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アフロ民藝/シアスター・ゲイツ展@森美術館

  同じ六本木ヒルズで開催中のMUCA展を見るなら、こっちも・・・ということで寄ってみた「シアスター・ゲイツ展」。フライヤー見た時は、ちょっと守備範囲外だな、と思ったのですが、「ゲイツ」を漢字で「門」と描いたりしているのを知り、お茶目そうだし何か発見あるかも、とのぞいてみることに。

フライヤーを見て「見たい!」と思うかが一番の決め手。今回はちょっと違う?と思いつつ、MUCA展のお隣さんだったのといつもと違うものに挑戦する気分が出てきたので行ってみた。

シアスター・ゲイツ(1973年シカゴ生まれ)は、米国シカゴのサウス・サイド地区を拠点とし、彫刻と陶芸作品を中心に、建築、音楽、パフォーマンス、ファッション、デザインなど、メディアやジャンルを横断する活動で国際的に高く評価されています。彫刻と都市計画の教育を受けたゲイツは2004年、愛知県常滑市で陶芸を学ぶために初来日し、以来20年以上にわたり、陶芸をはじめとする日本文化の影響を受けてきました。日本やアジア太平洋地域での印象深い出会いや発見、そして米国ミシシッピとシカゴにルーツを持つアフリカ系アメリカ人として生きてきた経験が、彼の創作の礎となっています。アーティストとして文化的ハイブリディティ(混合性)を探求してきたゲイツは、アメリカの公民権運動(1954-1968年)の一翼を担ったスローガン「ブラック・イズ・ビューティフル」と日本の「民藝運動」の哲学とを融合した、独自の美学を表す「アフロ民藝」という言葉を生み出しました。ゲイツの日本初、そしてアジア最大規模の個展となる本展は「神聖な空間」「ブラック・ライブラリー&ブラック・スペース」「ブラックネス」「年表」「アフロ民藝」の各セクションで構成され、これまでの代表作のみならず、本展のための新作を含む日本文化と関係の深い作品などを紹介します。

展覧会サイトより引用

  うーむ。私にはストライクゾーンちょっと外したかな。日本の「民藝」関連も、柳宗悦とか河井寛次郎、芹沢銈介や柚木沙弥郎をここ1-2年展覧会で見る機会が多かったのですが、「見ていて気持ちいい」という感じなので、衝撃度がちと足りない。そもそも民藝運動自体が、「名も無き職人の手から生み出された日常の生活道具を『民藝(民衆的工芸)』と名付け、美術品に負けない美しさがあると唱え、美は生活の中にある」という趣旨なんで、それが正しい姿なんだろうけれど・・・非日常的な感動を求めて展覧会に来ているところがあるからなあ。やむなし。

  ただ、生活の美だけではなく「『ブラック・イズ・ビューティフル』運動からゲイツが思い描く未来まで、黒人史がもたらした現代文化への影響を紹介」ということで、もうちょっと社会運動的。アートは実践的に社会を変える力がある、的なことが好きな人にはびしっと嵌る展覧会です。

  ちょっとストライク外したとはいえ、来たからには面白いところを探してトコトン味わいたい。今回のは五感をフルに使う大規模インスタレーションで、好みど真ん中ではなくとも色々面白かったです。
  まず、最初から独特の香りが。どこから・・・?と思ったら、巨大なお香の展示。京都の香老舗である松栄堂とのコラボレーション新作。

「黒人仏教との香りの実践」:黒い炭かと思ったらお香。これだけのボリュームがあると広い空間でもお香の匂いが全体に。10メートルくらいありそう。香りも特注らしい。
「神聖な空間」:ゲイツが尊敬する作り手や影響を受けてきたアーティスト達の作品を展示しており、空間全体が作家自身にとっての「美の神殿」をイメージしたインスタレーションに。なお、ここに敷かれている煉瓦も作品の一部で「散歩道」とタイトルが。本展のために常滑で制作された。
上の画像の奥に見える「ヘブンリー・コード」:ハモンドオルガンB-3と7個のレスリースピーカーで構成されたインスタレーション。このタイプのオルガンは、特に米国の黒人教会やゴスペル音楽で広く使われたもの。

  上の部屋を抜けると次にあるのが、ライブラリー。ゲイツはシカゴでの活動の一部として、黒人の歴史と文化を記録する重要なコレクションの管理、保存、展示を実施しており、今回はその一部を再現。本棚は触れませんが、奥の部屋で、実際に雑誌が読める。

黒人の歴史と文化を記録する重要なコレクションの管理、保存、展示も含まれます。たとえば、黒人の生活や暮らしについての雑誌『エボニー』『ジェット』を発行し、20世紀後半に全米の黒人社会で多大な影響力を持ったシカゴ拠点の出版社ジョンソン・パブリッシング・カンパニー(JPC)のアーカイブや、「ハウスのゴッドファーザー」として知られるDJ、故フランキー・ナックルズ(1955-2014年)が所有していたレコード・コレクションなど、文化的・歴史的に貴重な品々を地域住民に公開し、活動への参加を呼びかけています。

