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GⅠヴィクトリアマイル




序文:夢幻のごとく

幸若舞(こうわかまい)の演目の一つ『敦盛』の中に、有名な一節がある。

人間五十年、下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり

人間(=「じんかん」と読む)の生涯は約50年。
下天とは幾つもの層に分かれた天界における一番下の階層、つまり人間界に最も近いとされる天上で、ここでの1年は人間の世界における50年に相当するといわれている。
この『敦盛』はかの戦国武将、織田信長がこよなく愛したことでも知られる。
もの凄く長いと思われる人間の生涯も、見方を変えればほんの一瞬である。長いとも短いともいえるまるで幻のような生涯において、人はいったい何を成し遂げられるのだろう、そして後世に何を残すことができるだろうか?
風雲児と呼ばれた信長が、この一説を好んだ理由がなんとなくわかる気がする。

競走馬の世界にも同じような感覚が当てはまるかもしれない。
かつて日本競馬の歴史を変えたと言われている種牡馬、サンデーサイレンスの産駒で、その競走生活を、短くも太く走り抜けた一頭の馬がいた。

フジキセキ。
生涯成績4戦4勝、他馬を圧倒するその走り。
一度も敗れることなくターフを去った。

1992年4月、フジキセキは北海道千歳市の社台ファーム千歳にて誕生した。父はサンデーサイレンス。米3冠の内2冠、ケンタッキーダービー・プリークネスステークス他、米最高峰ブリーダーズカップCを制し、GⅠ6勝を挙げ‘89年度代表馬に輝いた名馬である。

少し話は逸れるが、引退後種牡馬入りしたサンデーサイレンスの評価は思いの他低かった。理由はいくつかあったが、種牡馬入り直後全米内で種付けの希望者はわずか数件しかなかったといわれている。
そこに目を付けたのが、かの社台グループ創業者の吉田照哉だった。総額1100万ドル(当時のレートで約16億5000万円)でサンデーサイレンスを購入。日本に輸入したのだ。これは当時の日本競馬界において驚きをもって報じられた。米国の年度代表馬が種牡馬として日本へやってきた。評論家の吉沢譲治は「野球に例えるなら、メジャーリーグで現役バリバリの奪三振王、ホームラン王が、何かの間違いで日本の高校野球に入ったようなものだった」と評している。
一方でこの取引は当時「日本人のブリーダーがとても成功しそうにない母系から生まれたヘイロー産駒を買っていった」とアメリカの生産者の笑いものになっていた。
果たしてサンデーサイレンスは日本に輸入された後、12年連続でJRAリーディングサイアーを獲得。種牡馬としての記録を次々に塗り替え「日本競馬に革命を起こした種牡馬」と言われるようになった。その最高傑作こそ2002年に産まれた「英雄」ディープインパクトであり、そのサイアーラインは後々、日本の競走馬の血統のそのほとんどを支配したと言っても決して過言ではないだろう。

フジキセキはそんな大きな話題をさらった、サンデーサイレンスの初年度産駒としてこの世に生を受けた。92年に生産された初代産駒は60頭ほどいるが、後の重賞馬ではマーベラスサンデー、ジュニュイン、ダンスパートナーと1年目だけで錚々たる馬名が並んでいる。その中でも一番に期待を背負っていたのがフジキセキだった。
94年8月、新潟の新馬戦でデビュー。鞍上は蛯名正義、後年に通算2500勝を挙げた名手である。蛯名は引退後のインタビューでフジキセキの新馬戦についてこんな風に語っている。

関西の渡辺栄厩舎でしたが、この夏は新潟に滞在していたので依頼されました。渡辺先生からは「勝つとか負けるとかじゃなくて、1200mのレースだけどマイルの感じの競馬をしてきてくれ。最後流してきていいから」と。負けるなんて思っていない、ゆっくり行って最後スーッと伸ばせばそれで
勝つから、という感じでした。
2021年12月NEWSポストセブン掲載

