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【日記】もう二度と訪れない日

日曜、久々のオフ。朝早く目がさめて、暑いなと感じた。窓を開けて換気しながら掃除と洗濯。コインランドリーの待ち時間に薬局で生活必需品を買い足したり、文藝を読んだりした。遠野遥の筆致と構成(「私」視点の臍曲がりな物の捉え方と長尺の挿話)はわかりやすいもので、ある意味通り一辺倒に思えてしまうけれど、逆を言えばその型を維持したまま読者を取り込む軸の強さは彼にしか為し得ない技だと思う。午後にコーヒー屋。近所のシンガプーラが遊びに来ていた。人懐っこすぎる散歩猫。ミャオミャオと鳴きながら居合わせた客の足の間を行ったり来たりしていた。

店を出て、まだ明るいしなと思い初台方面まで歩いて『OH! MY BOOKS』へ行った。古いアパートの一室でやられている本屋で、店主の女性はファッション業界から一か八かで転身して個人経営のセレクト書店を始めたばかり、らしい。かねがねインスタの投稿をチェックしていて、フェミニズムや映画、ブラック・ミュージック関連の書籍をメインに展開していたのでいつか来ようと思っていた。それこそ、知ったきっかけはケンさんが「なんか面白い本屋できたらしいよ」と言ってたからだ。リトル・シムズが流れる店内をしばらく棚ごと眺め、ひらいめぐみさんのエッセイ「転職ばっかりうまくなる」を買った。5月末で正社員の身から外れる今の自分にぴったりだと思ったからだ。店主の女性と会計時に少し歓談して、夕陽の照らす甲州街道をまた歩き、駅前のマックでバニラシェイクを買ってから自宅に帰った。

そのまま家で溜めていた視聴リストを少し消費して、夜になり大人しく家で納豆を食べて夕餉の時間を過ごした。23時頃には寝てしまった。

月曜、副業の日。昼前に起きて向かう。新規指名の予約があって、一度会いたかったと言っていた。これは度々、というより8〜9割方の確率で言われるのだけど、例にもよってこの時も自分が童顔なせいで「やばい」「犯罪なんじゃないか」と連呼された。店年齢はともかくとして来月で27歳になるのに、多分店にいる誰よりも見た目が若い。

店Aを出てから店Bへ向かう予定だったけど、なんだか疲れてしまって、旅行の支度もしてないしなと思い、当欠の連絡を入れてから、WateringHoleへ向かった。40代であのハイテンションとフットワークの軽さを維持できるYuyaさんのことは心底尊敬している。福岡にあるビアバー・BEER KICHIの周年ビールが今年は7液種作られているということで、明らかに作りすぎだろと思うのだが、その中でも「ごくキューンクエストII(この名前もなんなんだ)」と「神の飲み物」をそれぞれ頼んだ。前者はフルーティーで飲みやすいヘイジー、後者はパイナップルやグァバを投入した低アル2.5%のスムージーサワーでほぼジュース。一時間弱居座ってから、混み始める前に会計して店を出た。

夜、納豆にわかめやアボカドなどを混ぜたもの(最近というか、夏場になると毎年これしか食べなくなる)と、ほたてバーを食べた。旅行の支度を済ませて、22時半頃に寝てしまった。

火曜、朝起きる。雨予報だったが今日は持ちそうとのことで、傘は置いてきた。12時に御茶ノ水駅で本指と合流して、12時半の新幹線で群馬へ。高崎駅に着いてからまずレンタカーをピックアップして、本指の運転で昭和庁舎を目指す。館内を見学しているときに、新しい靴を履いていたからか、段差を踏み外して階段から一瞬落ちそうになり、しばらく心臓がばくばくした。群馬の旧県庁で頭打って死にたくない。床のタイルが一部小学校のそれだった。

