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【読書感想文】『トッケイは七度鳴く』宮内見著 

「トッケイ」ってなんだろう?

そんな疑問が湧き上がり、この本に興味が湧きました。

放送作家の誠太郎は、亡き祖父の遺品から一冊のノートを見つけます。

どうやら家族にも秘密に書き記していた手記のようでした。

悪いと思いながら頁を繰ると、そこには誠太郎が思っていもいなかった祖父の告白が記されていました。

ときは第二次大戦中のビルマ。

弾に当たらない伝説の兵士と呼ばれ「神戸のべっさん」という呼称で仲間に愛されていた勘助。

しかしそこに記されていたのは、戦争の記録というよりは、ビルマの慰安婦・夏子に恋する一人の男性の心の声でした。

一方、現代を生きる誠太郎は、娘が留学先のアメリカで差別的扱いを受けた原因が日韓慰安婦問題だったことを知ります。

祖父の手記に記された慰安婦問題の真実を知りたいという欲求。

それを仕事に繋げたいという少しばかりの計算も働いています。

同時に差別的な扱いから娘を守りたいという親心も絡み、悩む誠太郎。

物語は祖父の手記と誠太郎の物語が、時代や国を超えて交錯しながら進みます。

べっさんと慰安婦・夏子との恋愛は、戦争とういう極限状態の中でとても純粋なものに映ります。

しかしそこにはもちろん戦争という残酷な現実も描かれています。

政治という大きな時代の流れにの裏側にある、一人ひとりの人間の人生のありよう。

いつの時代も個が国という大きなものの中で埋もれ、情報や印象が操作され翻弄されていく。

そんな事さえ改めて考えさせられる物語でした。

そして、やはり戦争は恐ろしいと思いました。

いま、ロシアのウクライナ侵攻、パレスチナ・イスラエル戦争が続いています。

人が人を無差別に殺傷する。

物語の中にもありますが、やがて人は人を殺すことを正義のように感じていく恐ろしさ。

支援する国々にも支援疲れが見え始め、そうなると国力の強さがものをいうのでしょうか。

どうして争いが起こるのか、私にはわからない。

でも戦争で悲しい思いをするのは、いつも普通に生活をしている普通の人たちです。

戦争を仕掛ける人たちではない。

それがとても理不尽だと思うのです。

さて、タイトルのトッケイ。

私は鳥だと思っていましたが、ヤモリの仲間だそうです。

トッケイが7度鳴くのを聞いた人は幸せになるという言い伝えがあるそうです。

勘助と夏子はトッケイの鳴き声を聞くことができたことを願います。

※ビルマは1989年にミャンマーに表記が変わりました。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

戦争の物語は普段は読みませんが、なぜか手に取って読み始めていました。

読み物としてはもちろんとても読み応えのある本でしたが、とても考えさせられる内容でもありました。

争いのない世の中。それは夢なのでしょうか。

今日という日があなたにとって良い一日となりますように。

そして世界中の人が心穏やかに過ごせる日が来ますように。


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