レースは調教師渡辺栄氏の言の通りとなった。スタートで大きく出遅れ最後方からのレースとなったが、最後の直線で先行勢を捉えると、そのまま独走態勢となり、2着に8馬身差を付けて勝利を挙げた。衝撃的な強さだった。
夏の消耗を避けるため陣営は2戦目で秋の阪神もみじSを選択。2戦目以降、鞍上は角田晃一が務めた。このレースでは単勝オッズ1.2倍の圧倒的1人気に支持されていた。
このレースでもフジキセキは別次元の競馬を見せつける。
綺麗なスタートを決めると中団に控える。3コーナーから4コーナーへ徐々にポジションを上げると、直線では軽々と先頭に立った。角田は手綱を持ったままフジキセキは馬なりで加速していく。後続から追い上げてくる一頭がいてもその差は埋まらない。結局角田の両腕から手綱が離れることなく、2着に1と1/4馬身差をつけて余裕の勝利。1分35秒5という当時のコースレコードを叩き出した。
この時2着に敗れた馬もまたサンデーサイレンスの仔だった。馬の名はタヤスツヨシ、翌年のダービー馬である。
フジキセキは持ったまま、馬なりの状態で、後のダービー馬をいともたやすく破って見せたのである。

この頃になると自然と競馬ファンの論調は「時期クラシックはフジキセキ」となっていた。その素質を疑う者など皆無に等しかった。
次走3歳(現2歳)王者戦・朝日杯3歳ステークスでは、単勝オッズ1.5倍の1番人気に支持。レースでは引っ掛かる素振りを見せながらも先行ポジションを取りに行く。このレースでも最後の直線では楽に先頭に立っていった。ゴール前で2番人気・武豊騎乗のスキーキャプテンが猛然と追込み馬体を接してきたが、並ばれるとまた伸びる勝負根性を見せてスキーキャプテンをクビ差に退けた。
今まで以上に僅差の勝負だったが、この日の角田もフジキセキに鞭を入れることはなかった。

朝日杯後は休養に入ったが、実際はほとんど休むことなくトレーニングが行われていた。当時、800メートルの坂路を駆け抜けるタイムは53秒台が平均的だったが、フジキセキはそれを上回る51秒台で駆け抜けていた。関係者からは「真剣に走ればもっとタイムを詰められた」とも言われており、まだまだポテンシャルの底を見せてはいなかった。またフジキセキは食欲が非常に旺盛で、トレーニングの日々にあっても日増しにどんどん体重が増えていった。

翌95年、満を持してクラシックに向け始動。選んだ先は皐月賞トライアルの弥生賞。皐月賞と同条件で行われるレースに出走し。盤石の態勢で本番に挑みたかった。前走から16kg増と多きく成長した姿を披露したフジキセキは、直前の調教では坂路コースで一番時計を出す絶好のコンディション。当日の単勝オッズは1.3倍を示していた。
レースはスタートしてからほどなく、客席からどよめきが起きた。9番枠から出たフジキセキが先頭に立ったのである。誰もフジキセキが逃げるとは想像していなかった。少しかかり気味で前に行きたがるフジキセキを鞍上角田はどうにかなだめ、道中2番手に落ち着かせた。前半1000m通過62秒5というスローペースの中で2番手を進み、第3コーナーから再び先頭に立つ。ここで一頭、後方からものすごい勢いで追い込んでくる馬がいた。単勝2番人気のホッカイルソーだった。鞍上の蛯名正義はデビュー戦でフジキセキに跨っており、その強さをよく理解していたつもりだった。フジキセキはとうとうホッカイルソーに交わされかける、このままでは危うい。しかし残り100mの地点からフジキセキはさらなる加速を見せる。あまりの強さに、あまりの異質さに、レースを見ていた誰もが皆、絶句した。フジキセキはそこからホッカイルソーに2馬身半差を付けて完勝。並ばれてから僅か100mでその着差を付けた瞬発力は、翌日のスポーツ紙に「二段ロケット」と形容された。
こうしてデビューから4戦全勝を飾ったフジキセキは、名実ともにナンバーワンのクラシック候補として皐月賞、そして日本ダービーへと挑むはずだった…。
しかし弥生賞の約3週間後、左前脚に屈腱炎を発症していることが判明。「走る馬の宿命」といわれているが、発症の原因は一概に断定できなかった。冬場にみせた急速な馬体の成長が、あるいは影響していたのかもしれない。
陣営はクラシックを断念、競走生活から引退させ種牡馬入りすることを決定した。
その年のダービーは一度フジキセキに完敗したタヤスツヨシが戴冠。もしフジキセキがいればまた違った結果になっていたかもしれない。多くの競馬ファンが、関係者がそう思わざるを得なかった。
主戦を務めていた角田晃一は後にこう語る。

