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【ショートショート】八番入口

「豪邸だね、アニキ」
「ああ」
「こういう家はセキュリティに金を使ってますぜ」
「そうだろうなあ」
「無理せず、もっと小さい家を狙いましょう」
「しかし、金持ちほど現物しか信用しないってこともある。純金とかな」
「純金。いいですねえ」
 ふたりの盗人は、あたりが暗くなるのを待って、豪邸に近づいた。
「アニキ、表札の下になにか書いてあります。宅急便の方は一番入口へ」
「昔なら酒屋米屋肉屋八百屋魚屋なんかが出入りしていた勝手口だな」
「家庭教師の方は二番入口へ」
「子ども部屋に通じているのか。誘拐が怖くないのかな」
「案外、バカかもしれないですね。トリマーの方は三番入口へ」
「ペット部屋か」
「家族は四番入口へ」
「リビングだな」
「楽団の方は五番入口へ」
「どこまで金持ちなのかね、この家は」
「見学の方は六番入口へ」
「ここにしましょうか。下見ってことで」
「バカ。監視装置に映ってしまうだろうが」
「あ、そうか。泥棒の方は七番入口へ」
「なんだと」
「うれしいですねえ、あっしらの入口もあるじゃありませんか」
「そんなとこから入ってみろ、すぐセコムが来るぞ」
「そんなもんですかね」
「裏庭を調べるぞ」
 アニキと手下は豪邸を大回りして、壁を這い上り、裏庭に侵入した。
「わっ」
 落とし穴に落ちた。
「ようこそ、八番入口へ 用心深い泥棒様、ですって」
「チキショー」
 とアニキはわめいた。

(了)

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