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5年前5%が今は45%

3月26日の日経新聞で、「銀行変身(下)働き方アップデート 「退職者カムバック」歓迎 みずほ、中途採用数が新卒超え」というタイトルの記事が掲載されました。新卒主義が強かった銀行においても、人材の流動化が進んでいることを取り上げた内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

新卒で入行し、定年や出向まで勤め上げるのが当たり前だった銀行の働き方が変わり始めた。2023年度の3メガバンクの採用全体に占める中途採用の比率は半分に迫り、みずほフィナンシャルグループ(FG)は初めて中途採用数が新卒を上回る見通しだ。

「一緒に案件をやったりしながら縁をつないでいきたい」。三菱UFJ銀行ソリューションプロダクツ部が2月に開いた立食形式の懇親会で、大嶋幸一郎常務執行役員は乾杯の挨拶をした。参加したのは現役行員約40人に加え、中途退職した同部経験者約50人だ。

このイベントはアルムナイ(卒業生)ネットワークと呼ぶ、退職者との交流の場を持つ取り組みの一環だ。20年に立ち上げたみずほでは、交流サイトに1300人以上の退職者が登録する。

かつては「退職が決まった瞬間に他人扱いだった」(メガ銀から転職した外資系金融機関幹部)。今は様子が違う。三井住友銀行からベンチャーキャピタル(VC)に転職後、同行に再入行した40代行員は「辞めてからも変わらず付き合ってくれたことで再入行を決意した」と話す。

各行は銀行業務を知る即戦力として重視しており、ホームページには「カムバック歓迎」の文字が躍る。三菱UFJ銀は23年度に15人、みずほFGも持ち株会社・銀行・信託銀行の合計で20人がカムバックした。

みずほFGのアルムナイ担当者は「カムバックにつながらなくても卒業生から刺激を得ることに意味がある」と話す。起業した退職者向けにグループのVCとの窓口を設けたほか、退職者と協業した新規事業の立ち上げも目指す。

メガバンクの採用は既に新卒中心ではなくなっている。23年度の中途採用数は現時点で計約1100人。新卒も含めた同期間の採用数に占める割合は45%と半分に迫る。5年前は5%に過ぎなかった。特にみずほはグループ3社で550人の中途採用者を確保しており、発足後初めて新卒の採用数を上回る見通しだ。

中途やカムバックで入る人材には、硬直した組織や文化の打破も求められている。個人向けサービスなどではネット系金融機関に押され始めている。みずほの担当者は「コンプライアンスやシステムの部門で、金融機関以外の経験をした人が業務のやり方を変える事例もある」という。

銀行の変化の背景には、長く勤める人だけが重用され、新卒入行年次が背番号のようにつきまとう文化のままでは新たなアイデアの創出や無駄の削減は進まないとの危機感がある。働き方のアップデートも銀行の競争力を左右する。

もう二十数年前になりますが、当時学生で就職活動の時に意見交換していた知人が次のように話していました。

「○○銀行(当時の有力行)から内定が出た。出身大学でどの程度の役職にまでなれるかがだいたい決まっているようで、自分の場合は地方支店の支店長まで。つぶれはしないだろうから、がんばって勤め上げて支店長を目指すことになるのだろう」

当時は、上記の感覚が当たり前でした。同記事と照らし合わせると、今ではずいぶん変わった印象です。

同記事からは、改めて3つのことを感じました。ひとつは、人材獲得競争が(既に激しいですが今後も)ますます激しくなりそうだということです。

同記事のような動きが、能動的な人材戦略発なのか、受動的な環境適応(新卒が取れなくなったから次善の策として中途採用かカムバック採用に進んだ)なのか、どちらの側面が強いのかわかりませんが、いずれにしても後者の側面が多少なりともあるのは確かだと想像します。

銀行は、新卒主義、年功主義が比較的強いと言われていた業界です。その業界でさえ、新卒採用を前提にできない環境に置かれるほど、特に若手の人材獲得のハードルが上がっているということです。

もちろん、人材戦略に決まった正解はありません。「自社の企業戦略から、人材調達は新卒採用に特化するのが自社の人材戦略」などもありです。そのうえで、特定の人材層や調達ルート、特に新卒人材に特化するやり方は、これからさらに他社との激しい競争の中で自社を選んでいただくという視点が必要になることを前提として、採用戦略に臨むべきだと言えそうです。

2つ目は、アルムナイ(卒業生)の積極活用の視点がますます有効になっていくということです。

以前の投稿「アルムナイ(卒業生)採用を考える」でも、自社を一度退社した人材と接点を持ち続けて協業したり、再雇用したりすることの意義を考えました。自社を退社したということは、本人にとっての何らかの限界や本人の職業生活とのミスマッチを感じたということです。

そのうえで、退社した人材が自社と積極的にかかわりたいということは、別の形か別のタイミングで自社の限界を変えていくことに寄与する意思やビジョンが、本人の中でできているということです。同記事が示唆するように、自社が限界と思っている事象や慣習を別の切り口から突破していく有力な人材源になり得ると考えます。

3つ目は、変化のスピードを認識する必要があることです。

同記事では、メガバンクの採用における中途採用の割合がほぼ半分の45%となっていて、5年前は5%だったとあります。逆に言うと、5年前までは新卒採用がほぼすべての割合を占めていたということです。この5年間で急速に中途採用の流れが強まったということになります。

上記で、二十数年前の新卒主義、年功主義全盛の頃の出来事について触れましたが、20年間同じペースで少しずつ変わってきたわけでもなく、ここ近年の変化スピードは加速していると想定できそうです。

背景には、若手人材の母数の減少や国外流出の流れが加速していることが一因としてありそうです。この流れは今後もしばらく収まりそうにはありません。

人材調達に限りませんが、環境変化が必然となる要素はその変化スピードが加速していくという前提で、できる準備・対応を進めることが大切だと思います。

<まとめ>
人材採用のあり方について、環境変化、自社の人材戦略の観点から、再評価する。

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