「結局あの馬の能力をぼくも本当には分かっていないんです。フジキセキの競馬では、ぼくは一度もステッキを使っていませんから」
優駿WEB2022年6月号掲載

ターフでフジキセキが見せた圧倒的なパフォーマンスは、産駒にもしっかりと受け継がれた。ダート王カネヒキリ、スプリントGIの覇者ファイングレイン。今回のヴィクトリアマイルにおいては、過去勝利したエイジアンウインズ、コイウタ、連覇のストレイトガール、皆フジキセキの産駒である。
また2014年には産駒のイスラボニータが皐月賞を勝利、父が成し遂げることのできなかったクラシック制覇の夢を果たした。鞍上はデビュー戦を務めた蛯名正義だった。
そしてその勝利を見届けるかのように翌年フジキセキは天国へと旅立っていった。もう産駒が生まれてくることはないが、その血を脈々と受け継いだ子孫たちの活躍は、これからも続いていくだろう。

サラブレットの生涯はおよそ25年といわれている。われわれ人間よりもはるかに短い時を懸命に走り、生き抜いている。そのまるで幻のような、短いとも長いともいえる時間の中で、一体何を成し遂げ、何を残すことができるのだろう?
短くとも誰よりも強くターフを駆け抜けた、一頭の馬の「キセキ」に、そんな思いが去来してくるのだ。

受け継がれる血脈は「奇跡」そのものであり、
そこから生まれた「輝石」は、
新たな「軌跡」を描いていくことだろう。

「GⅠヴィクトリアマイル、まもなく出走です。」

某ウマ娘ではアダルトでイケメンな
キャラクターとして登場。好き。
2015年死去。R.I.P

はじめに

どうもお疲れ様です。今回もどうにか序文のコラム含め、掲載にこぎつけることが出来ました。いつも応援してくださる皆さまのおかげだと思っています。本当です。
今回のコラムはアイデアが全然湧いてこなくて、何にしようか迷っていたのですが、VM歴代勝ち馬をみるとフジキセキ産駒が多くいたので、そこから引っ張ってみました。少々強引でしたでしょうか笑
さてここからは今週末のVM(ヴィクトリアマイル)攻略記事となります。今回は上位2頭が人気を集め、堅そうな決着の雰囲気ですが果たしてどうなるか?予想の足しにでもしていただけたなら幸いです。

攻略へのカギはいたってシンプル
「マイル実績とリピーター」

それでは今年もヴィクトリアマイルのお時間がやってまいりました。
数えて19回目を迎える古馬牝馬重賞ということで、JRA GⅠレースの中では比較的歴史の浅いレースとなります。先週NHKマイルカップでは「早熟性」といういかにもそれらしいテーマを据えましたが、今回は古馬重賞なので、特異なテーマ性は考えずシンプル予想でいきたいと思います。

まず最初に過去全18回の結果を振り返ってみました。その上で走破タイム順に並べてみると最も早かったのは2019年。続いて20年21年と、ベスト10の中に直近6年のタイムがランクインしており、このことから近年高速決着になりつつあることが示唆されます。もっとも速かった19年ノームコアの勝ち時計1分30秒5はコースレコードになっています。そんな中、単勝1倍~2倍台で指示された1人気の馬は連帯率が高く、堅実な結果を残しており、また2~3番人気の上位陣も当然のごとく馬券には絡んできています。一方で4人気以下から激走した優勝馬には、ソダシ、ストレイトガール、ヴィルシーナなどリピーターが多い点にも注目したいです。

このことを踏まえると、

・高速決着に対応できる末脚を持った快速馬
・マイル重賞実績(GⅠ連対経験)の多い、人気馬
・過去VMに出走し好走したリピーター馬

の3点に絞っていけば自然と本命対抗が固まってくると思います。
さらに先週のNHKマイルもそうでしたが、東京マイルへの適性は瞬発力だけでなく、長い直線と坂路に耐えうる持久力も求められます。牝馬でありながら馬格を有し、しっかりと最後まで足を使える馬。なおかつ各馬の直近における上がりタイムをチェックして、キレ負けしない馬を選べばOKでしょう。
まあこれは特段変わった予想法ではないと思いますが、やはり基本に立ち返ることも大事ですし、意外と疎かになりがちなので、改めてここに書き記しました。


