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お気に召すまめ

70代ラストイヤーの父。
毎日の畑しごとに精を出す。
祖母が残した菜園と自分の家庭菜園、2ヶ所の畑を耕して、野菜を育てて収穫する。
母はノータッチ。

5月は絹さや、スナップエンドウ、
実エンドウ(グリンピース)の収穫シーズンだ。

帰省していた私たち夫婦も絹さやとスナップエンドウをバケツいっぱいに取った。

「全部取った〜ハイ終わりー」
でもちょっと離れて見てみると、あっちにもこっちにもまだまだエンドウが実っているのである。
素人丸出しの我ら。
父は瞬く間に、私らが取ったのと同じ場所からバケツいっぱいのエンドウを収穫していた。

自然っちゅうのは気前がいいね。

5月上旬の風が強い日に父が言った。
「ちょっとエンドウが心配や。」
私は驚いた。
「エンドウどうしたん? 
 休場? 今場所十両...」

自分の相撲脳にドン引きだ。
力士の遠藤かと思った。
父の心配は畑のエンドウだった。
強風の中、支柱の補強に行った。


とれたてスナップエンドウは、サッと茹でてそのまま食べる。
絹さやは、料理の彩りに...って量じゃない。
野菜料理の一品としてもりもり食べる。
ポクポクとサヤから豆を出して、実エンドウは豆ご飯や卵とじにする。

母は軽度認知障害だけど、料理はできる。
自分の好きなものは頻繁に作るので、このごろは豆ご飯ばかり炊いているらしい。
炊飯器の中の白ごはんを別の容器に移してまで豆ご飯が仕掛けてあったらしく、父の愚痴メールが届いた。

油断も隙もないで。
ご飯余ってるから炊かなくていいって言ったのに。

父の隙をついて母は料理する。

豆ご飯だけではなく、さっと茹でて歯ざわりよくマヨネーズで食べたいスナップエンドウを高野豆腐の煮ものに入れてしまって、父はお気に召さない。
高野豆腐と実エンドウの卵とじが何日も続くのもお気に召さない。

でも母の好物だからという理由で、毎年実エンドウを育ててせっせと収穫しているのは父なのだ。
母はノータッチ。
過剰な豆に父のジレンマ。

母のお気に召すまま豆ご飯。
今日も炊いたかもしれない。

父の愚痴なら来年も聞きたい。

ちなみに遠藤は現在六連勝だ。

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