チェックインの15時より少し前になって、ホテル周辺に到着。「少し早すぎたかな」と言っていたが、本指が駐車場に入る手前で道迷子になって、結局15時すぎに白井屋ホテルの中へ入ることになった。写真で見る限りわりかし広い施設のように見受けられたので、てっきり駅から少し離れたリゾート地的な場所に位置しているのかと思いきや、前橋駅からほど近い住宅町に突如ぽっと出てきた、みたいな感じで少し拍子抜けしたのだけど、一歩中に入れば全く同じ群馬県内とは思えないような洗練された空間が広がっていて、とにかく終始うわあ、としばらく感嘆の声をあげることしかできなかった。

予約したジャスパー・モリソンのプロデュースルームは2階にあり、カードキーで扉を開けると優しく柔らかな木材の匂いが鼻をかすめた。「顧客はみな宝物のような存在だから、私たちの宝箱にそっとしまいたい」というコンセプトには若干サイコパスの匂いを感じざるを得なかったけれど、フルで木材を使用していながら硬質な印象はなく、むしろ椅子に至ってはこれが木なのかと疑うほど滑らかで、長時間腰かけても臀部が痛くなることもなくゆったりと寛ぐことができた。

一休みして、ホテルのある中心地から少し離れた場所にある「世界の名犬牧場」へ。でかい犬たちと少し戯れて、散歩コース、なるものがあったので学生スタッフに声をかける(県内の動物学校が運営しているらしく、スタッフのほとんどが学生バイトだった)。30分縛りで600円。さまざまな犬の中から大人しそうな中型犬のスピッツ(♀)を選び、パーク内をのんびり散歩。が、あまりにもマイペースなので、すぐに園内の丘の方にある腰かけに座って、本指が抱っこさせているのを隣でかわいいねえと撫で続けた。

30分経ち、スタッフの元へ返すため歩こうとひざから一度おろしたものの、全然歩く気力がないらしく、結局受付まで抱っこで送り届けた。あとからサイトでそのスピッツの情報を見たら「だっこが大好きな女の子」らしい。好きというか、もはや犬としての自我を失っているほどだった。

車でホテルへ戻り、車を停めて周辺を少し散歩する。前橋ガレリアはあいにく何も展示が催されていなかったけれど、蔦が自由に、けれどもガラス張りのショールーム自体を邪魔せずに伸びているのが美しかった。ホテルに戻って、ルームサービスのピルスナーをあけ、会話しながら少し寛ぐ。明日の予定をおおかた決め込んで、階下のディナー会場へ。


夕食は地元群馬の食材をふんだんに使いながら、前橋市の都市指針である「めぶく。」をコンセプトに、郷土料理インスパイアで創意工夫を凝らしたプロの手技が随所に光るフレンチコース。前菜からメインまで本当に今まで味わったことのないほど五感を刺激する料理ばかりで感動したのだが、中でも群馬名物の「おきりこみ」から着想を得て、薄く剥いた大根で薔薇を作り、うどんをソース状にして周りに出汁をかけた「OKIRIKOMI」と、同じく郷土料理である焼きまんじゅうを風味はそのままクリームペーストにし、一口ブリュレのように仕上げたデザートには目を見張った。東京にも、それこそ今住んでいる地域は食に磨きをかけた店が多く、カルチャー誌やSNSで度々取り上げられるのだが、そこでは得られなかった「安心」と「感動」と「発見」の3つの軸が均等に与えられていて、すごく居心地の良い時間だった。

酒に関しては、本指はペアリング酒のコース、自分は単品で都度頼んだのだが、普段ワインに親しみがあまりない自分でもスタートのシャンパンが美味しくてしっかりその後2〜3杯おかわりを頼んでしまったし、それ以降に選んだクラフトビール数種も群馬のブルワリーから卸されたもので観光気分をしっかりと味わうことができ、非常に満足した。

食後、室内の風呂でシャワーを浴びてから、飲み直したくてホテル向かいのコンビニへ行く。ついでに酔い覚ましのアイス。22時になるとレアンドロ・エルリッヒのライティングパイプが、時間ごと赤や青に変色していて、部屋からその光景を一望できるので二人でじっくりと観賞した。疲れと酔いがまわって、0時前には寝てしまった。