「シン・マイル女王」誕生への必須5箇条

ここからは、過去10年のデータをもとに勝利馬を選出するために必要な5つの条件を掲載します。
狙っている有力馬がいたら、ぜひ照らし合わせてみてください。

マイル重賞での実績(複勝圏内)がある

過去10年全頭に該当。出走し結果を残してきた馬は、皆それまでに実績を積み上げてきた馬が多数です。それぞれのマイルGⅠ実績に注目しましょう。またVMがGⅠ初制覇になった馬が半数いますが、皆それ以前にマイル重賞での3着内実績がありました。人気薄から狙うならこのパターンです。

過去VMに出走したことがある

過去10頭の勝ち馬の内5頭が2回以上VMに参戦したリピーター馬でした。ソングラインは前年5着からの優勝と、前年の着順はさほど気にせず経験のみを重視しましょう。13・14年、15・16年はヴィルシーナとストレイトガールがそれぞれ連覇を達成しています。

上がり最速を使っての勝利経験

スピード勝負になりがちな東京マイルおよびVMですが、過去10年7戦において、上がりタイム3位以内の馬が勝利していました。グランアレグリア、アドマイヤリードら末脚自慢の快速牝馬が多かったですね。逆に非該当の3勝はソダシと連覇したヴィルシーナで、先団好位から長い脚を使って勝利をもぎ取りました。14年のヴィルシーナは11人気からハナを主張したまま逃げ切り勝ち。穴開けのパターンとして覚えておきましょう。

スプリント重賞での実績がある

過去優勝馬の中では少数ですが、21年グランアレグリア、13・14年ストレイトガールがこのタイプに該当します。直線での切れ味勝負になった際、スプリント戦で養われた加速力・追走力が活きてくるパターンがままあります。とはいえ今回の出走馬の中には見当たらないかも。強いて一頭挙げるなら大穴のテンハッピーローズ。時計は足りていない印象ですが、あがり3Fに限っていえば優秀なタイムを何度も計測していますので、穴党の方は紐候補に抑えておいても面白いかもしれません。

鞍上にGⅠ勝利経験がある

これは過去10年全頭に該当します。東京マイル戦は鞍上の手腕に大きく左右されます。10年で戸崎圭太騎手とルメール騎手が3勝、全18回の内では内田博幸騎手が2勝、横山典弘騎手が2勝と練達の手腕が目立ちます。第1回目と2回目の北村宏司騎手、松岡正海騎手のみこのレースがGⅠ初制覇となりました。このことから関東所属の騎手が活躍している点にも注目したいです。

同コースで行われた先週のNHKマイルカップですが、人気薄のロジリオンを3着にねじ込んだのは…?


ここからは恒例過去10年のデータによる傾向と対策です。

ヴィクトリアマイル過去10年好走データ集

有力候補は4・5歳馬

4歳馬【3-6-3-61】 5歳馬【5-3-6-56】
6歳馬【1-1-1-24】 7歳馬【1-0-0-4】
連覇のストレイトガールが6、7歳で勝利という異例を作ったものの、過去7年に絞れば連対馬は全て4、5歳馬です。近年のスピード勝負というトレンドと併せ、末脚自慢のフレッシュな馬を軸にするのが妥当でしょうか。

近年は上位馬決着!!…今年も?

1人気の成績は【2-2-1-5】で連対率40%とまあまあですが、単勝2倍台以上で1人気だった馬は過去10年で勝っていません。今年のナミュールはデータ上は危険といえるでしょう。一方14年~18年までは必ず人気薄の穴馬が連対していましたが、19年以降の連対馬10頭の内9頭が5人気以内でした。海外帰りのナミュールを不安視するなら想定2人気のマスクトディーヴァを軸にするか、連対の多い3~5人気の馬を軸に据え馬券を組み立てるアプローチもありだと思います。

穴なら関西馬を差し追い込み脚質で選出

前項でマイル実績を重視と述べましたが、17年以降で6人気以下から連対した4頭は、前走重賞で1~5着でした。前走重賞で好走しつつも今回人気薄の馬は穴目で狙いたいですね。枠順は内枠、できれば1桁馬番。脚質は差し・追い込みの傾向が濃いです。