展覧会サイトより引用
「ブラック・ライブラリー&ブラック・スペース」
「ブラック・ライブラリー&ブラック・スペース」:この黒と赤の背表紙が、全部「エボニー」「ジェット」を保存したもの。図書館で雑誌を1年分とかで固い表紙で綴じてあるみたいな感じ。
「黒い縫い目の黄色いタペストリー」:放棄された消防ホースでできている。1960年代のアメリカ公民権運動の際、警察が平和的デモ隊を高水圧ホースで弾圧したという歴史的事実を引用している。そう思って見ると深い・・・

  その先の部屋にあるのが、次の作品。取り壊された小学校の体育館の床を用いた絵画で、並べられた板の縦縞と、床の上に惹かれていた様々な色の線が、部分的に切り取られて模様に。子供達や若者たちにとって、遊びやスポーツを通じて、客観的思想や社会性を学ぶことができる場が徐々に失われている現状を批判しているそう。

「基本的なルール」:うーん、そう思って見るとまたまた深い・・・
「ドリス様式神殿のためのブラック・ベッセル(黒い器)」:アメリカの黒人陶芸、アフリカ、日本、朝鮮、中国の陶芸などいくつもの要素が重ねられている。確かに国籍不祥。
「7つの歌」:タール・ペインティングのシリーズ。ゲイツの父親は屋根にタールを塗る職人で、父親から教わった屋根補修の技術を制作に用いている。

  部屋から部屋へ違うテーマが展開されますが、この次は「常滑」全開。

「小出芳弘コレクション」:常滑焼を研究しながら作陶を続けていた小出氏から受け継いだもの。この約2万点の作品はひとりの陶芸家の生涯を表している。超圧倒。
ゲイツは小出の「生涯」を引き受けることを決意し、作品を梱包し、目録を作成し、美術館で展示している。生涯の可視化、というインスタレーション?
多分「丸利のためのタール・ペインティング」。TVの解説によると即興で制作したものらしい。
多分「アフロ民藝バナー」と「プラダ仕覆」。インスタレーションはどれが解説かわかりにくい・・・手前のお面はなんだったんだろう・・・奥の冷蔵庫には酒が入っている。
「みんなで酒を飲もう」:ここに展示されている陶器は貧乏徳利と呼ばれ、明治から昭和初期まで酒屋で少量買いをする客への貸し容器として利用されていたもの。オリジナルを作ってもらっており、「門インダストリー」(門は英語でGate)のロゴが印字されている。そういえば知り合いのサイモンに漢字で名前を書いてと言われて「犀門」って書いたことあります。
「ハウス・バーグ」:銀色に輝く氷山型のものがミラーボールのようにぐるぐる回転している。

  そしてここで展示が終わる・・・ということで、色々背景まで含めて見ると面白い。でも一番興味深かったのは、実は作品ではなく「ブラック・ルーム」で説明されていたゲイツの空間実践の建築プロジェクト。シカゴに行って実際に見てみたい魅力的なプロジェクトばかり。すごい実行力。

恣意的に隔離され、土地の所有や投資などの平等な権利を与えられなかった黒人が多数を占めるシカゴのサウス・サイド。ゲイツは、この地区の廃墟となった40軒以上の建物を、誰もがアートや文化活動に参加できる空間に作り変えてきました。

展覧会サイトより引用
シカゴでの「リビルド・ファウンデーション」の活動説明ボード
シカゴでの「リビルド・ファウンデーション」の活動説明ボード

  この上の写真にあるNo.2 「ストーニー・アイランド・バンク」なんか、シカゴ市から閉鎖された銀行の建物を1ドルで購入し、建物の大理石を改修してブロック100個に作り替え、それらを「銀行債権」と名付け各ブロックに「In Art We Trust」と刻印して1つ5,000ドルで販売し、ここをアート・センターへと変身させたそう。

  他にも小学校や教会を購入して改修したりと、アートの力で街を再生していることに感動。ゲイツの活動は、もうちょっと広い枠組みで見ないと本当の面白さはわかりにくいのかも。空間インスタレーションとありましたが、空間レベルが街レベルだった。

  ということで、六本木ヒルズの同じビルの中にある森アーツセンター・ギャラリーの「MUCA展」と森美術館の「アフロ民藝」の2本立て。どちらも最新アートなんだが真逆なものを見た感じ。恐るべし森ビル。しかも5/24からは同じビルの東京シティビューで「50周年記念 花とゆめ展」がスタート。この3つを同時展開するのか。更に恐るべし。でも「花とゆめ」全盛時代を知る身としてはちょっと気になる・・・


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