水曜、群馬二日目。朝食前にホテルサービスのフィンランドサウナを予約していたので、8時頃起きる。サウナ室は館内を出て外階段をのぼった先にあり、寝っ転がりながら過ごせる仕様になっていた。普段圧倒的にサウナ<銭湯なので、耐性がなくほんの短時間しかいられなかったけれど、ロケーションも相俟って良い一日の切り出しとなった。

朝食はホテルのラウンジで。ブルーベリージュースとりんごジュースがショットグラスで一杯ずつに、セットのコーヒー、水、ポトフと液体だらけでどれに手を付けるべきか最後まで迷っていた。し、食事もプレートに小盛りの創作おばんざいが数種乗るタイプのもので、優柔不断殺しだと思った。が、味はもちろん昨夜のディナーさながらに一流のそれで、普段朝・昼をほとんど食べずに過ごしている自分でも胃が開いたように食べすすめられるほどだった。特に焼き鮭なんて、子供の頃親が祖父母に合わせてよく出していたので、その時の記憶が蘇り懐かしい気持ちになった。

メインはパンか米かで選べたのだが、自分も本指もパン一択。これも併設のベーカリーが製造しているものを提供しているらしい。お腹いっぱいだねと話していて一口しか手をつけられなかったのだが、最後に食べたクロワッサンがバターの香りがふんわりと感じられ、それでいてくどさはなく、朝食メニューの中で一番おいしかった。昨年ロンドンでGWを過ごした時、朝昼兼用で泊まっていたホテルの一階にあるカフェのクロワッサンを買って食べていたのだが、それに見た目も味も少し似ていた。

ベーカリーで自分土産用のパンをそれぞれ買ってから(もちろん先述のクロワッサンも買った)、館内を再び探索して、チェックアウト。フロントの目の前にある蜷川美花や塩田千春の作品に目を奪われながら、一泊二日の白井屋ホテルを後にする。正直、自分のお客に誘われていなかったら、値段的に一生来ることはなかっただろうし、今後だってもう一度自分で稼いだ金を持って訪れる日がくるかわからない。それでもまた来たいと思わせてくれる得難い体験の数々が埋め込まれた名ホテルだったし、文字通りのイノベーティブな素晴らしい鑑賞・宿泊体験を提供してくれる場所だった。

外に出ると雨が降っており、急ぎ足でレンタカーに乗る。昨夜ディナーコースのサーブを担当していたスタッフから聞いた焼きまんじゅう屋に寄り、自分はお腹いっぱいで買わなかったが本指が一本注文するのを見ていた。その後はJINS PARK、太田市記念美術館・図書館を巡って(テラス席が雨天で閉まっていたのが唯一残念ではあった)、桐生方面の高速に乗って同じく勧められたFarcry Brewingへ。ガレージ調の作りで、中は二階建ての1階がブルワリー、2階がセレクトショップという変わった作りだった。自分はラガーを頼み、運転手の本指はミルクシェーキを注文していた。湿っぽい雨の日にきりっと苦味の効いたラガーが染み渡る。ぷくりと曲がったグラス、どこかで見たことあるなと思ったらTYONでサーブしているグラスがそれだった。スタッフの人と少しクラフトビール関連の話をしてから、セレクトショップでクミンとイチジクの粒マスタードと、花椒正油のドレッシングを買い、店を出ることにした。

レンタカーを返す頃には夕刻になっていて、歩いて高崎駅まで戻り、寒かったのでスタバで休憩してから新幹線に乗車。結局、二日間の中で自分が出したのは東京駅までの電車賃と土産代、スピッツの散歩コース料金ぐらいなもので、おおかた本指に払ってもらっていた。総計考えたくないぐらいだ…と思うが、素直にただ感謝している。正直なところ、不快だったことが全くなかったわけではないのだけど、そこはまあこういう仕事の中で出会っている以上は想定の範囲内だし、相手も自分のことをあくまでも大事にしたい、というのは日頃から伝わってくるので、そこまで気に病んでいない。信頼関係の上でなければそもそも行ってないだろうので。