差し追い込み勢が台頭目安は上り「33秒」

逃げ馬は過去10年1勝のみ14年ヴィルシーナ連覇の時のみです。基本差し・追込みが13連対で優勢です。高速馬場での決着になる事が多いのは先述の通りで、勝つためには33秒前後の上がり時計が必要になってきます。

前走阪神牝馬S組に注目

16年に阪神牝馬Sが1600mに変更。それ以降VMでは連対した16頭のうち6頭が阪神牝馬S組。阪神牝馬での着順は1~9着と幅広いです。前走阪神牝馬Sで好走した馬に改めて注目してみましょう。また阪神牝馬S含む前走が重賞で1着だった馬は、VMでは過去15年勝てていないので注意が必要です。グランアレグリア、アーモンドアイも前走は惨敗と、不思議なジンクスがあるレースと言えます。

ここまでが過去データから浮上する傾向と対策になります。こうしてみるとナミュール・マスクトディーヴァにはそれぞれデータ上の不安が残りますね。堅そうな決着になると思っていましたが、統計上の傾向を信じるなら3人気以下を軸に据える、思い切ったアプローチも悪くないかも…。そんな気もしてきました。


森タイツ式推奨馬の紹介

彼女が仮面を外すとき

昨年秋華賞2着、3冠牝馬リバティアイランドへ0.1秒差の1馬身差まで詰め寄ったマスクトディーヴァの待望のGⅠ制覇が近づいてきました。
秋華賞の前哨戦ローズSではコースレコードを樹立して勝利、またあの時2着だったブレイディヴェーグは次走のエリザベス女王杯勝利と非常にハイレベルな一戦でした。年内始動戦となった東京新聞杯では不運な出遅れから6着、人気を裏切ってしまいましたが、前走阪神牝馬Sでは鞍上にモレイラ騎手を迎え貫禄勝ち。今回も継続騎乗で、ここへきて再び上昇気流に乗りつつあります。

マスクトディーヴァはルーラーシップ産駒、大種牡馬であるキングカメハメハの血を引き、自身もキセキ・ドルチェモアらGⅠ馬を輩出しています。特に芝中距離では抜けた成績を残しており、今年に入ってからの産駒の重賞勝ちは3勝。ソウルラッシュ、ディスペランツァ、そしてマスクトディーヴァと全てマイル戦です。この馬のルーラーシップ×母父ディープインパクトの配合はキセキ、ドルチェモアと同じでGⅠ制覇への期待を感じさせます。また上記の馬だけでなく、ナイトスラッガー、オールデュスヴランなど、鞍上モレイラ騎手と産駒の相性は非常によく、今年の桜花賞馬ステレンボッシュも母父ルーラーシップでした。

VMは過去10年で4歳馬が9連対の好成績。牡馬の現4歳世代はその実力を疑われ、パッとした成績を収めることができていませんが、牝馬路線に限ってはリバティアイランドを筆頭になかなかの粒ぞろいです。そんな中、秋華賞で上がり最速使い2着となったマスクトディーヴァ。この馬の最大の武器は何といってもその末脚で、出走した過去7戦すべてにおいて上がりタイム3位以内に入っており、3回の上がり最速をマークしています。直線の切れ味勝負になりやすいVMに対する適正は非常に高いと言えるでしょう。
余談ですが鞍上のJモレイラ騎手は、来年のJRA短期免許を取得するために「今年のJRA・GⅠを2勝以上」という条件を課されています。6月5日までの滞在期間の中であと1勝、もっともハードルの低いと思われるVMは死に物狂いで勝ちに来るのではないでしょうか?
マイルGⅠ戦線の新たなニューヒロイン誕生へ期待しましょう。

亡き思いを継ぐ快速牝馬

昨年マイルCS覇者、覚醒の時を迎えたマイラー牝馬がGⅠ2勝目を狙っています。ナミュールのデビューは11年9月の中京競馬場新馬戦、デビュー勝ちを決めると東京マイルの赤松賞で連勝、阪神JFは4着に敗れましたが年明けチューリップ賞を制しクラシック候補に挙がるも、期待された桜花賞で10着大敗。その後オークス、秋華賞と善戦するも距離適性に苦しみ、暫らく勝利から遠ざかる日々が続いていました。転機を迎えたのは昨年の秋、富士Sで久々の重賞勝利を飾ると、次走マイルCSでは並みいる強豪マイラーの牡馬たちを一蹴し、鮮やかなGⅠ初勝利を挙げました。年末~年明けにかけては海外への重賞へ挑戦しましたが、ここでも好走を見せ、帰国初戦のGⅠ・VMに照準を合わせてきました。

