバシーを守るという意味でも、こういったサービスはどんどん活用していきたい。

CLOUDSIGN

CLOUDSIGNは、No.1人気を誇る電子契約プラットフォームである。スポーツチームは、言うまでもなく「契約」を多く取り扱う。選手周りもさることながら、パートナー契約だけでも年間何百件にも及ぶ。ここが電子化されると、「革命」と言えるレベルで管理部門と営業の負担は軽減される

ちなみにCLOUDSIGN以外にもいろんなプラットフォームがあると思うが、なぜCLOUDSIGN推しなのかというと、それ以外の電子契約プラットフォームを使ったことがないからである。もしかしたらもっといいサービスがあるのかもしれないが、今のところこのジャンルではCLOUDSIGNがNo.1らしい。これ系のプラットフォームはサービスが閉鎖されると困ることが多いので、「迷ったら(最も閉鎖の可能性が低い)一番人気を選ぶ」で良いのではないかと思う。

おまけ:導入を見送ったSaaS

ところで、プロダクト自体は非常に良いと感じているものの、導入は見送ったSaaSも結構ある。おまけでそれらの紹介もしたい。

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