とはいえ、東京駅で解散するなり一気に疲労がのしかかってきて、無理、と吐きながら帰路をたどった。低気圧のせいでもある。シャワーを浴びて冷蔵庫の納豆etc.を食べる。落ち着く味だ。そのまま22時頃に寝てしまった。

木曜、店Bの出勤。身体は全然疲れていたが、スタジオ撮影があるので行かなくてはいけなかった。指名客を受けてからタクシーでスタジオへ。若い男性のカメラマンだったが、服を脱いでの撮影とかは別に抵抗なかったし、向こうもそれを専業にしているので終始淡々としていた。自分はこと撮影において、右と左がわからなくなることが多く、「いや、そっちは右」「首もうちょっと左……それは右だね」と言われることが頻繁にあるのだが、こういう種の人間は一定層いそうだなと思いつつほとんど会ったことがない。

ありがとうございました、データ楽しみにしてますね、と礼を言って店に戻り、また仕事。夕方に退勤して肉麦へ寄り、オーナーの伊藤さんがいつの間にか用意していたキャンピングチェアでアマクサソナーの「神の飲み物」を飲む。優雅な一人時間だ。帰宅してからは夜までぼんやり過ごし、納豆食べて、寝た。

金曜、昼前に起きる。夢でヨッシーみたいな姿形の大蛇を、母がエグい殺し方で処分していた。目を抉り取って耳毛を毟って…と逐一説明するのでグロかった。昨日と同じく店Bへ。仕事仕事仕事旅行旅行(w/ 客)仕事仕事、の連鎖でかなり疲れていて、シフトより前に帰っていいですかとスタッフに尋ね、早退した。予約がない限りダメと言われることはまずないのでその点は楽だし、この仕事が「自由出勤制」と謳われる所以なんだろうと思う。

18時頃に下北沢。義姉妹と飲む予定だったが、その前に時間があるので北沢小西へ寄った。小西はご夫婦で長年やられている街の酒屋のようなボトルショップで、海外・国産問わず種類豊富に取り揃えておりいつも目移りしてしまう。アマクサソナーの「SOTE」をその場で開栓。大人のファンタオレンジ。置いてあったグルメカルチャー誌の荻窪特集がなかなか良かった。

19時前に義姉から着いたよと連絡があって、老舗焼き鳥屋の「駅」へ。来るの何年ぶりだろうか。団体で来ていた赤面のおじさんに「ブスが三人…」とぼやかれたが「そんなわけないでしょうが〜」と笑いながら反論した。店前の喫煙所で別のおじさんに聞いたら、小学校からの付き合いらしく、「仲が良いのか悪いのかわかんねえよ」と言っていて、なんだかとても良い関係値だなと思った。

義姉妹のことは、全然嫌いじゃない。嫌いじゃないのだけど、共通の話題が義姉の結婚相手である自分の兄と両家のこと以外にあまりなくて、何をトークテーマに持ち出そうと勘案した結果、当たり障りのないつまらない会話になってしまう。自分はそれが多分すごく嫌(生産性のない時間自体が嫌)で、スタートから2時間ぐらい経って「あ、帰りたいかも」と思った。一度帰りたいと思ってしまったら絶対に切り上げないと気が済まないタチなので、22時頃になって「このあと予定あって」と断り、タクシーで最寄駅まで戻った。帰りしな、今度兄と交えて実家の近くにある焼き鳥屋で飲みましょうと誘った、これは本心。

しかし直帰は憚られるので肉麦へ。消化不良が起因してか、なんだか強い酒が飲みたくなって白ワインをサーブしてもらう。酔っていて味の記憶がないけど、インスタのストーリーに「軽やか〜」と書いていたのでそうだったんだと思う。0時頃に帰宅して風呂にも入らず気絶した。