ナミュールはハービンジャー産駒、過去のVMではノームコアがコースレコードを記録して勝利しており相性は良さそうです。マイルから2200mくらいまでの芝中距離の実績が多く、近年ナミュールの他にはローシャムパーク、ファントムシーフ、チェルヴィニアなど、一瞬の切れ味だけでなく長い末脚を使える馬が多い点が特徴的です。障害重賞でも活躍馬を輩出していますね。また馬主別でみるとキャロットファーム所有馬で60勝以上挙げており、ナミュールの他には重賞2勝のドレッドノータス、京成杯を制したプロフェット、フェアリーSを勝ったフィリアプーラらがいます。

この馬の競走生活における現時点でのハイライトは、昨年のGⅠマイルCSに他ならないでしょう。急遽のアクシデントでテン乗り参戦となった藤岡康太騎手を背に、牡馬たちの馬群を割って豪快に差し切りを決めました。この勝負根性には目を見張るものがあります。クラシック年と昨年は、出遅れや不利を受けるケースが目立ち、その実力を発揮できずにいたことも多かったですが、マイル戦に限って言えば今回出走する馬の中では実績・素質ともに最上位といえるでしょう、東京マイルは2歳時の赤松賞、3歳時のチューリップ賞で勝っており、得意の舞台でもあります。
陣営側及び鞍上の武豊騎手も自信を覗かせており、海外帰りでも十分な仕上がりを迎えたと判断して問題ないと思います。人気を背負ったままの激走で、GⅠ2勝目へ向け待ったなしです。

その逃げ足、GⅠ級につき

マスクトディーヴァによるコースレコードを更新した昨年のローズS、この時4人気から12着に大敗したコンクシェルが、逆襲の牙を剥きGⅠ参戦です。昨年3月のアネモネSで2着好走と、クラシック時からそれなりに期待を集めていたコンクシェルですが、昨年夏に急成長を遂げました。大きな要因は脚質の開花、坂井瑠星騎手が初めて手綱を取った1勝クラスで逃げの競馬を敢行、これがハマると次走の2勝クラスも逃げ切りで連勝と、一気に評価を上げてきました。ところが次走の乗り替りから、各騎手みな番手の競馬に徹し、3戦連続で二桁着順と不甲斐ない結果に。しかし、年明け初戦の初音S(3勝クラス)で岩田望来騎手に乗り替わると、再び先行策からの逃げ切りで快勝、勢いそのままに前走GⅢ中山牝馬Sでも見事に逃げ切って見せました。

コンクシェルはキズナ産駒、現役時代も種牡馬になってからもその名は広く知れ渡っています。マイルGⅠにおいては3勝を挙げ昨年引退したソングラインを輩出。また今年に入ってから産駒の活躍が非常に際立っており、現時点で重賞7勝と自身の記録である年間8勝を早くも破りそうな勢い。先日の皐月賞を制したジャスティンミラノは日本ダービーでも有力視されています。牝系を辿るとガリレオの名前がありますが、この名前の入ったキズナ産駒にはバスラットレオンやキャリックアリードなどがいます。私見ですが、キズナと欧米血統の配合はジャスティンミラノ然り、良馬が多い気がしており、その傾向は牝馬であっても変わらないでしょう。

この馬はデビュー当時から周囲を気にする素振りを見せるなど、気分屋の一面を持っており、基本馬群はNGだと思います。前々走から鞍上を務める岩田騎手も成長を感じながら「先行するとすごく楽しそうに走る」とコメントしており、今回も恐らくハナを主張してくるでしょう。
今回は他に逃げ馬も見当たりませんし、VMは過去逃げ馬が穴をあけてきた歴史を持つことは先述したとおり。相手関係は一気に強化されますが、逃げることさえ叶えればその可能性は一気に広がります。鞍上のGⅠ初制覇も含め、期待をかけてみても面白いのではないでしょうか。

激走予感させる「風の女神」

前走阪神牝馬S3着、デビュー当時からその素質を高く評価されてきたモリアーナが、完成の時を迎えGⅠ獲りへ参戦です。22年東京マイル戦でデビューすると、続く札幌で連勝。下級条件を走ったのはここまでで、以降8戦は全て重賞で使われてきました。昨年9月のGⅡ紫苑Sで待望の重賞初制覇を飾っています。この馬の臨戦過程を改めて振り返ると、2歳時の阪神JFで12着に敗れた後は桜花賞を見送り、クイーンC・NZT・NHKマイルとマイルクラシックを経験。夏を挟んでからの秋~年明けの重賞3戦は全て2000m以上の重賞で使われており、一風変わったローテーションでVMに挑んできています。前走の阪神牝馬Sで再びマイルに戻すと、外差しの馬場で上がり最速の32.9秒の末脚を使い、勝ったマスクトディーヴァに0.3秒差の3着でした。

モリアーナはエピファネイア産駒。何度か当noteでも取り上げてきましたが、エフフォーリア・デアリングタクトといった大物を近年輩出しているのは誰もが知るところであり、早熟傾向が強い面も広く知られていると思います。マイル含めた芝中距離ではここ数年常に種牡馬リーディングの上位に位置しており、東京マイル重賞は21年のアルテミスSをサークルオブライフが制しています。母ガルデルスリールはJRA芝1600、1800で1勝ずつ挙げており、彼女の父はダイワメジャー。エピファネイア×母父ダイワメジャーの配合は、今年クラシックで期待されているアルセナールなどがいます。エピファネイア産駒は気性難の馬が多いことでも知られ、モリアーナもまた育成段階から気難しい一面見せてきました。昨年のNHK以降はベテランの横山典弘騎手が主戦を務めてきましたが、ノリさんは実に上手くこの馬を操縦し、競馬を教え込んできたと思います。

昨年秋から2000m以上の中距離を使われ、テンの速い競馬をしてこなかった訳ですが、前走で一度マイル重賞を経験してレース感を取り戻させたのは非常に大きかったと思います。前走は出遅れてしまい、位置取りの面から2着のウンブライルに届かなかったですし、マスクトディーヴァにも力差をはっきりと見せられた形になりました。スローペースになったことも不運だったと思います。
モリアーナはデビュー時から比べると馬体重も20㌔以上嵩み、いかにもなマイラー体型に完成されてきた感があります。瞬発力勝負になれば、ここで逆転の目も十分に期待できるのではないでしょうか。
東京マイル戦は乗り慣れたベテラン騎手に軍配が上がりやすいのは先にお伝えしたとおり。練達の鞍上に導かれ、「風の女神」を意味するモリアーナの、疾風の如き差し脚に期待しましょう。


おわりに

以上ここまでが、ヴィクトリアマイル攻略noteとなります。今回も最後まで読んでいただいた方がいたら、厚く御礼申し上げます。
今回の推奨馬は時間と文字数の関係で4頭とさせていただきましたが、他にも有力馬はいますね。上位陣ではウンブライルはやはり有力で、阪神牝馬Sでは今回推奨したモリアーナにしっかり先着しているわけで、川田騎手の継続騎乗もありやはり買っておきたい1頭です。
また穴目ではライラックが気になっていて、前走は馬体重減で調整に失敗した感がありありでしたが、ここで馬体が戻り追切も順調であるのなら抑えておきたいと思っています。鞍上は戸崎圭太騎手ですから、東京マイルは彼の庭、先週のNHKマイルでも人気薄のロジリオンをねじ込んできました。
それから強力な末脚が武器のテンハッピーローズ、左回り巧者のルージュリナージュも、大穴枠として紐に入れておきたいと思っています。
今回上位2頭が実力・人気共に抜けており堅めの決着が予想されます。ただVMは過去大きな波乱を何度も呼んでいるGⅠであり、仮に2頭が馬券内に来たとしても、もう1頭は穴馬が来て大荒れ決着になる可能性もあります。
当noteが読んでくれた方の一助になることを切に願っております。
そんなわけで今回はここまで。次週、オークスでお会いしましょう。
ではまた…。


今回参考にさせていただいたサイト


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