土曜、朝腹痛で起床する。細切れの痛みがじくじくと続く。下剤投与したかと思ったがその形跡はなく、昨日食べた中の何かがあたったかなと思った。ハタショーさんと肉麦で焼肉会をするつもりだったが、泣く泣くリスケの連絡を入れる。楽しみにしてくださったのに申し訳ない。伊藤さんにもキャンセルの旨をDMで伝えた。夕方頃まで這うように過ごし、夜になって多少ましになり一杯だけ飲みにコーヒー屋へ行った。狭い店内に犬が3匹いて、供給過多だ…と思った。隣のパン屋がたまたままだ空いていたので、長葱のフォカッチャを買い、健さんからは野菜農家に送られてきたなかからファラフェルに使わない葱坊主を250円で売ってもらい、意図せず今夜の葱パーティーが確定した。

お腹がまだじんわり痛いので、早めに帰宅して、葱坊主は揚げ焼きのフリットに、フォカッチャはトマトとモッツァレラとベーコンを挟んでサンドイッチにした。胃が弱っていたのと、思ったよりもサイズが大きく、ちまちまと食べすすめ、23時頃に完食して寝た。

日曜、胃腸は無事快復。昼に支度してネイルへ。いつもの中目のサロンかと思ったら今月のみ恵比寿になっていたのをすっかり失念していて遅れてしまい申し訳なかった。東横線の冷房が寒かった。何のデザインにするか全く決めていなくて、両爪をコーネリアス「Sensuous」でまとめてもらった。ネイリストさんとの会話のなかでおすすめの韓ドラ『私の夫と結婚して』を教えてもらって、中盤からはサロン設備のテレビで流してくれたのでずっとそれを観ていた。韓ドラ、普段はまず選ばないけれどなかなか面白い作品だった。マイリストに追加。それにしても韓ドラ役者のビジュアルの良さは世界的に見ても頭ひとつ抜けている。整形だけかと思いきや、役作りのためのストイックな減量も取り入れているらしい。

あと1キロ落としたら自分は40キロを切ることになる。人生で一番軽かった体重が、拒食症全盛の14歳で叩き出した37キロだった。もともと最高体重が63キロだった自分にとって、「痩せていることこそが美しい」という思想、自分が食を楽しむ人間であるということとは反比例して、全くもって消えない。

夜、『薬屋のひとりごと』完走。思ったよりも面白く見応えがあった。また葱坊主となすを揚げる。揚げ物のバッター液を小麦粉1:片栗粉1:水1にしてからすべてが上手くいくようになった。あっつあつを「はっふ」って言いながら食べ、ビールで流し込むのが愉悦である。納豆食べ、23時頃に寝た。

月曜、振替休日。しかし副業先をはしごする日。日中の店Bでは本指の客が2週間ぶりに来て、いつものごとくかわいいかわいいと甘やかされ続け、なぜかまたレッドブルの差し入れをもらった。豆乳の方が嬉しいよ。もうずっと指名してくれているけど、未だにプライベートで会ったことはない。GW何してたの?と聞いたら「だいたい飲みに行ってた」と言っていた。いつもそうじゃんね。別に一度くらい店の外で会ってもいいかと思うけど、いいタイミングがない。

夜からは店Aへ行ったが、連休最終日で街全体に人通りがなく閑散としていて、暇だった。稼げないなら家帰りたかったなと思う。23時頃に家について、サラダチキンとほたてバーを食べ、1時頃に寝た。

火曜、連休明け出社。結局GW中にパソコンを開いたのはほんの短時間だけで、通知とタスクが溜まりまくって整理するのにめちゃくちゃ時間がかかり、「やることがありすぎて何ひとつできていない」モードへ突入した。今持っている企画、正直採算とれないし、スケジュール管理が難しく、ぶん投げたいと思う。退勤して店Aへ。旅行ぶりの本指が予約してきて、白井屋ホテルのパティスリーから取り寄せた焼き菓子のセットからいくつかラッピングして渡した。喜んでくれてよかった。終電で帰宅して、3時頃に寝た。

水曜、出社。夕方から取材へ。仕事でヘマをしてめちゃくちゃ凹む。自分に落ち度があって、反省するしかない。だけど、これだけ今まで風呂敷を広げてきて、たった一人のひと言から人間性を否定されてしまうことが悔しくて、クソがと呟きながら部屋の中でアイコスをバカバカ吸った。そもそも好きな人と密にかかわりたくてこの仕事をやっているのに、どうして苦手な分野までつっこんで挙句傷ついているんだろうか。寒さと相俟って心臓の痛い時間がずっと続いた。服とか小物とか床に撒き散らしたまま1時すぎに気絶した。

昼間にコーヒー屋のオーナーであるケンさんのインタビュー記事を見た。GW中に来たTimberlandのクルーで、歯切れの良い若者でよかったよ〜と彼らのことを褒めていた。記事を読んで、初めて他人の作った記事で「好きな人とかかわり続けたいという姿勢」をことこの仕事においては持ち続けたいな、と思った。ケンさんはアパレル畑出身の人なので、自然とそちらのメディアから注目されていて、自分がケンさんに取材することはまずないだろうとは思うけど、違う畑でいながらも改めてモチベーションになり得るものを持つことの大事さを実感した。と同時に、「すべての人は対等に、というコンセプトに基づいて装飾を全て外した」という文面を読んで、自分がここに来たくなるのは単純に近所だからとか好きな酒があるからとかではなく、「誰かに」よりも「ケンさんに」聞いてほしいことがあるからだなと再確認した。フランクさ、距離感のなさが人柄や普段の会話の節々に滲み出る人だと思う。人を惹きつける雰囲気というのは、素質であり培ったものの顕れだ。だから、来年からしばらくこの店に来られなくなってしまうことが、想像するだけでも泣きそうになるくらい寂しい。それまではせめてできるだけ足を運びたいし、存分に常連面をしたい。

水曜、朝、心を病んで起床失敗。バーガーキングのハンバーガーを4つ同時に食べる大過食に陥った夢を見た。昨夜のこと、大人なのでぎり泣いていないが、悔しさと悲しさで胸が痛む。あ〜早くこんな仕事はやめて海外に行きたい、なんだか一気にどうでもよくなってしまったな。まあどれだけ叱られても、もう二度と戻ってこない場所になるし、そうしたくて辞めるからあまり気に病む必要はない、と精神をなだめる。昼に出社して上司と面談。「おれももっとひどいやらかしをしたことがある」とフォローしてくれて、あまり深く詰められることはなかったけれど、反省しつつ顛末書を作ることになった。

特に日記を読んでくれている/読ませてもらっている人の中で度々、「いつか会ってみたい人」「勝手にファンのような気持ち」と綴ってくれているのを見かける。そんな言葉は、あまりにも恐れ多いと思う。実際の自分は本当に中身のない空洞人間だ。こうして仕事で大やらかしをしてしまっては勝手にぼっかり凹んでいるし、10年以上経っても治療する気のない摂食障害を抱えていて、食と体重へのこだわりが抜けていない。摂食障害は元来子どもの病気だというのに、この先30、40と年を重ねても治せそうになく、恥ずかしい。

それに自分はもう2〜3年ほど風俗の仕事をしている。たぶん、その点が「会ってみたい人」と思わせる要素になっているのかもしれないけれど、風俗の仕事が向いている人というのは、裏を返せば「それ以外の一般仕事が不向きな人」だ。もちろん、会話のスキルや指名につなげるための駆け引き、営業やキャラクターの確立など、すべてが猿でもできるようなことではない。それもそれで矜恃として誇っていいと思うし、自分は風俗仕事が編集者より何より最も向いているという事実に対して、そこまで卑下しているわけでもない。ある程度の嫌なことには耐えられるようになったし、他者への耐性が良くも悪くもついている。でも、この仕事は期限付きで、時効がくれば手元に残るのは金銭を除いて何もない「天職」とは比喩できるが「手に職」とは言えないのが現実だ。だから、働く以上は常に雲をつかんでいるような感覚と切り離せない。自分にはこの先残せるものが何もないのだから。

明日は始発で札幌へ。続きはまた次回。